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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
4/33

自動車部~1人目~

 ここから本編の始まりになってきます。

 自動車部の部室は、機械科棟の横にありました。

 軽自動車が二台入れそうな車庫みたいな小屋……もとい、建物が部室です。


 シャッターは開いていました。

 中では髪をポニーテールにした、ツナギを着た女の子が一人、ゴーカートの前に座り込んでトルクレンチを回しています。


 私の革靴の足音に気付いたのか、女生徒が振り向きました。


「……ひょっとして、新しい先生ですか?」


 私が頷くと、女生徒は微笑んで立ち上がりました。

 背は私と同じくらいで、ぱっちりとした釣り目の幼顔おさながおです。


「女の先生が顧問……? 先生お歳は?」

「ええ……っと、今年大学卒業したばかりです」

「しかもめっちゃ若い……!」


 女生徒は目を丸くしました。物珍しがるのも無理はありませんね。工業科目の教員は年配の男性が多いですから。


「先生、お名前は?」

「上尾です」

「上尾先生ですか」


 上尾”先生”……。ああ……やっぱりいい響きです。上尾先生……上尾先生……、先生……先生……うっとり……。


「先生、先生、どうしたんですか?」

「あ、いえ、何でもありませんよ」

 生徒に先生と言われ、軽~くトリップしていました。危ない危ない……。


「先生、学科はどこですか?」

「電子情報科です」

「え? じゃあ、専門は情報系……?」

「まあ、そうですね……」

 にこやかだった女生徒の顔が少し暗くなりました。どうしたんでしょう?


「機械系の先生じゃないんだ……」

「え?」

「いえいえ、何でもないです」


「ところでそれ、車? 自動車部というだけあって、こういうの造っているんですねえ」

「わあっ!」

 私がゴーカートに触れようとすると、女生徒は大声をあげました。

「調整中なので出来れば触らないで……」


「ああ、ごめんなさい。ここはこういうの造って遊ぶ部なの?」

「……何を言っているんですか? これはエコラン大会のガソリン部門に出るためのマシンですよ」

「えこらん…………って?」

「先生……知らないんですか?」

 女生徒はさらに表情を曇らせました。


「自分たちの作ったマシンで、どれだけ少ない燃費で長い距離を走るのか競う大会です」

「へ~、工業高校らしい大会があるんだね」

「……先生、本当に知らないんですか? 工業科目の先生なのに?」

「え……っと、私……高校は普通科だったから……」

「ふ~ん……」


 ほんの数十秒の会話でどんどん信頼が落ちている気がします。ピークは出会った瞬間だったような……。

 気を取り直して……


「そ、それでそのエコラン、いつ頃になるの?」

「十一月半ばです」

 半年以上も先ですか。


「今年は県大会優勝が目標です」

「県大会優勝……」

 大きな目標です。というか、ここはそんなに強豪校だったんですか。私、顧問務まるでしょうか?


「去年は何位だったの?」

「えー…………真ん中より下……」


 強豪校ではないんですか……。ちょっと安心しました。(と言ったらまずいですよね。)でも、大きな目標をもつことはいいことです。全国制覇だ! ……とか。


「でも今年のマシンは自信があります」

 女生徒は拳を握って言いました。

「2週間前に車体が組み上がって、テスト走行しているところです」


「大会は半年も先なのに? もう完成しているの?」

「走るだけなら問題ないんですけど、勝つためには何度もテストして、チューニングを完璧に仕上げないと。どこも一年かけて準備をしてくるんです。特にうちの学校は予算が少ないから……」


 大会は秋なのに、春先で切羽つまったこの感じ……。これから半年もある、ではなく、もう半年しかないということですか。


「でもラッキーです。今年の初め、知り合いから新しいカブのエンジンをタダで手に入れられたんですから」

「……かぶ? 株? ……のエンジン?」


「違いますっ、ホンダ・スーパーカブのことです!」

「スーパーカブって、オートバイの?」


「Yesっ! 自転車につける補助エンジンキットに始まり、1958年に自動二輪車としてC100を発表し、C105、50、70、100EX、110とモデルチェンジしながら日本だけでなく世界中で半世紀以上にもわたって今も売れ続けている、二輪車の大ベストセラーにして本田技研の最高傑作 ス・ー・パ・ー・カ・ブですっ!!!」


 女生徒A、すっごい力説です。


「エコランのガソリン部門ではどこもカブのエンジンをよく使っています。うちの前のエンジンは長年使い過ぎたせいか、連接棒コネクティングロッドに亀裂が入っていたり、シリンダー内部に亀裂があったりとほとんど使い物にならない状態だったので、思い切って新しくしました」


「へー……(生返事)」


「それからタイヤ、自転車の後輪なんですけどクラッチブレーキを外して抵抗を減らしました。今はホイールのリム幅よりも小さいタイヤに変えていたんです。これで空気をめいっぱいまで入れれば剛性が増して、地面との接地面が少なくなり摩擦抵抗が減るんです」


「はあ……」


「ボディはまだ出来てませんが、とりあえずこの状態で今からテスト走行しようと思ってるんです。ああ、ボディも昨年の物から一新します。ただカウルをどうするのかまだ悩んでいて……」


「かーる?」


 ……正直、女生徒Aが何を言っているのかわかりません。


 一口に工業科目といっても、機械、電気、建築etc……と、その専門科目は細かく細分化されています。

 私の専門は情報系科目、すなわちコンピュータのプログラムやIT関係になります。自動車は旋盤やら溶接といった機械系科目になります。まったくの畑違いなのです。


 女生徒Aがさっき、私が機械系の教師じゃないことで肩を落としていたのは、そういうことなんです。


 しかし、私が生返事しかしないのに、この子はよく喋りますね~。


「ちなみに、先生はどんなバイクカウルが好きですか? 私はカワサキZシリーズの……」

「あー、ちょっと待ってください」

「はい?」

「ところで……”かーる”とかいうのの前に、あなたのお名前教えてくれません?」


 キャラ紹介、しばらく続きます。

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