案件1 そして誰かがいなくなる 1
近藤愛美は大きく息を吐いて、校舎を見上げた。
新設校だけはある。緑ケ丘高校は冬の澄んだ朝の陽射しの中で、堂々とした威容を誇っていた。古いだけが取り柄の三崎高校や、自然をふんだんに取り入れた浦羽学園とは違って、近代的な造りになっている。
愛美の横を数人の緑ケ丘高校の制服を着た生徒達が、通り過ぎて行った。八時三十分からのH・Rには間に合いそうだが、その前にまず職員室に行かなければならない。
転校初日に危うく寝坊して遅刻しそうになった愛美だったが、何とか間に合ったようだ。
職員室はA棟の一階。愛美の頭には、緑ケ丘高校連続失踪事件の概要を記した書類の、高校の見取り図が叩き込まれている為、迷子になる心配はない。
愛美は二ケ月ほど前、家族と家を失い、SGAと言う会社の創立者の綾瀬と言う男に拾われた。
様々な事件を乗り越えた愛美の前に待っていたのは、SGAのメンバーとして生きる道だった。
選んだのは愛美自身だ。後悔はしていない。そして、ついにSGAのメンバーとしての初仕事が、綾瀬から与えられた。
潜入先は、ここ二ケ月あまりで次々と学校関係者が校内で失踪している緑ケ丘高校。愛美は綾瀬から、書類を渡され概要を頭に叩き込むように言われ、きたる転入初日を迎えた訳だった。
SGAにはパートナー制度があり、取り組む事件によっては二人から三人のメンバーが任務につくことになっているらしい。と言っても、SGAのメンバーは愛美を含めて五人しかいないが。
学校関係の場合臨時教員として紫苑も任務につくことがあったが、彼は今手の離せない事件を抱えている為、愛美のパートナーには遥が選ばれた。
遥という名前の人物に心当りのなかった愛美は綾瀬に問い質したが、彼は笑って、君もよく知っている人物だと答えただけだ。
メンバーの名は本名なのか、通称なのか分かりにくい。長門と巴は、フルネームで聞いているが。
秘書の西川の名前がはるかなのだろうと推測していたが、校門付近で肩を叩かれ振り返った愛美は驚いた。
「東大寺さん」
愛美は驚いて、目を剥いた。
この少年、いつもおかしな所に現れる。
今日はいつかの学ラン姿ではなく、ブレザーの制服を着ていた。その胸の校章は、緑ケ丘高校のものだ。
「今回は、俺は全面的に援護やから、頑張ったってな」
サポート? 愛美は訳が分からず、驚いた顔を崩さなかった。
「あれ、綾瀬の奴言わんかった、俺と組むってこと?」
東大寺は、職務怠慢だと怒ったように腕組みしている。愛美は頭が混乱した。
「確か、遥ちゃんならちょうどいいだろうって、あの人・・・」
愛美のその言葉に、東大寺は思わずその場に膝を折った。
「あのアホ親父。人をちゃん付けで呼ぶな言うとるのに」
まさか、そういうことだったとは・・・。