案件3 魔女裁判 49
「あなたの記事。読ませてもらったわ」
近藤愛美は、怒りを隠そうともせずに言い放った。その言葉に萩原も、少しは良心の呵責を覚える。
著名人の子女の多く集まる、都内でも有名な私立の女子校で過日、一連に及ぶ変死事件が続いた。
合わせて全部で十一人にも及ぶ人間が、死んだことになる。たかだか三ケ月の間にだ。
いやその内の一人は、いまだに行方不明であり、事実死んだという確証はない。事件は不審な点を持ってはいるが、自殺という方便で収まりがつけられている。
「糾弾すべきは、あなた方マスコミのやり口よ。少女達は自分の罪を償う為に自ら命を断ったのよ。それでいいじゃない。秘すれば花。真実を暴くことは、深い悲しみを与えるだけ。どうしてそれが分からないの?」
記事は、萩原の思いもよらない反響を呼んだ。人々の反応は、面白半分の興味本意でしかなく、萩原の記事が意図したものには程遠かった。
目の前にいるこの少女についても、仮名ではあるが記事にしてある。
退学してしまった近藤愛美の足取りを、元クラスメイト達から聞き出して家を突き止めたのも、もとはと言えば謝罪したい気持ちがあったからだ。
しかし萩原の口から出るのは、言い訳と自己を正当化する言葉だけだった。
「記事を書いた俺が悪いんじゃない。俺はただ真実をこの社会に提示しただけだ。受け手である社会が誤った認識の元に、この事件を弄んだことは、確かに残念なことだ。ただ、俺の記事は間違えてはいなかった。ジャーナリストとしての使命を全うしたと思っているよ」
彼女はそれにすげなく返した。
「あなたの記事は、人々の欲望を満たしただけよ。ある少女達の交換日記の文を掲載したことは、行き過ぎだったと思いなさい。そもそもあんなものを、あなたは一体どうやって入手したのよ?」
耳の痛い話だが、雑誌に掲載されたあの手記こそが、変死事件に潜む闇を端的に捉えていたのだ。勿論プライバシーの問題から、少女達の名前は仮名にしてある。
聖蘭女子のある四人の少女達の交換日記を、事件発生頃から約二ケ月分を全面掲載することは、週刊Nの編集長以下全員が賛成した。
彼らと萩原の思惑は、その時点でズレていたのは勿論だ。特ダネには違いない。
独占記事のお陰で部数の倍増に貢献した萩原は、思わぬ大金が転がりこんで、珍しく懐が暖かかった。
しかし自分の記事が及ぼした影響が、自分の思惑を遥かに外れていた為、それを素直に喜ぶことはできなかった。
「ある少女から託された。としか言えない」
近藤愛美は同じクラスメイトだったのだから、その四人の少女とも面識があるだろう。彼女達を知っている者が記事を読めば、それが誰だかは一目暸前のことだ。
なぜあの少女が、ノートを萩原に渡したのかは分からない。