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案件3 魔女裁判 42

 完璧であるがゆえに、ほんの小さな歪みさえ許せないのだろう。

 だからこそ、同じ学園の生徒であり彼女の従順な信奉者である少女達を、裁きという正義の名のもとに断罪せしめたのだ。

 確かに少女達の罪は軽くはないだろう。この際、道徳観念云々は言わないことにする。しかし、それは法律の名前で裁かれるべき問題だ。

「それに対する答えは、勿論NOです。イブリム・エ・フェラ・タクタス。我が呼び声を聞き、願いを叶え給え。いでよ、地獄の王の従順な使徒たるケェフィウスよ」

 渦を巻く濃い瘴気が、部屋の密度を粘り気のあるジェルに変える。腐臭と強い〈死〉の芳香。愛美まなみは吐き気とともに、全身が総毛立つのを覚えた。

 薄暗かった体育倉庫は、黒い闇に包まれる。しかし、蝋燭の灯りは用を為さなかった。

 炎と闇は、決して相入れることはない。自然が作り出した闇ではない。太陽の光でさえこの闇を照らすには不十分だ。魔法陣上の空間に、突然降って湧いたかのようにそれは出現した。

 怪物。化け物。

 否、西洋という精神風土で育まれた、悪魔という無様な生き物が発する存在感に、愛美は圧迫されそうだった。

 その姿を表するならば、あらゆる獣が混然一体となった集合体だ。何かのようであり、何とも呼べない……モノ。

 

 夕璃ユリは、自分が呼び出したその悪魔に命令を与えようとしたが、紫苑しおんの深い溜め息が遮った。

「悪魔など、軽々しく呼び出すものではありません」

 再び口を開いた紫苑は、雄々しいだけでなく神々しくすら見えた。

「我が名は紫苑。汝が主人地獄の王であるサタンと盟約を交わす者なり。我が命を聞き、今すぐこの場を立ち去れ」

 愛美がしばらく共に暮らした山犬神の右近と左近も、人には視えない異形の生き物だった。彼らは山を守る存在であり、人間と違った観念上に生きる、崇高さと邪悪さを兼ね備えたモノだった。

 荒魂あらみたま和魂にぎみたまという二つの特性を合わせもつ、自然神たる所以ゆえんだ。しかし悪魔は、人間の理解の範中外にあるのは同じでも、ただただ邪悪さのみしか感じられない。

 悪意の塊。おぞましい化け物と呼ぶ以外なかった。

 悪魔は、腐った泥の沼から沸き上がる、有害ガスのような泡だった声で紫苑に問いかけた。

 脳に直接浸透するような不快なその声には、知性の響きが感じられた。決して、愚鈍な化け物ではない。

――汝ノ真実ノ名ニオイテ誓ウカ?

 紫苑が一瞬、口ごもるのが分かる。

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