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案件3 魔女裁判 47

 もう愛美まなみには関係ない。退学届を出した時点で、愛美と学園の繋がりは消えたのだ。

 クラスメイトもブランド趣向の制服も、贅を尽くした校舎にも未練はない。

 学園生活じたいは、それなりに充実したものだったし、親しく付き合っていた者も二、三人はいる。愛美は二年二組だった。リーダー格的な、目立つグループを中心にクラスは一つにまとまっていた。

 良家の子女だろうが、著名人の娘だろうが、同じ年頃の女子高生など似たようなものだ。彼女達は、お嬢様という言葉の響きから受けるような、高慢さや我侭さは持っていなかった。

 自殺した少女達(あえて自殺という言葉を使う)も含めて、学園の生徒達はマスコミが書き立てているような人間ではない。

 みんないい子だ。ただ心の奥には醜く汚い、どす黒い感情を持っていたのは間違いない。

 彼女達が特殊なのではない。そんなもの誰だって持っている。

 怒りや憎しみや嫉妬、傲慢さ。

 人は心の闇に、制御不能の獣を飼っている。気付いているか、いないかの差異こそはあれ。

 

 ただし、少女達のまるで仮面でも被っているかのような友情や、仲良しグループには、愛美は馴染めなかった。

 まるで秘密の花園を、覗き見したような気分を拭い去ることはできない。

 あの学園は、夕璃ユリという少女を頂点とした、一つの小さな世界だった。

 ガラスの温室の中で、少女達は伸びやかに育てられている薔薇のようなものだ。使い古された陳腐な表現があるではないか。奇麗な薔薇には棘がある。

 あの学園に君臨していた、今はもういない少女……。生徒達は彼女達の女王の死を――行方不明ではなく、それはあくまで死だった――を悼んでいる。

「あなた自身を代償に、あの学園は守られたのよ。皮肉なものね。あなたの不在で、あなたを至上とするあの世界は完全に崩壊する筈だったのに……。あなたは神話の人として語り継がれる」

 愛美は東大寺とうだいじには聞こえないように、小さく一人言ひとりごちた。東大寺は聞こえていなかったのか、聞かぬふりをしているのか、満足そうに指についたタレを舐めている。

 愛美は静かな表情を浮かべたまま、正面に顔を向けた。

 路地を足早に歩いてくる男の姿に目を止めると愛美は微笑を浮かべて、東大寺の耳許に顔を寄せて囁いた。東大寺が、慌てて中華まんの数を確認しているのが、おかしい。

――地獄じゃ、安らかに眠る訳にはいかないわよね。夕璃様……。

 夕璃は十分な罰を受けたに違いない。

 しかし残された者にとっては、彼女は超越者として半永久的な崇拝の対象となるだろう。理不尽だとは思わない。すべては終わったのだ。



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