案件3 魔女裁判 39
その惨状を目にした男のその時の様子や感想は、必要がないので横に置いておく。
とにかく彼は、事実を学校関係者に誰一人として洩らすことなく、莫大な資産と豊富な人脈によって、秘密裏に処理することに成功した。
しかし彼は、この事件の解決を疎かにした訳ではない。最も確実で最も的確なある事業へ、事件解決の白羽の矢を立てたのだ。
日本の裏社会の一部に、名を知られる私的なその事業団体は、俗に〈何でも屋〉と呼ばれている。
人殺しから特殊な事件の捜査、命が幾つあっても足りないような難事業を解決する能力は、警察やその他の私的団体とは比較にならないと聞く。
それが事実間違いないことを、のちに彼は知ることになる――警察が役に立たなかったのは、確かだ。
この事件を解決する際、学園にとっての不名誉な醜聞が明るみに出たが、一切の真実は闇の中に葬り去られた。
人の噂も七十五日。暫くすれば世間の目も、この学園で起きた事件から離れてしまうだろう。学校で起きた多くの事件・事故は、例えどこにどのように記録されても日常的に取り沙汰されることはない。
日々繰り返される、あらゆる事件の中に埋没してしまうのは想像に難くなかった。そして事実、人々はすぐにその、学園の破廉恥極まりない事件を忘れた。
《礼拝堂内部で殺されていたのは、イギリス国籍の三十一才の独身の英語教師、ミシェル=ハワード。死体は微細な肉片となり果て、彼の所持品とともに礼拝堂内に飛び散っていた》
どんな道具を使えば、これほどまでに人間の身体を粉砕できるものなのか。常識的な判断を備えた人間には、理解できない悪夢に映ったことだろう。
この学園内に、英語教諭のハワードを中心にした売春組織があることを突き止めたのは愛美だ。
その時、既に一人目の犠牲者が出てしまった後だったことは、悔やんでも悔やみきれない。
ハワードを総元締とする売春組織の存在を知る者は、それに関与していた生徒だけだ。その所為で事実が日の目を見るのが大幅に遅れ、犠牲者は留まることを知らなかった。
からくりさえ見えれば、事件は単純、かつ明確な意思の下に行われていることは明らかだ。
そして、一連の事件に携わる者は……。現代に生きる魔女と呼ぶしかないだろう。
「馬鹿な人。あなたが造り出したこの世界は、しょせんガラスの温室だわ。いくら美しい花を育てても、世間に出た途端、踏みにじられて手垢に塗れていくのよ。純粋培養なんて、免疫力を低下させるだけ。あなたはこんなちっぽけな世界を守る為に、とんでもない過ちを犯したのよ。償いはしなければね」




