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案件4 きみにあいたい 4

 電子版を画面に広げていた萩原は、危うくその記事を見逃すところだった。同じ三面に前日の夕刊に出た、三崎高校で起こったガス爆発の続報記事が掲載されている。

 一面のトップを飾るのは、政治家の汚職に関するもので、贈収賄の事実が明るみに出たにも関わらず、今も議員職にあるこの男の顔なら、人々の記憶にも残っているだろう。

「何か面白いものが見つかったか?」

 加納は煙草を銜えたまま、中腰のままで固まっている萩原に近付いて、背後から自社の新聞の電子版の広げられたページを覗き込んだ。手には携帯灰皿を持っている。

 萩原は茫然自失のていで、椅子に腰を落とした。

「これが同姓同名じゃないんなら、俺は死んでいる筈の人間と会った訳か?」

 萩原は瞼を手の平で撫で、そのまま口元を覆うようにして一人言ちた。

 近藤俊夫(としお)・由美子・愛美まなみつよし。死亡記事の名前の文字を確かめるように、握っていたボールペンの尻でなぞる。

 出火の原因は煙草の不始末。一家全員焼死。

「その近藤愛美って子な。同じ日にガス爆発のあった三崎高校に通ってたんだ」

 萩原は加納の言葉の重要性に気付き、ハッとして顔を上げた。

 確か彼女自身も、出身は三崎高校だと言っていた筈だ。

 三十半ばにして髪に白い物が多く混じり始めた加納は、苦虫を噛み潰したような顔でどこか遠くを見ている。口に銜えた煙草の灰が長くなっていることに、気付いていないようだ。

 三崎高校で起きたガス爆発の事件なら、萩原も当時耳にした覚えがあった。それについさっき、電子版の新聞記事でお目にかかったばかりだ。

 ページをめくると、夕刊の一面に……これだ。

〈三崎高校でガス爆発〉小見出しが踊っている。

 埼玉県立三崎高校で、九月十二日の午後一時三五分頃、一年B組の教室で漏れたガスに引火して、小規模の爆発が起こった。教師一名と生徒六名が死亡。四人が重体の模様。

 現在警察で、詳しい原因を調査中とある。

「そのガス爆発事故の取材をしたのは俺なんだけどな。ちょっと色々気になって調べてみたのさ。その内、同じ日に起きたこの火事にいきあたったんだが、長く事件記者をやってると、おかしな事件にもぶつかるもんだな」

 加納孝明は自嘲するような笑みを見せて、ようやく気付いたように煙草の灰を灰皿に弾き落とした。

 萩原の脳みそが、フルに活動し始める。手元のメモ用紙に三崎高校・ガス爆発と書き加えた。

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