先生、好きです!
時間が空いてすいません。
まだ読んでいる人いるのかな〜?
連休明け最初の授業は体が重いです。でも何とかこなしてようやく放課後です。疲れました。眠気覚ましにコーヒーを……って、もうありません。一時間ほど前に、コーヒーメーカーいっぱいに淹れておいたのに……。仕方がないから新しく淹れておきましょう。少しだけ部活に顔を出してきますか。戻ってくる頃にはコーヒーが出来ているはずです。
その後、情報科棟を出たところでした。渡り廊下を歩いていると……
「先生!」
後ろから呼んだのはいつきさんでした。
「カミ子ちゃん、好きです! 付き合ってください!」
「…………へ?」
彼女、何を言っているのでしょう? 今、何を言って、私に手を出してます? いやいや、言っている内容はわかりましたが、理解できず飲み込めません。
ええと、私聞き間違えましたか? 状況的には男装の女子生徒が女性教員に告白していると思われますが……それとも何かの言葉のアヤ? でもそうじゃなかったら、これがいわゆるユリってやつですか? そんな女子高やマンガみたいな展開……ここは工業高校ですよ。
でも本気だったらどうしましょう。
①「女同士でそんなのありえないわ」
②「私は先生であなたは生徒だから無理よ」
③「彼氏がいるのに何を言ってるの?」
以上の三択でしょうか。③が一番有効な気がします。それとも笑いながら、先生をからかうんじゃないと答えるべきでしょうか。
「ちょっと待った」
「ん?」
いつきさんの後ろから、見覚えのない男子が現れました。
「カミ子先生、目元がタイプです。俺と付き合ってください!」
「んん……?」
「ちょっと待ったぁ! 先生に叱られたいです。付き合ってください!」
「ちょっと待てぇい! 毎晩先生をオカズにしてるくらい好きです。俺と付き合ってください」
「ちょっと待ったぁ……」
「ちょっと待ったぁ……」
「…………………………」
何、これ? 今、いつきさんも含めて六人の生徒に言い寄られてます。これがモテ期というやつでしょうか? 人生初です。それとも工業高校特有の逆ハーレムって現象?
いえいえ、こんなのどう考えてもおかしいです。
見回すと、いつきさんや男子生徒が現れた校舎の陰から、ダンボールの角が見えます。まさか……。
私が近づくと、ダンボールからは足が生えて逃げていきました。急いで追いついて中を覗くと、案の定稲盛さんがいました。
このコミュ障め……。
「その手に持ったi-パッドで何を撮っていたんですか?」
「ニャー……」
i-パッドを取り上げてデータを見てみると、さっきいつきさんたちが告白していた様子がバッチリ映っていました。
「バレたか~」
どこに隠れていたのか、本田さんとマキくんが現れました。告白してきた男子生徒たちと一緒にケラケラ笑っています。
「あなたたち、盗撮ですよ、これは!」
とりあえず動画を削除しました。
「何をやってるんですか?」
「告白ドッキリです」
またアホなことを……
「i-パッド返してください」
「…………」
「どうしたんですか?」
「返したらまた盗撮するんじゃないですか? 没収します」
「えー……、カミ子ちゃんノリ悪いー」
「仕方ない、いつき、あなたのスマホ貸して。次は和葉先生だ」
何ですって……!
「待ちなさい」
「何ですか?」
「私も行きます」
「先生も興味あるんですか?」
「あなたたちが盗撮とか、悪さをしないように見張ります」
「興味あるんですね?」
「…………」
‐和葉の場合‐
廊下の角で隠れていると、調理室から和葉先生が出てきました。
そんなタバコの箱をこれ見よがしに持ちながら校内を歩かないでほしいです。
「よし、行け!」
いつきさんの合図で男子生徒が和葉先生のところへ走っていきました。
「先生!」
「んー……」
「付き合ってください!」
「あ~……?」
「ちょっと待ったぁ……」
〈割愛〉
先ほどと同じように、いつきさんも含めて六人の告白を陰から見ていました。
全員が言い終わると、和葉先生は気だるそうに”あー”と唸ってから言いました。
「年収一千万で60坪の家付き、3千万以上の保険に入って受取人は私にしてくれたら、付き合ってもいいよ」
何てわかりやすい保険金殺人の前フリなんでしょう。
しかし生徒たちは一様に曖昧な生返事をするだけでした。ああ、わかってません。あの子たち、意味わかっていません。
「この馬鹿! 馬鹿には嫌味も皮肉も通じねえのかよ。せっかくの返しをムダにしやがって、イライラする。だからバカを相手をするのは嫌なんだよ。脳みそないなら、尻でも掘りあってろ。青臭いガキどもが!」
とか言いたげな顔しています、和葉先生。
でも彼女はそんな長い嫌味は言いませんでした。
「あたしゃDTは相手にしないんだよ!!」
たった一言でしたが、すごい破壊力でした。男子生徒たち立ったまま逝っています。何でしょう、この静寂……。
「で、そこでこそこそしてるのは誰?」
バレてました。
そして和葉先生が仲間に加わりました。
‐鈴ちゃんの場合‐
緒方先生が保健室から出てきました。
「先生、抱き枕にしたいくらい可愛いんで付き合ってください!」
「ちょっと待ったぁ。先生、俺ロリコンなんで付き合ってください!」
「ちょっと待った。それなら俺は貧乳好きです!」
「失礼な! きっと先生は着やせするタイプだ。童顔巨乳に違いない! お願いします!」
「先生、オレッちゴールデンフィンガーっす。損はさせないんで付き合ってください!」
「先生、………………処女ですか? 付き合ってください!」
あまりにサイテーな告白文句です。というかさっき和葉先生が言えといったことを本当に言うとは、底抜けのバカたちですね。特にいつきさん、ゴールデンフィンガーって何ですか、ゴールデンフィンガーって……
「さあ、何て答える鈴ちゃん? 童貞殺しの一言を!」
和葉先生がやらしい笑みを浮かべています。この人、緒方先生を怒らせてからかいたいんでしょうか。
ただ緒方先生は怒りもせず、にっこり笑って言いました。
「私、お付き合いしている人がいるから……」
「いやあぁぁぁ!」
「え? あれ? カミ子先生? どこから現れたんですか?」
「嘘ですよね。先生、彼氏がいるとか、嘘ですよね!」
「いや、肩揺さぶらないで、い、痛い……」
「誰ですか、お付き合いしている人って。そんなの許しません。私がいいというまで結婚しないでください。というか、彼氏つくっちゃだめです!」
「ええ? あの、もしかしてこの変な告白、先生が首謀者なんですか?」
「そんなことより、いつまでも清らかな私の妹でいてください」
「いやいや、私のほうが年上なんですが……」
「カミ子ちゃん、よくある断りの文句を真に受けないで」
和葉先生が私の頭を手刀で軽く叩きました。
「なるほど、首謀者は和葉先生でしたか。納得しました」
「酷いな鈴ちゃん、そんなジト目で睨んで。私も被害者なのに」
「いや~、でも面白かったです」
本田さんが満足そうに笑いました。
「それじゃあ、部活に戻ります」
「え? もう終わり?」
和葉先生が不満そうな顔をしました。
「だって女の先生、もういないですよ」
「ええ~」
名残惜しそうです。こういうことは本当に食いつきのいい人です。
しかし女生徒だけでなく、女性教員まで少ない学校です。
すると、向こうから近づいてくる人影が見えました。それは、少し年嵩のいった国語の先生で……
‐マチャ子の場合‐
「ジョゼフィーヌもいるんじゃない?」
「そっか!」
和葉先生の提案にいつきさんが頷きました。
「よーし、捜しに行こうぜ!」
「でもこういう場合、英語でなんて訊けばいいの?」
藍野さんが首を傾げました。
「大丈夫大丈夫、アイラブユーとか言って大げさなジェスチャーしとけば大体理解するだろ。日ごろのあのノリなら」
「…………残念だけど、それはありえそうだわ」
「よーし、これでこれで告白ゲーム、南工女子教員コンプリートだ!」
生徒たちと一緒に階段を上るとき、廊下の向こうではおたふくのような顔がこっちを見ていました。
‐おまけ‐
「あの部品、届いていたんですか」
情報科棟の階段を上りながら藍野さんが言いました。
「うん、昼休みに業者が来て置いてったよ」
新しいバッテリーとカーボンフレーム、塗装用スプレー、その他もろもろと自動車部の備品です。ダンボール二箱あるので荷物持ちに、いつきさんとマキくんもついてきています。
「けど、さっきのジョゼフィーヌの反応もすごかったなぁ」
「男子がみんな固まってた」
「英語はわからなくても、意味は伝わるもんだね」
「それでも好きだとか言ってるのもいた」
「顔だけでそこまで許せる男って、やっぱバカ?」
「まあ、カオスだったのは間違いないね」
「うっ、このにおい……コーヒー?」
職員室の扉を開けると、藍野さんが鼻と口を両手で押さえました。
「いい匂いでしょ?」
「私コーヒーだめなんです」
「え? 変わってますね」
「泥水みたいな臭いと味しかしなくて、換気扇回していいですか?」
「ええ。……あっ……」
換気扇にもし今、豆子さんが居たら……
‐カチッ‐
「ギョアアアアアァァァァ……」




