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第5話


第5話

"出会い"


「(まずは動きを観察したいところだけど…そんな暇は無いわね)」


茜は飛びかかってきた1体の捕食者の首を斬りつける。


軽く斬りつけただけであったが、捕食者の首から上は綺麗に無くなった。


「(恐ろしい切れ味ね…)」


予想以上の切れ味に、思わず驚いて刃身を見つめる茜。


しかしその時、首が無くなった捕食者が、茜に掴み掛かった。


「しまった…!」


仕留めたと思っていた敵に腕を掴まれ、反応が遅れてしまう茜。


捕食者は茜の首に手をかけ、喉を潰そうとした。


「くぅっ…!この…!」


その手を、斬り落とす。


茜は本体から離れた後も首にくっついたままの手を振り払うように地面に捨て、首と片腕が無くなった捕食者の胴体を縦に両断した。


その攻撃には、生命力が高い捕食者も流石に耐えきれずに絶命する。


しかし、敵の襲撃はまだまだ続いた。


「(1体1体をゆっくり倒してたら埒が開かないわね…。一撃で仕留めなきゃ…)」


後退しながら、先頭の捕食者に集中する。


そして捕食者が襲い掛かってきた瞬間、茜は刀を頭上から振り下ろした。


捕食者は縦に真っ二つに分かれ、当然動かなくなる。


「私、才能あるかも…」


自分の剣術に自惚れる茜。


そんな彼女の頭を、風香がショットガンの銃口で軽く小突いた。


「痛っ」


「邪魔」


「あんもう…せっかちなんだから…」


茜はいたずらっぽく笑いながら、風香の射線を空ける。


「………」


風香は倒す順番を一瞬で見極め、発砲を始めた。


捕食者は次々と胴体に風穴を開けられ、戦闘不能にされていく。


その時、茜はある事に気付いた。


「(風香ちゃん。さっきから胸元しか狙ってないわね…?)」


風香が狙っているのは、人間で言う所の心臓の部分。


すると、残り2体まで数を減らした風香が、ショットガンに弾を込めながら戻ってきた。


「ねぇ風香ちゃん…」


「弱点」


「え?」


「胸だよ、胸」


「いやん破廉恥ねあなた」


「………」


「銃を向ける相手、間違ってるわよ」


「多分合ってる」


「えー」


その時、捕食者の1体が、2人に急接近する。


しかし、一瞬で茜に首を切断される。


「だから、それじゃダメなんだってば」


風香はそう言って、捕食者の胸部に銃口を突き付け、引き金を引いた。


その一撃で、頭が無くなっても動きが止まる事の無かった捕食者が動かなくなる。


「奴らは患者と違って頭が弱点じゃないの。多分心臓」


「あら、どうしてわかるのかしら?」


「勘」


「へぇ…」


実際、心臓を撃ち抜かれた捕食者は、地面に倒れたまま痙攣しており、再び立ち上がるような様子は無かった。


「だから、刀は不利だと思うよ?」


「まぁ、患者よりもしぶといのは確かね。…でも」


茜は最後の1体に近付いていき、両腕を斬り落とす。


続けざまに、両足も同じように斬り落とす。


最後に頭を切断し、茜は刀を鞘にしまった。


「こうすれば、死ぬでしょ?」


「当たり前だよ…」



捕食者を全滅させた2人は、死体と捕食者しか見当たらない住宅街の中を進んでいく。


捕食者との遭遇は初めてであるハズの2人であったが、既に動きや攻撃パターンは見切ったらしく、脅威となる事は無かった。



「…茜」


何体目かはわからないが、捕食者の1体を仕留めた所で、風香が茜の名前を呼ぶ。


「どうしたの?」


「今、そこの路地に人が居た」


「…え?」


茜は半信半疑で、風香が指差している方向を見る。


その時には人の姿は見えなかったが、代わりに、2体の捕食者が走っていく姿を見た。


「…行きましょうか」


「…うん」


2人は、その捕食者を追い掛けた。




「早く走って!奴らが来るわ!」


「待て…!行き止まりだ…!」


捕食者から走って逃げている梨沙と恵美が行き着いた場所は、袋小路だった。


「そんな…!」


「どうするんだ!奴ら…かなり居たぞ…!」


「そんなの言われなくたって…!」


そこにやってくる、2体の捕食者。


「何なのよ…本当に…何なのよこいつら…」


「ダメだ…逃げ場が無い…!」


おぞましい歯が並んでいる口を、大きく開く捕食者。


「いやぁぁぁぁッ!」


響き渡る梨沙の悲鳴。


その時、1発の銃声が鳴り響き、2人に襲い掛かった捕食者が突然ばたりと倒れた。


「間に合ったみたいだね」


「あら、美少女発見」


現れたのは、風香と茜の2人。


2人に気付いた捕食者は振り返るなり、風香に頭を飛ばされて、茜に胴体を真っ二つにされた。


突然の事に、呆然とする2人。


「さて、とりあえずホテ…安全な場所に行きましょうか」


「安全な場所…?というか、あなた達は…?」


「歩きながら説明するわ。ついてきてね」


「は、はぁ…」


「(ホテって何だ…?)」


梨沙と恵美は、困惑を隠せないまま、茜と風香についていく事になった。



「あの…」


歩き出して間もなく、梨沙が口を開く。


「なーに?」


「色々と訊きたい事がありまして…」


「訊きたい事…ね。答えられる事であれば、何でも教えてあげるわ」


「どうも…。ではまず、あなた達は?」


梨沙の質問に、茜は振り返って笑みを浮かべながら答えた。


「私は神崎茜。人探しに来たの」


「人探し?」


「この子の姉が行方不明なのよ」


人見知りな風香は、こちらを同時に見た2人から目をそらしながら言った。


「…赤城晴香って人です。3日くらい前から音信不通なんです」


「赤城…晴香…?」


そう呟いたのは、梨沙だった。


「知ってるのか?梨沙」


恵美が訊く。


「つい最近私のバイト先に入った子も、赤城晴香って名前だった気がするわ」


「あ、多分そいつ」


「(そいつって…)」


風香の言動に、恵美は思わず苦笑を浮かべた。


「お姉ちゃんの事、何か知りませんか?」


「…そういえば、大事な急用とかで、今日休んだわね」


「…本当?」


「えぇ。だから、私が代わりに入ったの。急用の内容は聞いてないけど…」


「そうなんだ…」


形式的な返事だけを返して、黙り込む風香。


すると、ずっとやり取りを見ているだけだった茜が口を開いた。


「ところで、あなた達の名前を教えてもらってもよろしくて?」


「…あ、すみません。私は綾崎梨沙って言います」


「ボク…私は久遠恵美です」


いつもの癖で"ボク"と言ってしまい、慌てて訂正する恵美。


しかし、茜がそれを聞き逃すハズが無かった。


「ボク!?あなたボクっ子なの!?」


「ち、違います!ボ…私は普通の…」


「大丈夫、隠さなくても良いわ。というか隠さないで。ボクっ子なんて滅多に見れるもんじゃないわ。胸を張ってボクと言ってね?いえ、言いなさい」


「(何だこの人…!?)」


背筋が凍り付く恵美。


そんな彼女と、唖然としている梨沙に、風香が溜め息混じりにこう教えた。


「気をつけてね。こいつ、変態でレズで人間の屑みたいな女だから、2人にも手出すかもよ」


「………」


「………」


早くも、茜を白い目で見始める梨沙と恵美。


「失礼ね。変態じゃないわよ。淑女とお呼びなさい」


「変態じゃん」


「あら、思い返してみなさい。私が実際に手を出した事があったかしら?」


「あったんじゃない?」


「いえ、そんなハズは…無い…わよ…ね?」


「私に訊かないでよ」


「手を出した事は無かったと思うんだけどなぁ…。どうだったかしらね。ま、とりあえずよろしくね。お2人さん」


「(とりあえずじゃねぇよ!?)」


「(やだこの人怖い…)」



「あ、肝心のこの子の名前をまだ教えてなかったわね」


茜が風香を見て、思い出す。


「…別に肝心じゃないし」


「数少ないと思われる生存者同士じゃない。ここは仲良くしましょうよ。ね?」


「ふん…」


風香は鼻で笑うと、面倒臭そうに溜め息を吐いて、渋々こう言った。


「赤城です」


「それはわかってるでしょうよ…」


「名前なんか知らなくたって支障は無いよ」


「何言ってんのよ。赤城赤城言ってたら、この子麻雀強いのかなって思われちゃうわよ?」


「…?」


「あら、通じないネタだったわね…まぁいいわ。この子は赤城風香ちゃんよ。さっき話に出た赤城晴香ちゃんの実の妹。…っと、それはわかってるわよね」


「珍しい名前だね」


恵美が呟く。


「そうかな?久遠って名字もあんまり聞いた事無いけど」


「ま、確かに少ないな」


そんな事を話しながら歩いている内に、一同は一軒のアパートの前に到着した。


「とりあえず一休みしましょうか。話したい事もあるしね」


茜が一同の顔を見回す。


すると、梨沙が思い出したようにこう話し始めた。


「あ、そういえば私達、榊原高校に向かってる最中だったんです。ですので、あまり時間が…」


「あら、そこが避難指定の場所?」


「はい。私達を待ってる人達が、先に到着してるハズなので…」


美由の顔が、頭に浮かぶ梨沙。


「そうだったのね…。なら、行きましょうか。待たせるのはいけないわよね」


「…でも、少しだけ休憩しても良いですか?」


「うふふ…。勿論よ」


一同はアパートの敷地内に足を踏み入れた。



その場に捕食者の気配は無く、一同はそれぞれ体を休める態勢になる。


一番先に口を開いたのは、梨沙だった。


「えーと…神崎…さん?」


「茜ちゃんって呼んで良いわよ」


「…茜さん。奴らは一体何なんですか?」


「残念だけど、私は知らないわ」


「…え?」


てっきり茜が知っていると思っていた梨沙は、思わず驚いた表情を見せる。


「どうして発生したのか、奴らの目的は何なのか。一切わからないわ」


「そうですか…」


「でも、何体か相手してみて、いくつかわかった事はあるわ」


「それは…?」


「まず、攻撃手段は噛みつきぐらいって事よ。手の殴打攻撃も見たけど、あの手じゃ特に怖くはないわね」


「つまり、噛みつきだけに気をつけろと?」


「そういう事よボクっ子ちゃん。まぁいずれにせよ、接近しなければ良いだけの話ね」


「(ボクっ子ちゃん…)」


恵美はバカにされてるんじゃないかと思えてきた。


「もう1つ。これはこの子が見つけたんだけど、奴らの弱点よ」


「弱点?」


「心臓」


風香がぼそっと呟く。


「心臓…って、人間にもある心臓の事か?」


「それ以外に心臓なんて無いよ」


「確かに」


頷く恵美。


すると、突然恵美のスカートのポケットの中にある携帯が鳴り出した。


「姉貴?どうしたんだい?」


着信相手は、真希だった。


『無事みたいだな。私達はもう着いたが、お前らは今どこら辺にいるんだ?』


「今、大通りの1つ隣の路地のアパートに居るよ。生きてる人と会えたんだ」


『本当か?』


「あぁ。それに、ただの人じゃない。1人は散弾銃担いでて、もう1人は日本刀持ってる」


『そりゃあ…頼もしいな…』


「この人達とそっちに向かうから、心配しないでくれ。…そっちの様子はどうだい?」


『玄関がバリケードになってて、奴らは入って来れないようになってる。生存者も結構居るぜ。美由ちゃん、彩も無事だ。』


「そうか、良かった。何かあったら連絡してくれ」


『お前もな。…ま、連絡する暇があったら、その隙に逃げるか』


「そりゃそうさ。…じゃ、切るよ」


『おう』


携帯をしまい、恵美は茜に視線を移した。


「学校は安全みたいです。ボクの姉と、こいつの妹も居ます」


「了解。なら、さっそく行きましょうか」


一同はアパートから出て、榊原高校へと向かった。


第5話 終




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