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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
27/33

モーニングガールズ

 見知らぬ部屋で目が覚める。なんてありそうで実はないファンタジーだと思っていました。お酒で記憶がなくなるなんてのも信じていませんでしたが、今が正にその瞬間です。


 しかも横には若い女性の寝顔が……。

「え……」

 何故、和葉先生と同じベッドに? 何故、二人とも下着姿……?

「え……」

 こういう場合、ドラマに出ている女優のような叫び声は出ませんでいた。狼狽して取り乱すこともありません。ただただ怯えるものなんですね。そして困惑しているけど、その状況を冷静に見つめる自分もいるんです。ただ恐怖からか、無意識のうちに毛布を手繰り寄せていました


 毛布を剥ぎ取られ、下着だけになった和葉先生がくしゃみをして、赤ん坊のように体を丸めました。

「……寒い」

 首から上だけをウツボのように伸ばし、寝ぼけまなこで私を睨みます。

「毛布独り占めしないでよ、カミ子ちゃん」

 そして毛布を引っ張る和葉先生。


「あの……これって、どうなってるんですか?」


「どうなってるってぇ?」


「いや、だから……」


「どうなってるって、嬉し恥ずかし”朝チュン”ってやつでしょ」


「は……あぁ……?」


「知らないの、朝チュン。もしかしてはじめて?」


「そうじゃなくって、どうして和葉先生とこんな状態で……っていうか、ここ何処?」


「え、覚えてないの? やだ、昨日の夜はあんなに激しかったのに。カミ子ったら大人しい顔して以外に肉食系……」


「何もなかったんですね」


「そんなにあっさり断定しないでよ。つまんなぁ~い」


 あんまりにもオーバーアクションで恥らうので、何もなかったとわかりました。


「二人とも朝からうるさいよぉ~」

 ベッドの下から小さな顔が現れました。鈴ちゃんです。


「先生、床で寝てたんですか?」


「何言ってるの? 二人が私のベッドを占領したんでしょぉ~」


 恨みがましい言葉を吐きながら鈴ちゃんは立ち上がりました。彼女はスウェット姿でした。ここは鈴ちゃんの部屋だったんですか。


「あの、どうして私はここで、こんな格好で……?」


「? 覚えてないの?」

 と首を傾げる鈴ちゃん。


「二次会でマティーニ呑みまくってつぶれちゃったんでしょうが」

 和葉先生が言いました。

「そんで一番近い鈴ちゃんのアパートに二人で運んできたの。思い出した? まぁったく、清原先生といいカミ子ちゃんといい、情報科は酒乱ばっかし?」


 返す言葉がありません。とはいえマーライオンと同格にされるのは業腹ですが……。


「あの、私の服は?」


「そこの壁!」


 壁に吊るされているハンガーに、ブラウスもスーツも掛けられていました。い、いつ脱いだんでしょう?


「シワになるからってベッドに入る前に、自分から」


本当マジですか?」


「マジで」


「マジで……。あの、和葉先生……本当に私に何もしてないですよね」


「何かされそうになったのはむしろ私らだ!」


「あっ! 今何時ですか?」


 鈴ちゃんが壁の時計を指差しました。


「7時半、遅刻しちゃう!」


「今日休みだよ」


「部活です」


「ああ、自動車部は休日部活あるんだ。大変だね」


「近くの自動車学校のコースを借りて、試走するんです」


「ここ、学校まで10分で行けるから、まだ大丈夫だよ」


「あ……そうなんですか」


「学校行く前にシャワー浴びたら? 酒臭いって生徒に言われると困るっしょ。それから、昨日の夜からメイク落としてないし」


「あ……」


「それから鈴ちゃん、朝ごはん作って」


「何でよ!」


「何? 客をもてなさないの? 年長者なのに?」


「もぉ、あつかましいんだからぁ……って、タバコ取り出してどうするの?」


「言わずと知れた目覚めの一服を……」


「ここは禁煙!」

 と鈴ちゃんはベランダを指差しました。すごすごと外へ出て行く和葉先生。


「慣れてますね」


「週末はよく泊まりにくるのよ」


「仲いいですね」


「縁きり地蔵にお参りしようかな」


「……じゃあ、私は学校行きますので……」


「遠慮しなくていいから、シャワー浴びてきて。教員というよりも、それじゃ女の子としてまずいよ、カミ子ちゃん」


 女の”子”ですか。22歳の新米教師が自分で言うと、生徒に笑われるんですけどね。



 鈴ちゃんのアパートはユニットバスではなく、トイレとお風呂は別々でした。シャンプーラックにはアヒルのおもちゃとシャンプーハットが……、この人は風呂場まで可愛いな……。酒席では男前ですけど……。


 シャワーに手を掛けた瞬間、浴室の扉が開いて、一毛纏わぬ裸の女性が現れました。マッパの和葉先生です。向こうが全裸なら私も全裸。裸女らじょが二人、仁王立ち。裸女同士の目が合います。そして互いの視線は徐々に降下していきました。


 和葉先生、全身細いです。特にウエスト、全く贅肉がありません。背も高いし、モデル体型とはこういう人のことでしょうか。


 一方、彼女も私の胸を見て、目を大きく見開きました。


「おお、やっぱおっぱいでっかいね。私よりあるわ。では身体測定といきましょうか。さっそく触診から! ぬひひひひひ……」


 栓を捻ってシャワーの蛇口を向けました。浴室に和葉先生の悲鳴が響きました。




「うう、冷たい、冷たいなぁ、カミ子ちゃん。シャワーの水より冷たい」

 毛布を被った和葉先生が何か言ってます。


 ローテーブルの上には鈴ちゃんが用意したトーストがあります。昨日の帰宅が遅かったので、ご飯を炊いておけなかったとのことです。


「もう五月とはいえ、流石に冷水ぶっ掛けられたらたまらないってぇ!」


 おかずはソーセージエッグとサラダ、オレンジのマーマレードジャムとやっぱり可愛いらしいです。床に座って、鈴ちゃんに温かい紅茶を入れてもらう。なんともいい朝を迎えられました。


「風邪ひくってぇ、カミ子ちゃん何すんの?」


「こっちのセリフです。和葉先生こそ何しようとするんですか」


「何って、張りと弾力がどんなもんかと? おっぱいは22歳の時がもっとも張りと弾力があるっていうから、確かめてみようと思って」


「自分が22歳の時に確かめたんじゃないんですか?」


「そのトリビアを知ったのは23になってからなのよ。生涯一度のチャンスをふいにするとは、不覚……」

 すると和葉先生は急に立ち上がりました。毛布が落ちて下着姿になると、私を指差しました。

「22歳のおっぱい、次の誕生日までに必ず揉んでみせる。お前の下乳は常に狙われていると思えよ!」


 あわてて両腕で胸を隠しました。


「和葉先生、男同士とかが好きなんじゃなかったですか?」


「男同士だけでなく、女同士もばっちりよ!」


 ………………何がばっちりなんですか?


「ついでに青姦、緊縛、年齢差はもとより(淫語で攻めるのも攻められるのも好き)ネトラレでも興奮できるんだから。あと野菜でプレイすることも可能だし、ショタにも理解はある! ただ、女子高生以下のロリだけはちょっとね~……」


「…………」

 ダメだ、この人。早く何とかしないと……。


「和葉先生……」


「何?」


「酔ってた方がしおらしくて、きっとモテますよ」


「……(怒)」


「……」


「カミ子ちゃん、さっき見たけどお腹の肉がぷよぷよだったよ」


「……(憤)」


「……」


「人のうちで暴れないでね」

 鈴ちゃんが紅茶を飲みながら言いました。


「鈴ちゃん、紅茶おかわり!」


「自分でやって」


 和葉先生がティーカップを持って立ち上がり、私の横を通ってキッチンへ。すると背筋に寒気に似た感触が……。


「ひにゃあっ!」


「おお、いい~反応」


「何するんですか!」


「背中、人差し指でなぞった。なるほど、カミ子ちゃんはそこが弱いのか」


「和葉先生!」




 変人教師を相手にして、あやうく遅刻するところでした。これでは生徒に面目が立ちません。


 すると部室の前には見慣れない中型トラックが。そしてツナギを着た男の人が、昨日まで本田さんがいじっていたマシンを荷台に載せています。


 誰?


 男の人が振り返ると、私と目が合いました。相手が動きを止めます。つられて私も立ち止まりました。若いです。そして学校では見ない顔です。教員ではないのでしょうか。

 ホントにいったい誰?


「お兄ちゃーん、つみこみ終わったー?」

 言いながら、本田さんがガレージから現れました。

「あ、先生、おはようございます」


「おはよう。あの、こちらは?」


「うちのお兄ちゃ……じゃなくって、兄貴です。マシンを自動車学校まで運ぶのに、手伝いに来てもらったんですよ。兄貴、この人が新しい顧問の先生! 若いでしょ、美人でしょ! 私の言ったとおりでしょ!」


 お兄さん、直立不動で動きません。どうしたんですか?


「うちの兄貴、先生のこと話したら、工業に来る女子なんてブスに決まってる、期待なんかしてねえって言ってたんですよ。どうよ兄貴、カミ子先生は?」


「……か、可愛いな」


「「え……」」


 本田さんも私も明け透けっぽいその一言に、言葉に硬直しました。初対面の人にいきなりそんなこと言われると、顔から火が出るくらい恥ずかしいんですけど……。


「あ、カミ子先生だ。おはざーっス」


 そこへダルそうな顔で現れたのはいつきさんでした。後ろにはマキくんと秋山さんもいます。


「あれ? 先生、昨日と同じ服着ている」


「……!?」


 そんなやる気のない顔しているのに、どうしてそういうところは目敏いんですか、この子?


 さらに秋山さんが私の胸元に顔を近づけ、鼻をクンクンと鳴らします。

「いつもと違う匂いがするんじゃ!」


「化粧水が違うんじゃない?」

 とマキくん。


 そういえばシャワー後の化粧水、鈴ちゃんのものを借りたんでした。


 生徒たちの疑惑の視線が、一斉に私へ集中しました。


「もしかしてお泊りですか? 先生もやることやってるんスね。オレっち、見直しました」


「先生、彼氏いたんですか? 誰? 誰? 誰?」


「まさかウチの教師の誰かとか。空手の大山だったらショックだわ~」


「いや、それだったらむしろ大山先生を尊敬するけどな、ボク」


「「「「確かに!」」」」


「でもよく清原の愛人って言われてるんじゃ! ハヤナ、聞いたことあるんじゃ」


「それは男子どもが噂しているだけだって。私、ウチの教員じゃない気がするなぁ」

 本田さんがじっと私を見つめます。

「大学の先輩とかじゃない? ダンスサークルとかスキーサークルとかの」


「出た、大学のサークル。頭の悪いオレっちたちには無縁の世界。響きからしてヤリまくってる感じするなぁ」


「やらし~です」


「どうなんですか、先生!」


「誰なんですか!」


「ちょ、ちょっと待って、違うから。昨日は緒方先生のアパートに泊まって……」


「え、鈴ちゃんとそういう関係に?」


「鈴ちゃんには和葉先生がいるんだぞ。あの人はミランの師匠で、男も女も合わせてすごい経歴らしいぞ。その和葉先生から鈴ちゃんを奪い取ったとなれば、その上をいくということ?」


 和葉先生、あなたは生徒にいったいどういう眼で見られているんですか? 学校の裏サイトに、とんでもないゴシップが流れているようですが……。


 自動車部員たちは相変わらず私に詰め寄ってきます。


 横目で本田(兄)さんを見ると、呆けた眼で私を見ています。初対面の人になんというスキャンダラスなネタを提供したんですか、この子達は! 私、確実にビッチっぽく見られてませんか? 違うのに!



「出会って一分で失恋かな?」

 本田(妹)さんがポソリと言いました。


 色々ややこしくなりそうな予感が……。


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