案件1 そして誰かがいなくなる 11
瞬間移動や催眠術の他に何ができるのかよく知らないが、超能力も使い勝手が難しいのだと愛美は感じた。
他人の目に映る自分の姿や、他人が触れられたくないと思っている心の傷を、見たくなくても見せられる東大寺が少し哀れに思えた。
超能力は使い方一つ間違えれば、ひどく危険な代物にもなる。
他人より勝る力をもちながら、犯罪に手を染めることなく自分の力をコントロールしている東大寺を、愛美は改めてスゴイ人だと感じた。
東大寺は愛美の思惑も知らず、明日学校行ったら俺と愛美ちゃんがデキてるって信雄がクラスでバラしてたらどうしようと言いながらニヤついている。
やっぱりよく分からない人だ。
そんなことは、最初から分かりきったことでもある。東大寺は「今日の捜査は、これで切り上げよう」と言った。
東大寺はこれから部活に出るつもりらしい。無論、バスケ部だ。
「紫苑さんが、夕食作ってくれるらしいから、遅くならないでね」
東大寺は勿論だと強く頷いて、愛美と裏庭の前で別れると体育館の方に走って行った。
まるで同棲でもしているような響きだと、愛美は一人で赤くなる。
愛美は一旦教室に鞄を取りに戻ると、下駄箱で靴を履きかえた。万里江と信雄から話を聞き出すことと、あの鏡の行方について調べるのが明日からの課題だ。
*
万里江は、美術部の顧問に頼まれて美術室から部室まで、使わないキャンバスを運ばされていた。
美術部員は万里江を含めて五人という弱小部で、そのうち三人までが幽霊部員だ――滅多に部活には顔を出さない。火曜と木曜の部活に出てくる一年は、風邪で休んでいるらしく今日は万里江一人だった。
二度目の往復をしていた時、ふと窓の外を見ると、クラスメイトが帰り支度をして校門に歩いて行くところだった。
転校生の近藤愛美だ。
緑ケ丘とはレベルが雲泥の差の、私立の浦羽学園から転入してきた変わり者だ。いじめが原因だろうとクラスでは専らの噂だが、少し話をした感じではそうも思えない。
言葉使いが丁寧で、大人しそうで控え目なところが芽久に似ていて好感がもてる。
他の子だったらすぐに声を掛けられただろうが、転校してきたばかりで殆ど親しくもない相手と途惑っているうちに、愛美の姿は見えなくなった。
向こうは万里江に気付いていなかったが、挨拶ぐらいすればよかったと後悔した。