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需要と供給

作者: 津崎鈴子

肩の力を抜いて、お読みくだされば幸いです。


ちょっとしたショートショートです。

 いきなり目の前に現れた現実を、私は受け入れきれなくて混乱していた。


「 よう、お前! 聞こえなかったのかよ? 」


私の目の前にいる、真っ黒い生き物は私を怒鳴りつける。


周りをきょろきょろしても、その生き物に誰も驚いていない……どころか


存在を認識していないというか……。


吊り上がった目、尖った耳、鋭い牙……極めつけはこちらを威嚇するように


うごめく尻尾。その様子に、硬直する私。


子供の頃に童話で読んだような悪魔の姿そのものだった。


「 よう、耳悪いのかお前? 」


こちらの動揺などお構いなしに悪魔は話しかけてくる。


「 な、なんなのよ…… 」


ようやく口をついて出てきた言葉に悪魔は、目の前でくるりと一回転した。


「 だから、お前にとってはいい話なんじゃねえの? 」


ギラギラとした眼でニヤリと微笑んだ。


「 お前の恋を取り持ってやろうってんだ。年頃のお前には言うことなしじゃねえ?」


悪魔が、そんな突拍子のないことを言っている。


 ふつう、それは天使の仕事なんじゃないの? 


ある程度冷静になって考えて、そんなうまい話はないと思いなおす。


悪魔に関わるなんてロクなことがない。


よし、と、私は、悪魔を無視することにした。


あーーー、聞こえない聞こえない。ここにいるのは幻だ、悪い夢を見ているんだ。


とっとと立ち去るに限る。私は、大股で歩き出したが、悪魔が付いてくる。


なんか、しつこいキャッチセールスみたいだ。


「 お、おい!お前!!! 最後まで話を聞けよ!!!」


「 世の中にうまい話はあるはずがないのよ。さよなら 」


そう言い返す。すると、悪魔は怒って説明し始めた。


なんでも、最近は死ぬ予定でない人間が勝手に寿命を繰り上げてあの世にやってくるようになって


あの世の人口が爆発的に増えて人口過密状態になっているらしい。


 それなのに、この世の人口(悪魔の言うところの魂の受け皿)が減ってきていて


必然的に生まれ変わりの大渋滞が起こっていて困っているらしい。


あの世の土地も無限ではなく、どこもかしこも大渋滞で住処を確保するのも大変になってきている


って、まるでこの世の住宅問題みたい。


縁結びの神やキューピットも休む暇もなく働いていても、この世の人口増加には遠く及ばず、


天国と地獄に死者を振り分ける閻魔様の裁判所には、裁判待ちの大行列ができていて、


閻魔様が忙しすぎてとうとうブチ切れたらしい。


「 そこでこの際、天国も地獄も一旦は垣根を取り払ってこの世の魂の受け皿を増やす為に


人間の恋を取り持ってやることになったってわけだ 」


 なるほど。高齢化社会とはいっても出生率は年々減ってきているし、殺人事件だの自殺だのと


亡くなる人も増えてるらしいし、あの世も大変だってわけかと納得した。


「 で、お前手っ取り早く誰と結婚したいのか言ってみな 」


とは言っても、悪魔相手に、甘い言葉をささやかれても不安がある。


「 その代わりに魂取られるとか、こっちが圧倒的に不利な条件じゃないでしょうね? 」


「 馬鹿言ってんじゃねぇよ。あの世が人口増えて困ってるのにお前連れてってどうすんだよ 」


と、睨み返された。それもそうか。


「 本当に何の代償もないのね? 」


「 その代わり、とっとと子供作れよ。出来るだけ沢山な 」


その言葉に、少し悩んでダメもとである人の名前を口にした。


今、人気絶頂のアイドルの名前を。普通の方法じゃ、私とはまるっきり接点はない。



しかし、数か月後。



私はその人と運命的に出会い、まるで何かに取りつかれたかのような猛烈なアプローチの末に結婚。


しばらくの間、新聞、週刊誌、テレビなどのマスコミの話題をさらい有名になってしまった。


今、おなかの中には小さな命が宿っているらしい。しかも双子なんだそうだ。



「 どんな子達に育つんだろう? 」



私は、お腹を撫でながら、あの時の悪魔の顔を思い出し、期待しつつも少し不安な気持ちが


頭をよぎった。









大昔に書いたものを加筆修正したものです。

自サイトに掲載していましたが、サイトを閉じて

たまたま掃除してたら出てきたので、懐かしくなってアップしました。

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