案件4 きみにあいたい 5
ここは日本で有数の部数を誇る、新聞社の資料室だ。
雑誌記者、しかも三流どころのゴシップ記事専門の週刊誌の出版社に勤めている萩原が、なぜこんな所にいるのか。
それには少し順を追って話さなくてはならない。
萩原は週刊Nの記者だ。フリーのライターになるなど夢のまた夢で、いつも記事にならないネタばかり追って、編集長にお小言を頂戴している身だった。
こっちも金にはならないので死活問題だったりするのだが、この仕事がなかなか生き甲斐になっていて止められなかったりする。
いま萩原の関心を占めているは、事件そのものもだが、一連の事件の関係者である、一人の少女についてだった。
近藤愛美。
萩原が初めてその少女に出会ったのは、緑ケ丘高校で起きた連続行方不明事件を追っていた時だ。
可愛い顔と、人を喰ったような台詞の数々に、すっかり魅了されてしまったと言うと、変態チックだろうか。
ワイドショーでも数回取り上げられたので、緑ケ丘高校で学校関係者が、次々と行方不明になった事件を覚えている人もいるかもしれない。
営利誘拐や新興宗教の狂言だの、色々な憶測が飛び交ったが、事件は有耶無耶のまま、尻切れトンボに終わっている。
そして萩原が独自のルートで調べ上げた入魂の、真実に肉薄し得た記事は、編集長以下編集部全員の反対に合い、呆気なく握り潰され日の目を見ることはなかった。
〈現代の神隠し〉
緑ケ丘高校を囲む十二の祠と、隠された十三番目の祠の謎。
消えた十一人の人間と、祠の数の奇妙な符号。一枚を残して、全て割られていた校内の鏡。被害者の身に何が起こり、彼らは何処にいたのか。
萩原の記事が人々の目に触れていれば、多分間違いなく彼は頭を疑われただろう。神隠しなど、そんな非科学的なものがある筈がないという理由においてだ。
それなら科学的手法とやらで、この事件の真相を解き明かして欲しいものだ。警察当局は口を濁して、時間の流れが人々の記憶を消し去るのを待っていただけではないか。
萩原は繰り返し被害者とその家族にコンタクトをとったが、被害者達本人の口からは、何一つまともな証言は得られなかった。
行方不明となっていた十一名が、全員無傷で発見されたあの日の朝。
何かが割れる物音と、砕けた鏡を発見して用務員が通報したのがきっかけだった。