案件3 魔女裁判 37
盲目的な狂信者こそ、最も厚い信奉者たる。それは狂気ではなく高尚な理念だ。
彼女にとって〈この学園を汚す者〉は〈裁かれて〉当然であり、それを許されているのは〈選ばれた〉自分でしかない。
このあまりにも自己中心的で、近視眼的な思考は、彼女にとっては紛れもない事実なのだ。これを覆すことは至難の技だろう。
愛美はそれを、知り過ぎるほどに知っている。狂気にとり憑かれた人間を、これまでに何人も見てきたのだ。
自分もまたその一人であったことを、愛美は忘れていないのだから。
「自分が絶対者などと。思い上がりにも甚だしいわ。今度はあなたが罪を償う番よ。この社会の法に照らして断罪する権限は私にはないけれど、闇に生きる者の一人として、この学園に悪魔を解き放ったあなたを罰するわ」
キリスト教の威光も地に堕ちたものだと言うと、紫苑に怒られるだろうか。
まがりなりにもミッションスクールであるこの学園内で、幽鬼・悪鬼の類が闊歩する姿を愛美は嫌というほど見ている。
鬼と表記しているが、愛美が普段目にしている物とは別物だ。鬼は日本人独特の概念から生まれた、その観念に即した姿をしている。
同じ異形ではありながら、この学園内に現れるそれは魔物と呼ぶ以外になかった。
もちろん愛美に、魔物たちをどうにかする力はない。視えるだけだ。呪術の根本的な理論の原理が違う所為だというのは、むろん紫苑の弁だ。
自分には不可侵な領域のぶん、学園内にはびこる悪意の念と、吐き気を催す醜悪な化け物の姿に、愛美は憎悪と激しい憤りを感じるしかない。
その魔物たちが学園内を横行するようになったのは、目の前にいるこの少女の所為に他ならなかった。
「今日は、警告をしにきたの。臨教として赴任しているヨハン先生に言われてね。彼は私の仕事仲間よ。一晩猶予を与えるわ。事件の幕をどう下ろすか、ゆっくり考えなさい。選ぶ道なんてないでしょうけどね」
ヨハン=マクドナルド。
紫苑の偽名か、それとも本名なのかは知らないが、今度の事件は彼に一任されている。愛美は援護というより、形ばかりのパートナーに過ぎない。それで十分だと思う。
女子校ということと、年末に東大寺が足首を捻挫してしまい、無理が利かなくなってしまったことで、愛美にお株が回ってきたのだ。
ちなみに東大寺の怪我の原因は、前回の事件の時、三階から飛び降りた愛美を庇った為である。
紫苑は本職の聖職者(らしいが、詳しいことは分からない)だ。