案件3 魔女裁判 44
夜明けの白々とした空気の中で、消えた蝋燭の煙が筋となって立ち昇っている。黒魔術のグロテスクな祭礼の意匠も、朝の光の中で見れば滑稽な感じだった。
終わったのだ。
これこそ当然の報いだろう。闇を手懐けるなど、普通の人間にはどだい無理な話なのだ。
夕璃が何処に連れていかれたのかは、紫苑にさえ分からない。しかし、まず間違いなく彼女は、永遠の苦しみを味わうことになるだろう。
死は無だが、彼女は死すら許されず、地獄を彷徨うのだ。
愛美は、悪臭と背徳の残り香から顔を逸らすと、倉庫の扉を開きに行った。そのまま外に出て、思いきり伸びをする。
長かった。三ケ月間ですっかりお馴染みになった聖蘭女子学園の校舎が、目の前に趣深い佇まいを見せている。
仕事の終わった解放感に、愛美は明るい笑顔を浮かべて紫苑を振り返った。その顔が不意に曇る。紫苑は跪きながら、指を組んで祈りを捧げていた。
彼の信じる神へ。それとも、夕璃の為だろうか。
自分の名前が分からない。そう告白した時の紫苑の表情には、言葉では言い表せぬ深い心理の錯綜があった。紫苑の瞳に覗いていたのは、深い闇だ。紫苑も何かを抱えているのだろうか。
愛美は、問いかけたい気持ちを押さえて、静かに彼を見守ることを選んだ。
*
この日。聖蘭女子学園は、例年よりも随分早い終業式を迎えた。
マスコミ連中がハイエナのように、この学園の動向を嗅ぎ回っているような中での、異常な状況ではあった。マスコミに扇動されて、世間の目は完全に事件の本質から外れていた。
少女達の変死よりも、生前の売春行為の方に論争が向けられている。死んだ少女達には気の毒なのか、反対にありもしない尊厳でも得たのか、不審死は覚悟の自殺だということになった。
その年頃ゆえの無軌道や連鎖的な衝動、潔癖さによるものに違いないと……。
誰も疑いの目を向ける者はいなかった。
人々の考えは、キリスト教では自殺は大罪だという事実には及ばないらしい。いや彼女達は既に姦淫の罪を犯しているのだから、それ以上は罪を問われないのだろうか。
とにかく、綾瀬が裏で手を回した結果ではないようだ。全ては闇の中に丸く収まった。依頼主はさぞかし喜んでいることだろう。
愛美は、退職届ならぬ退学届を提出して、意気揚々と言うには人目を憚りながら、通用門から聖蘭女子学園を後にした。
マスコミを気にしながら足早に路地を抜けて、公園に面した大通りに出る。