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異説ゴルニア戦記  作者: pepe
二章
15/23

Ⅵ決断

 野営の篝火に、整然と並べられた天幕が赤々と照らされている。東西南北に門を構え、きっちりと大路で四分割された野営地である。整然と隊列を組んで出陣するための工夫であったが、一夜の仮初とは思えぬ整然ぶりこそ、エルトリア軍らしいと言えた。

 とは言え、粛然と仕事をこなせたのもそこまでで、昼過ぎのゴルニア騎兵隊との激戦を終えた将兵は疲労困憊して、野営地は死んだように静まり返っていた。明日には放置せざるをえなかった戦死者の埋葬をすることになる。気の滅入る夜だった。

 そうした中で、エストリカは人を近付けず、寝台で毛布にくるまっている。

 それをトゥリアスら幕僚たちは、佩剣を奪われた事を気にしているのだと思っていた。確かに総司令官の剣を奪われると言うのは、シンボルとして重要な軍旗を奪われるほどではないにせよ、不名誉には違いなかった。それにエストリカは演説で剣を取り落した前科持ちで、その時の落胆ぶりも酷かったからなおさらだ。

 もっとも、その事に関しては、総督を護衛すべき親衛隊を含め、指揮を執っていた指揮官らの責任も重い。撤退のための算段に忙しい折に、トゥリアスたちがエストリカをそっとしておいたと言うのも、責任所在を問う後ろめたさが働いていたためだった。それをいい事に、天幕に閉じこもっているエストリカが責任を放棄していると言われても仕方なかったにしても、だ。

 もぞもぞと毛布の塊と化したエストリカが呻く。

「あのバカ男……」

 エストリカはウェルティスを気にしていた。だが、それは剣を奪われた不名誉からではない。かと言って、公衆の面前で剣を突きつけられ、挙句にバカにしているとしか思えない求婚の申し出で侮辱されたと思うからでもない。

 それは後悔とか羞恥心とか、後ろ向きな感情ではありえなかった。エストリカが毛布にくるまらなければならなかった理由は、ただ怒りに起因していた。

「殺す。絶対に殺す」

 続けたうめき声は、年頃の少女とは思えぬ物騒なものだった。頼りない灯火が揺らめき照らす幕内で、毛布の中に覗く青い瞳はぎらぎらと猫科の動物のように光っていた。どうしようもない狂おしい内圧が、眼光という形を取ってこぼれているかのようだった。

「殺せ、あの男を殺せ!」

 撤退する逞しいゴルニア王の背中を睨みつけながら、エストリカは護衛が面喰らうような金切声で叫んでいた。瞬間的に熱くなったのではなく、それは少女の魂の叫びだった。何者かになってみせると語ったエストリカにとって、許されざる暴挙を、あの男は平然と行ったからだ。

「俺の妻にする」

 あの男はそう言ったのだ。自らの意思と、自らの力量によって、世に名を知らしめんとするエストリカの野望を、すべて否定する一言だった。いや、所詮は蛮族のたわごとなのだ。言わせておけばよい。それぐらいに思うのが当然だったが、エストリカにはどうしても、そうやって突き放すことはできなかった。

「うううっ!」

 毛布を噛んで叫びを籠らせると、獣じみた唸りのようだった。

 許せない、どうでも許せない。あの男が傷つけたのは、エストリカの野望ばかりではなかった。なぜなら、あの瞬間、彼女はほんの少しだけ返答に躊躇したからだ。返答次第では殺されるタイミングだったというのは、余人の憶測と本人の言い訳である。少女の目が捉えていたのは、男の広い肩幅と、太い腕だった。それに確信的な眼差しの瞳。あの太い腕に抱かれたなら、どれだけの安心が得られるだろうか。浅ましい本能に気付いた時、エストリカの心は叫んでいた。

「殺せ! どうでも殺せ! でないと――」

 でないと、わたしはわたしで居られなくなる。エストリカの脳裏に過ぎるのは、幾人もの愛人の腕にしなだれかかる、卑しい母の姿だった。

「しようがないでしょう、エストリカ」その女は娘に言うのだ。「陛下は辺境からお戻りにならないのだから。わたくしは心細くて、寂しくて、仕方がないのよ」

 娘の冷たい視線に気付いても動じず、媚びさえ売る厚顔は、哀れを演じる役者の顔だった。自分は悪くない。悪いのは、妻を放って辺境に掛かりきりの夫なのだと、その理屈は仮にも皇妃が並べるものではない。が、皇妃とて人であるからには、そうした言い訳も許されるべきなのか。たとえ認められるにしても、軽薄な愛人との秘め事に没頭して娘を放り出した母の責任はどうなのだ。それが女の(さが)であるのなら、女として生を受けたこの身が呪われているのだとさえ思える。

 母が離縁され、視界から消えさると、まだ十歳ほどでしかなかったエストリカは、寂しさよりも清々しささえ感じていた。その後、母がどうなったかなど、知りもしないし、知りたくもない。

 女とは呪われた生き物なのか。そう納得すべきなのか。だとすれば、母を哀れとも思えるが、翻れば自らを諦めることでもあった。それを認められないからこそ、ゴルニアなどという文明の果てで戦っている。が、それも所詮は児戯であったのか。

 士心の掌握もままならず、サンギ族に離反され、ゴルニア遠征は無謀な失敗であったと結論づけられた、まさにその時に、あの男はエストリカの前に立ちはだかり、『堕落』を誘いかけた。その誘惑に心が揺れた。男の人となりなど知りもしない。だが、澄んだ碧眼に嘘はなく、直面した直感が男を傑物だと断じていた。この男になら、と不意に思ったのは、このまま敗退すれば金満家によって政治の道具として売り買いされる定めだったからだ。

 将兵の安全な撤退を材料に取引すれば、面目は保てる。そういう小ずるい計算もないではなかった。

 その誘惑をぎりぎりの所で跳ねのけたのが、嫌悪する母の幻影だった。

 それだけは嫌だ。わたしはああはなりたくない。男に媚びることしか知らない、卑しい女になど、なってたまるものか。だから、

「あの男を殺さなくては」

 不意打ちに等しかったとはいえ、確かに少女の心を揺らした男である。それを失態と断じるならば、エストリカは汚点を残すことなど許せなかった。それが潔癖すぎる少女の性だった。

「でも……」

 現実に立ち戻れば、ウェルティスを殺す事など不可能だった。補給は断絶しており、付近からの徴発も思うに任せない。戦争の継続など出来るはずがなかった。どころか、連戦の末、エルトリア軍は徐々に戦力をすり減らしていた。正確な報告はまだだが、今回の襲撃を受けて、兵団の総戦力は八千名を大きく割り込んだに違いなかった。

 だから、エストリカは天幕に籠らざるを得なかった。撤退するのだ。一夜明ければ、少しは冷静にもなる。自分を宥めすかして、何事もなかったかのようにエシュシュへ戻ると号令を発さねばならない。

 毛布の中に声を籠らせながら、エストリカは眠れそうにもなかった。それどころか、気が休まる気配もない。

「フレース」

 主人の危急を救った鷹に呼びかけてみたが、幕内に設えられた止まり木に留まっているフレースは、眠たげに目を細めて迷惑気な顔をするばかりで、動こうとしない。雛の頃から手ずから育てたと言うのに、こう言う時は薄情なものだった。あるいは、幼いエストリカにいじくり回された記憶を引きずっているのかも知れないが。

 思えば、フレースとも長い付き合いだった。最初は五歳の誕生日に父から貰った小さな雛だった。娘に鷹を贈るセンスもいかがなものかと、今になると思わないでもないのだが、その時は素直に喜んで熱心に飼育した。確か遠征先で手に入れたと言っていたから、フレースは十年ぶりに郷里に戻ったと言う事になるのだろうか。

「おいで、フレース」

 再び呼びかけたが、鷹は微動だにしない。面倒くさそうに目を瞬かせるだけで、さっさと眠りたい様子が見て取れる。視覚の鋭敏な鷹の習性か、火の灯りに揺れる影を気にして眠れないらしい。

 エストリカは舌打ちしかけて、慌てて止める。監視する者もいないのだが、そこはそれ、シノンの教育の賜物と言うべきか。

「シノン……」

 そうだ、すべてを心得る奴隷と話をすれば、少しは気が紛れる。少し前に手を付ける気もしない食事と一緒に下がらせたことなどすっかり忘れて、エストリカはシノンを呼ぼうと身を起こした。

 そこに頃合いを見計らったように「よろしいでしょうか」と垂れ幕の向こうから声をかけたのは、残念ながらシノンではなかった。

「なにか?」

 エストリカはひとつ呼吸を置いてから、取り繕った声で応じた。相手はアリウスだった。

「報告に参りました」

「そうか。入れ」

 まとめた被害報告だろう。エストリカはそう思って、招き入れた。おおよその損害は確認されていたから、その正確な調査結果となると気の滅入る報告になるだろう。最大の問題は、前線指揮を預かる百人隊長に死傷者が多かったことだ。彼らは軍団の編成の中核であり、いかにトゥリアスが用兵に長けていても、実際に軍団が思う通りに動かないのでは意味がない。損害報告のまとめが遅れているのも、各隊を集計する責任者が戦死したためだった。

 いまや勝利が幻想であったかのように、エルトリア軍には悲観材料しかなかった。

 薄明かりの中で、アリウスは少し気まずそうな顔をしていた。報告の役回りを嫌がっているように見えたが、エストリカは見て見ぬふりをした。

「どうしたの?」

「あ、いえ……その、非常に申し上げにくいのですが……」

「別に気にしなくていいわ。どうせ、軍団がボロボロなのは分かってるけど、サンギ族の跳ねっ返りを制圧するぐらいは出来るでしょう?」

「……いえ、そうではなくて」

 否定しながら、その先をなかなか口にしない副官に、不意に苛立ちが込み上げてくる。

「なによ? はっきり言いなさい」

「いや、うむ……そうですね。こう言う事は、はっきり言った方がいい」

 言い訳のように呟いて、アリウスは問題の事案を提示した。

「その、何と言うか、夜着が乱れておいでです」

「は?」

 意表を衝かれたエストリカが、自分の姿を見下ろす。寝台の上に座った少女の夜着は、悶々としながら捻転していたせいで大きくはだけて、白い肌が露わになっていた。

「な、な、な……!」

 わなないたエストリカは、硬直が解けるとともに毛布を引っ掴んで、身体を隠した。

 迂闊だった。いつもなら、来訪に合わせてシノンが身なりを整えてくれるのだが、今は彼女を遠ざけていた。常の習慣で、エストリカは自身の姿にまったく注意を払っていなかったのだ。

 気まずい空気が沈殿する。

「そ、それで、用件は?」

 顔を赤くしたエストリカが、毛布から目だけ出して尋ねる。

「あ、はい……先ほど、伝令がありまして」

「伝令?」

 てっきり損害報告だと思っていたエストリカは、どこから、と尋ねた。

「トゥーレ族からです」

 思いもよらない所からだった。それはサンギ族の北側に勢力を持つ部族で、北海沿岸部に定住している。彼らも去就がはっきりしないものの、地理的な関係からおおむね親エルトリア部族としての姿勢を示していた。

「まさか、向こうでも謀反が……」

 部族の外交姿勢を決定しているのは長老会議だったが、それが盤石のものではない事は、すでにサンギ族が示していた。エルトリア軍の侵入と、ゴルニア王の台頭によって、ゴルニアの政治情勢は大きく転換しつつあった。

「いえ」アリウスが困惑顔のまま答えた。「救援の要請です」

 エストリカは眉をひそめた。謀反が起きたから長老が救援を要請して来たのではないのか? それとも、サンギ族の反乱部隊が侵攻して来たとでも言うのか。

「彼らの報告によると、北海沿いの沼沢地を抜け、第二軍団が集落を強制徴発して回っているので……」

「第二軍団ですって!?」

 隠していた毛布を跳ねのけるようにして、エストリカは思わず身を乗り出した。アリウスは目のやり場に困りながら、はっきりとうなずいた。

「はい。レムニア属州の第二軍団です」

「彼らが、なぜ?」

 エストリカの疑問は当然のものだったが、アリウスは首を横に振った。枢密院からも、レムニア総督からも、今回の出兵に対する報告は受け取っていない。

 ウァリア属州の北方に位置するレムニア属州は、確かにゴルニアへの進軍ルートを持ってはいるが、北海沿岸の低地は延々と沼沢地が広がっており、行軍にも補給線の確保にも困難が伴う。それがために、前回のゴルニア遠征でもウァリア属州からボーレア山脈を越えて出兵していたのだ。

「おそらく、こちらの状況を掴んで、火事場泥棒に来たものかと」

「……トゥリアス将軍は、何と?」

 苛々と爪を噛んで、エストリカは尋ねた。無作法ではあるが、諌めるべきシノンは席を外している。

「その件で協議したく、総督にも臨席いただきたい、と将軍がお呼びです」

「すぐに行くわ。シノンを呼んで」

「分かりました」

 アリウスは引き下がりながら、安堵の息を漏らした。衣服の乱れた少女と密室に居るのは息苦しかったが、それ以上に八つ当たりされるのではないかと戦々恐々しながら訪れたからだ。

 そんな副官の様子など構わず、エストリカは乱れていた夜着を脱ぎ捨てると、雑な手つきでチュニックを着込んだ。そこへシノンがやって来て、着替えを手伝う。陣中であり、兵の目がある以上、しっかりと軍装しなくてはならない。

「幕僚の方々は大騒ぎですわね」

「それはそうよ。このままエシュシュに戻って、サンギ族の謀反を鎮圧するつもりだったのに、レムニア総督も何を考えて……」

「でも、同じエルトリア軍なのですから、別によろしいのでは?」

 何なら援護を要請してもいいのではないか。軍略などまったく興味のないシノンはそう言った。

「同じエルトリア軍だから、困ってるのよ。トゥーレ族は何だかんだ言っても友好部族なんだから。それをエルトリア軍が攻撃したら、ゴルニア人になんて思われるか! こちらに救援を要請してくるだけ、まだ友誼が保たれてると思いたいけど……」

「ああ、なるほど。それはそうですね」

 シノンは納得したものの、やはり興味はなさそうだった。今の彼女にとって重要なのは、エストリカに羽織らせた緋色のマントのひだが綺麗に重なっているかどうかでしかない。

「まったく、次から次に……」

 エストリカは憮然と呟いて、シノンがたくし上げた垂れ幕を潜った。

 外は身を切るような寒さだった。それもそのはず、もうミタスの月七日――いや、日付が変わって八日になったか。今年もあと三十日で終わる。サンダルの底に打たれた鉄鋲が、凍った雪と泥を削る音がする。

 焚火が陣営をぼんやりと照らし出しているばかりで、空には月も星も見えない。数日前からどんよりと垂れこめる曇天は一向に去る気配を見せず、ゴルニアの冬はなんとも陰鬱に見えた。

 シノンを従え、側には警護の親衛隊数名が付き従う。そうしながら、エストリカの歩みはいつになくのろのろとしたものだった。これまでの勝利が偶然に過ぎないのだと思い知らせるように、事態は悪い方、悪い方へと転がっている。胸に重苦しい圧迫感を覚えるだけ、嫌な事態に直面するのを引き延ばそうという心理が強くなっていた。

 だいたい、この寒さは何なのか。八つ当たりする気分さえある。思い切り息を吸い込むと喉を痛めそうなほど、空気はキンキンに冷え込んでいる。あまりの寒さに肌は引きつり、迂闊に触れると裂けてしまいそうだった。

 エリシオスの冬は、こんな事はなかった。

 エストリカの育った帝都は、アララト海に面する気候の穏やかな地域だった。冬は寒いと言ったところで、生地を厚手の物に変えれば事足りる。それは東方と同じく、いち早く文明を開花させた温暖で豊かな地だった。

 だから、ゴルニアは未開なのだ。実りも豊かとは言えず、冬は引き籠るしかない。とても文明の花開く土地ではなかった。その証拠に文明圏のレンガ造りなど見ることもなく、未だに木と石で出来た住居しかない。文明の地に住むことさえできなかった敗者たちが、仕方なく森に隠れているに過ぎない。諸国民を統治する義務(・・)を負った偉大なエルトリア人に引き比べて、なんと惨めなことか。だから、その惨めさから救い出してやろうと言うのだ。エルトリアの進んだ文明を与えてやろうと言うのだ。

 なのに、なぜ、奴らは拒むのか。進んだ文明の恩恵を受け入れるのは、悪いことではない。かくいうエルトリア帝国じたいが、より古い幾つもの文明の遺産を取り入れている。哲学や数学といった学問から、芸術、建築技術に至るまで、東方から多くを輸入していた。

 自らが優れていると思い込んでいる、大海を知らぬ頑迷こそ蛮族たる所以だからか。だとすれば、なんと愚かな者たちだろうか。すれば、やはり力によって啓蒙せねばならない……。

 なのに、なぜ勝てない?

 エストリカの疑問は、ウェルティスとは真逆を示していた。理論的な戦略や戦術を論じるわけではなく、それはほとんど沈んだ太陽は再び昇るべきだというような話だった。

 だが、それこそが偉大な帝国を築いたエルトリアの精神であった。

 遠く王制の時代より、幾度となくエルトリアは危機を乗り越えて来た。時に本国にまで攻め入られ、主力軍団が全滅することさえあった。が、一度たりとも降伏したことはない。なぜなら、エルトリア人にとっての戦争の結末とは、相手が完全に立ち向かって来る力を失うか、それとも自らが滅亡するか、どちらかしかあり得ないからだ。

 それを許容するだけの力が、エルトリアにはあった。全戦力を喪失してさえ、武装した市民を率いて、相手が消耗に耐えられなくなるその時まで、最後の一人まで戦うのだ。それこそがエルトリアの力だった。

「エルトリア人は気が狂っている」

 外国人がうすら寒い思いで評する時、その(おもて)に表れているのは敗北者の表情に他ならなかった。

 だから、エルトリアは強い。何一つ顧みずに挑む時、それは途方もない力となり、だれもその道行を阻む術など持ち合わせない。半島の都市国家が大きく世界を揺るがして地図を塗り替えるために必要だったのは、すべてを失う覚悟であり、それを顧みない若さに他ならない。

 すると――エストリカは臍を噛んだ。一勝一敗に一喜一憂して、細々と勝利を繋ぎとめ、頃合いを決めるや引き上げる姿は、なんと醜く老いさらばえて見えることだろうか。

 偉大な先人たちは、そうはしなかったはずだ。ただがむしゃらに突き進み、手痛い敗北から何度となく立ち上がって、最後に勝利を掴み取って来た。そうだ。将兵を前にして、自らが言ったはずではないか。いかなる苦境にあっても、必ず最後に勝利するのがエルトリアなのだ、と。ならば、

「やってやる」

 常識がどうだとか、軍略がどうだとか、そんな話は関係ない。まだエルトリア軍は全滅していないのだ。エストリカはまだ死んでいない。だから、

「やってやる」

 ウェルティスとやらが何ほどの者か。呟いて踏み出した足に、力強さが戻っていた。

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