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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
30/33

サーキットの娘たち3


「痛いじょ」


 エコランカーに乗った秋山さんが頭をさすっています。相変わらずブルマです。体操服にブルマでエコランカーに乗っています。何ともマニアックな組み合わせです。


「まったく、考えなしにベラベラ喋りやがって……」

 まだ顔の赤い本田さん(妹)がハンドルを取り付けています。本校のエコランカーは座席が狭いので、ドライバーが乗ってからハンドルや速度メーターを取り付けるのです。


 秋山さんはスマホのイヤホンをつけています。


「なあなあ、今日はハヤネの好きに走っていい?」


「ダメ!」

 こともなげに否定すると、乱暴にヘルメットを被らせます。


「何で何でぇ~、好きに走りたい、走りたいじょ~!」


「あんたエコランカーで無理矢理ドリフトしようとするでしょうが!」


「そのほうがコーナー速く曲がれるじゃん」


「マシンを壊す気か! エコランカーはそんな風に出来てないって」


「え~」


「え~、じゃない。いつも通り、私の指示に従って。ほら、ボディ被せるぞ」


 イツキさんとマキくんも手伝って、エコランカーのボディを取り付けます。F1カーみたいな形のボディ。見た目は河野工業よりも格好いいです。


「まずは軽く一周ね」


 本田さん(妹)に言われたとおり、秋山さんは普通にコースを走っていきます。その様子をマキくんが動画で撮影していました。


 戻ってきた秋山さんがエコランカーの中から言いました。

「降ろして」


「待ってて」

 本田さん(妹)はスマホをいじっています。こんなときに何をしているのでしょう。画面を覗き込むと、表計算ソフトに数字が色々と書かれていました。


「それは何なの?」


「一周走ったタイムや、それから割り出したタイヤの回転量です」


「本田さん、そんな計算もやってるの? こんな短時間で?」

 本当に優秀な子です。……と、思ったら……


「これは千奏が計算したデータを送ってもらったんです」


「え、稲盛さんが?」


 傍のダンボールを見ました。ダンボールの上には黒猫レンチが置いてあります。


「千奏はマネージャですからね。重量、車高、全長、ホイール長、内輪差などなど、マシンのデータ全てを管理するのが仕事です。チームの参謀ってとこですかね」


 そうですか。ただの引きこもりじゃなかったんですか。


「マネージャって聞いて、タオルやドリンクを準備している人だと思ってました?」


 正直思ってました、スミマセン。


「試しに訊いてみます? 千奏、マシンの前輪と後輪の幅と、時速を教えて」


 本田さん(妹)がダンボールに向かって言いました。すぐに私のショートメールに着信が……


『幅は1メートル12センチ  直線での最大時速は36.4キロ』


「どうです? すごいでしょ」

 自慢げな本田さん(妹)。いやいや、そりより問題が……


「あの、どうして私のスマホの番号を知ってるの?」


 すると再び着信が。本文は……


『うふふふ( ̄ー+ ̄ )』


「………………」

 稲盛千奏、恐ろしい子……



「なあなあ、いつまでこうしてるんじゃ~」

 待たされている秋山さんが、エコランカーの中でぼやいています。


「あー、ちょっと待って。それじゃ、バッテリーの消耗具合を測定しようか。今度は20週走って、最高時速で」


「最高時速? ドリフトはっ?」


「ダメ」


「……」


 エコランカーはゆっくりとスタートしました。直線ではぐんぐんスピードを上げていきます。しかしコーナーを曲がるときには、地に足がついていない軽さを感じました。気が抜けた走りっていうんですかね、こういうの……。


「1週何秒?」

 スマホのタイマーを見つめているいつきさんに、本田さん(妹)が尋ねました。

「1週45秒。軽量化が効いたじゃねえか」


「まだまだ。空気抵抗も減らせるはず……」


『あっ』

 本田さん(妹)のスマホから、秋山さんの焦った声がしました。


「ん? どうしたの、ハヤネ」


『ハンドルはずレタァァぁぁああああ……』


「……は?」


『……ああああああああああああああああああ』


 スマホからは絶叫が響き渡り、直線でスピードが上がっていたエコランカーは曲がることができず、コーナーへ向かっていきます。そしてコーナーの側溝にタイヤがとられ側転。さらに車体は宙を飛びながらコースアウトし、近くにあった河野工業のピットに突っ込んでいきました。河野工業生の阿鼻叫喚がこだまし、エコランカーはというと三回転したところで、横転した状態でやっと停まりました。


 何が起こったのかは理解できたのですが、あまりのことに私たちは反応が出来ませんでした。


「しょ、消火器必要か?」

 いつきさんが尋ねると、本田さん(妹)は我に返ったようでした。


「で、電気自動車だから燃えることはない……と思う」


「ハヤネは?」


 本田さん(妹)がスマホの画面を見ると、通話は途切れていました。


「助けなきゃ!」


 横転しているエコランカーへ、みんなで一斉に走り出しました。 (稲盛さんを除いて)


 真っ先に辿り着いたいつきさんが、どこから持ってきたのかバールを振り上げました。まずいです。そんなのでエコランカーをどついたら、中の秋山さんまで貫いてしまいます。脳天串刺しの血まみれです。


「だー、待って待って、いつき! ボディ壊さないで! 作り直すの大変なんだから!」


 本田さん(妹)、心配はそっちですか……。


 バギィッ


 突如、木が裂けるような音がして、横になったエコランカーのボディが内側から穴が空きました。そして破れた穴からは、ブルマの少女がナメクジのように這い出してきました。


「し、し、し、死ぬかと思った、死ぬかと思った、死ぬかとおもたああぁぁぁぁぁっ!!」

 秋山さんは外れたハンドルを持って絶叫しました。

「どーなってんだじょ! ハンドル取らたああぁぁぁ! 欠陥品じゃ、ロコールじゃんじゃ、ロコールぅうう!」


 ろれつが回ってません。 ”リコール”と言いたいんでしょうか?



「いや~、取り付けるとき、ボルトちょっとゆるかったかなぁ……、ゴメンゴメン。えへへへ……」


 本田さん(妹)、軽いです。


「まあ今回の目的の一つに、事故になったときの救助もあるし、いい予行演習になったんじゃね?」


 いつきさん、言い訳が苦しいです。


「二人とも、この惨状をそんなふうに片付けていいんですか?」


「よくねえ」


 後ろから言われて身が固まりました。恐る恐る振り返ると、豊田先生と河野工業の生徒さんたちが恨みがましく、つ呆れた顔で私たちを睨んでいます。


「この競技は事故を一番注意しなきゃいけねえんだ。嬢ちゃんたち、その意識が低いみてえだな」


 誰も、一言半句も言い返せません。


「今日はもう帰ってくれ」


「……はい」


 そうして合同練習会は終わりました。みんなで運んだエコランカーがやたら重かったです。




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