案件1 そして誰かがいなくなる 12
近藤愛美は転校初日で、友人でも何でもない不登校の芽久のことを、心配するような感じのいい子だ。
朋子さえ嫌がらなければ、芽久が不登校になった原因かも知れない出来事を聞いて欲しかった。
そして第三者である愛美に、万里江や朋子の所為ではないと気休めでもいいから言って欲しかった。
芽久は、テストではいつも学年一位をとる程頭がよく、教師の覚えもめでたかった。それに引き換え、万里江の順位は後ろから数えた方が早いし、朋子は隠れて煙草を吸ったりするような子だ。
芽久の母親は娘に悪影響を与えると、万里江達を毛嫌いしていて、電話さえ取り次いでくれない始末だ。朋子は少し不良っぽいが、根は悪い子じゃない。親友の自分がいうのだから、間違いない筈だ。
芽久のことは関係ないなんて朋子は言っているが、本当は万里江よりも心配していて、芽久の家まで押しかけて行ったらしい。結局芽久の母親に追い払われてしまい、芽久と顔を合わせられなかったようだ。
本当に芽久は不登校なのだろうかという疑問が、また万里江の胸の中に湧き上がる。
体調を崩して早退した家庭科の倉持先生が、そのまま産休に入ったという話は納得ができるが、三年の英語担当で、生徒指導もやっている樋口が入院中というのは解せない話だ。
この学校は呪われていると、自分で言った言葉が急に現実味を帯びてくる。
何かがおかしい。
あの日、万里江と朋子は芽久の為を思ってやったのだ。
何事にも消極的過ぎる芽久が、初めて自分で何かしようとしたのを、万里江達は友人として喜んで手伝ったのだ。それを余計なお世話というのかも知れないが、それ以来、芽久は学校に来ていない。
あの日芽久に何があったのか分からないが、自分達にも責任があることは確かだ。
明日、近藤愛美にその話をしてみようか。彼女なら口も堅そうだし、何よりも転校生である分先入観がない為、きちんと話を聞いてくれそうだ。
万里江は、ふと誰かに見られているような気がして顔を上げた。階段の踊り場にある大きな姿見に、キャンバスを数枚抱えた自分の太り気味の身体が映っている。
辺りには誰もいない。
――タ・ス・ケ・テ
どこからかそんな声が聞こえ、万里江は驚いてキャンバスを床にぶちまけた。
「やだ、誰よ。からかわないでよ」
万里江はオロオロと辺りを見回し、再び鏡を見て驚いた。
――芽久。




