表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

第4話


第4話

"散弾銃と日本刀"


「さて…何から話せば良いのかしら」


リビングに集まり、机を囲むように座る一同。


「あんたはどこまで知ってんだ?」


真希が、そう訊いた。


「正直、何もわからないわね」


「…何?」


「あの化け物が何なのか、どうして出現したのか。一切わからないわ」


真希は苛立ってきたらしく、頭を無造作に掻き始めた。


「じゃあその銃は何なんだ。あんたは何者なんだ?」


「パン屋の店主…って言っても、信じてもらえそうにないわね」


「信じるワケねぇだろ」


「…でも、本当にそうなのよ?」


「嘘つけ」


「今は…ね」


彩の意味深な言葉を聞き、真希はぎろりと目を剥いて彼女を見る。


「…今は?」


「一昔前は…まぁ、"ちょっと変わった仕事"をしていたわ」


「変わった仕事…ねぇ」


真希はオウム返しにそう呟いて、ニヤリと不気味に笑った。


察しの良い恵美も、彼女が持っている物を見て推測し、その仕事がどういった物なのか察する。


綾崎姉妹の2人は、ぽかんとしていた。


「…私の素性なんかどうでもいいじゃない。そんな事よりも、現状を打破する事が優先事項なんじゃないのかしら?」


「…言われてみればそうだな。よし、あんたの話はまた今度にしよう」


「(今度するのね…)」


真希が立ち上がり、窓のカーテンを少しだけ開けて、外の様子を忍び見る。


既に住宅街は、捕食者に占領されていた。


「…参ったな」


「どうしたんだ?姉貴」


恵美も立ち上がり、真希の隣にやってくる。


「…と、とんでもない数だね」


「あぁ…どうするよこれ…」


姉妹揃って、2人は深い溜め息を吐いた。


「車はある?」


彩が真希に訊く。


「4人しか乗れないぜ?」


「詰めれば乗れるハズよ。ひとまず場所を移動しましょう」


「危険だ」


「このままずっとここに居るつもり?」


「………」


真希は押し黙ると、壁に掛けてある車の鍵を取り、彩に投げ渡した。


「ありがとう」


「壊すなよ?」


「さぁね」


「おいおい…」



その後、話し合いの結果、彩と真希の2人が車を入手し、玄関の前で他の3人を乗せて出発するという計画になった。


「あなた達は玄関で準備しててね?」


「合図したらすぐに来いよ?」


緊張が窺える表情で頷く3人。


彩はそんな3人に微笑みかけた後、真希に視線を移してこう訊いた。


「準備は?」


「問題ない」


「そう…。それじゃ、行きましょうか」


「…はいよ」


ゆっくりと扉を開ける2人。


幸い、近くに捕食者は居なかった。


「気付かれないように行かないとね…」


「万が一気付かれたら?」


「気付かれなければ良いのよ」


「いや万が一が…」


「無いわ」


「お、おう…」


車が停まっている家の裏へ、辺りを警戒しながら向かう2人。


途中、捕食者は何体か居たものの、2人は何とか車の元まで辿り着けた。


「さてと…鍵は…。…あれ?」


「…おい」


「あぁ、右手に持ってたわ」


「頼むからしっかりしてくれ…」


「ごめんあそばせ~」


鍵を開けて、車内に入る。


その時、エンジンを掛けようとした彩の手が、ぴたりと止まった。


「…どうした?」


「音、大丈夫かしら?」


「え?」


「エンジン音よ。発車直後に囲まれちゃ、ひとたまりもないわ」


辺りを見渡す真希。


まだこちらには気付いていないものの、彷徨している捕食者が複数居た。


「…だが、エンジン掛けなきゃ車は動かないぜ?」


「じゃあ、エンジン掛けて良い?」


「私に訊くなよ」


「…どうなっても知らないからね?」


「この際、時の運に任せちまおうぜ」


「命を賭けるギャンブルだけはやらないと誓っていたんだけど…。この際仕方ないわね」


「その通りだ」


勢い良く鍵を回す彩。


辺りの捕食者が、一斉にこちらを向いた。


「………」


「…まぁ、予想はしてたわ」


彩はアクセルを思い切り踏み込み、車を急発進させた。



「…車に乗ったみたいだね」


外から聞こえたエンジン音に反応する恵美。


「随分と荒々しいエンジン音だったわね…」


梨沙は運転しているのが彩だという事に、思わず苦笑いを浮かべた。


車のエンジン音が扉の向こうで止まり、クラクションが鳴る。


「よし、行こう!」


恵美が扉を開け、3人は素早く車の元へ駆けつけた。


既に車は、捕食者に囲まれる寸前。


それでも、何とか先頭の美由は乗り込む事ができた。


「ダメ…!逃げるわよ!」


しかし、梨沙と恵美は間に合わず、捕食者に掴まれる寸前で車から離れる。


「雪平さん!学校で合流しましょう!美由を頼みます!」


「ちょ、ちょっと…!」


梨沙と恵美は、捕食者が居ない細い路地に逃げ込んだ。


「おい!早く出せ!窓ぶっ壊されるぞ!」


「わかってるわよ!」


3人が乗っている車は、正面の捕食者をひき殺しながら発車する。


一同は、離れ離れになった。




同時刻…


町のはずれにある土手沿いの道に、一台の車が停まる。


「榊原町…か」


「意外と近かったね」


その車から降りてきたのは、和宮町の生存者、神崎茜と赤城風香の2人だった。


「約1時間。まぁ、そんな所じゃない?」


「だね」


2人がこの町にやってきた理由は、風香の実の姉である赤城晴香の捜索。


彼女は3日前から、行方不明といった状態だった。


「茜、刀使えるの?」


茜の手に握られている日本刀を見て、風香が訊く。


「剣道をかじった事はあるわ。…10年以上前の話だけど」


「ダメじゃん」


「体が覚えていてくれてればいいんだけどねぇ…」


「ふーん…」


風香は自分から訊いておきながら、つまらなさそうな返事を返す。


そして車の中から、自分が使う武器を持ち出した。


「それ、お気に入り?」


「…別に」


身の丈に似合わないショットガンを、重そうに肩に背負い込む。


この銃には、使う理由があった。



「葵さんの言葉、この町で合ってるのかな?」


「他に候補なんて無いからね…。もっとも、違ってたらお手上げよ」


車が通れない土手沿いを、歩いて進む2人。


「にしても葵さん、"次の地獄で会いましょう"って言ってたんだっけ?」


「えぇ。紙にそう書き残して消えたわ」


「中学生並みの表現だね」


「ぷっ…あはははは!」


茜は噴き出すように笑い出し、しばらく笑いが止まらなくなった。



「捕食者…」


歩き続けて10分程が経過した時、風香が不意に呟く。


「触手?好きなの?」


「死ねよ」


「このやり取り定番になってきたわね」


「誰も得しないから止めよう」


「いえ、罵倒する時のあなたのジト目は中々ポイントが高いわ。結婚しましょう」


「あー…もう疲れてきた…」


「疲れたの?じゃあおぶってあげるわ…うふふ…」


風香はしゃがみ込んだ茜の背中を蹴りつけた。



更に歩く事、10分。


正面の夜闇の中にうっすらと、住宅街の一角が見えてきた。


「やっと、榊原町に到着したみたいね」


「お姉ちゃん…居るのかな…」


「居るわよ。きっと…ね」


気を引き締める2人。


何となく、いつかは再び始まると思っていた戦いの日々が、今再び始まろうとしていた。



2人が住宅街に到着すると、かがみ込んで死体に顔をうずめている捕食者を早速発見する。


「何してるのかしら…?」


「喰ってんじゃないの?」


武器を手に、捕食者を見つめる2人。


捕食者は2人に気付いて、ふらふらと立ち上がってこちらに歩き出した。


「これが捕食者…?」


「みたいだね」


捕食者に向けて、突然ショットガンを発砲する風香。


命中した捕食者は腹部に大きな風穴が開き、後ろに吹っ飛んでそのまま動かなくなった。


捕食者に開いた風穴を見て、茜が首を傾げる。


「あれ?私の知ってるショットガンとイメージが違うわ」


「弾を変えたの。ほら、これ」


風香が自分の腰に巻いてあるポーチから取り出したのは、スラッグ弾と呼ばれる特殊な弾薬だった。


スラッグ弾とは、ショットガンに通常使用する散弾と異なり、大きな単発弾を発射する銃弾。


状況や標的によってバラつきはあるものの、殺傷能力がかなり高い銃弾である。


そして、捕食者にも高い効果は見えた。


「張り合い無いね」


捕食者は起き上がる事ができずに、倒れたまま体を痙攣させている。


当然、再生能力などは無く、痙攣が止まると、捕食者はそのまま動かなくなった。


「そんなに強力な弾、どこで仕入れたの?」


「部隊の武器庫探ってたら見つけたの」


「…勝手に?」


「いいじゃん別に。減るもんじゃないし」


「減るわね…」


その時、捕食者が顔をうずめて何かをしていた死体が、跳ねるように動き始める。


しばらくすると、死体の胸元から、梨沙達が美由の部屋で見た芋虫のような生物、捕食者の幼体が顔を出した。


「な、何よ…あれ…」


警戒する茜。


しかし幼体は出てくるなり、何もしないまま風香に一瞬で撃ち殺された。


「…風香ちゃん。一応、形式的にでも良いから、"あれは何だ!?"みたいなやり取りしましょうよ」


「必要ない」


「いや…あのね…まぁいいわ…」


2人は捕食者の死体の横を通り過ぎて、住宅街に入っていく。


一番先に目に入ったのは、複数の警官の死体だった。


「死んでるね」


死体など既に見慣れた風香が、鼻で笑う。


茜はその隣で、苦笑を浮かべていた。


「…まさか、さっきのちっさい奴が、ここにある死体全部から出てくるなんて事無いわよね?」


「縁起でも無い事言わないでよ。そういう事言ったら大体そうなっちゃうじゃん」


風香の予想は的中した。


捕食者の幼体が、次々と警官の死体を喰い破って出てくる。


最終的に揃った数は、10体以上だった。


「………」


「…言葉って不思議ね」


幼体は梨沙達の時と同じように、突然進化を遂げていく。


状況は一転した。


「逃げる?戦う?」


「逃げ回るよりも、全滅させた方が楽じゃん」


「簡単に言うわね…」


「簡単だからね」


刀を抜く茜、ショットガンに弾を込める風香。


捕食者は、一斉に襲い掛かった。


第4話 終




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ