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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
26/33

ストレスを溜めた教員たちの宴3


 歓迎会の最後は教頭の一本締めで終わりました。ぱらぱらと先生たちは座敷から出て行きます。


「カミ子先生はカクテルとかどう? 美味しいお店知ってるよ」

 鈴ちゃん先生が誘ってくれました。


「あれだけ飲んで、本当に二次会行くんですね……」

 最早呆れるしかありません


「和葉先生はどうする?」


「ソルティドッグのウォッカ抜きで!」


 ただのグレープフルーツジュースじゃないですか。まあ、だいぶアルコールが抜けて、回復したようでよかったですけど。


 ともかく三人で二次会に行くことになりました。が、出口に向かう途中、横切ったトイレの扉が半開きになっていることに気付きました。しかも扉に挟まれ、マグロのように横たわるメタボ体が……。

「清原先生……」

 それは酔いつぶれた清原先生でした。涎を垂らしながら、トイレの床に口をつけています。大丈夫ですか? と声をかけるよりも、むしろ面倒なものを見つけてしまったという後悔が先にたちました。


「どうする? このトド」

 和葉先生、なかなか辛辣です。


「その前に生きてるの?」


「鈴ちゃん、脈を計ってみて」


「私無理。触れない。カミ子先生、代わりにどうぞ」


「二人ともヒド過ぎです」


 そこへ仲居さんが通りかかりました。いえ、歓迎会がスタートしたとき挨拶に来たお店の女将さんです。まずいです、教員のこんなとこ見られたら。また社会常識がなってないとか、不祥事だとか世間で言われてしまいかねません。


「あらあら、清原先生ったら、また?」


 あれ? 反応が思っていたのと違います。


「ちょっと、清原先生がまた倒れてるわよお。どかして頂戴。それとタクシー呼んでぇ!」


 女将さんが調理場に声をかけると、板前さんが二人やってきて、清原先生の足を一本ずつ持ちました。そのまま頭を引きずってカウンター席まで連れて行きました。


 慣れたものですね。そういえば清原先生も女将さんと顔見知りと言っていたような。


「あの、清原先生とお知り合いなんですか?」


「ええ、この店を持つ前からの付き合いです」

 女将さんは微笑みながら言いました。

「独身のときに勤めていたお店の常連さんだったんですよ。ボトルキープやツケで呑むのはいつものことで、ボーナス日はいつも学校に行ったんです」


「ボーナス日に学校へ、ですか?」


「今の若い人は知らないでしょうけど、昔はお給料は手渡しだったんですよ。だから取立てに行ったんです。それだと生徒や他の職員の手前、逃れられないでしょ。ついでにボーナス袋の厚さを見て、公立校の教師がいくらぐらい貰っているのかもわかっちゃったんですよ」

 そして女将さんはニヤッと含みのある笑みを見せました。

「主人と一緒にこの店を出せたのは、南工なんこうの先生方が私に投資してくれたからなんです。南工の先生には色々と感謝してます」


「ずいぶん長いお付き合いなんですね」


「かなりお世話になりました。特に清原先生は、次男の担任で顧問だったんです。成績はよくないしレギュラーにもなれないしで、色々と迷惑かけたのに、ちゃんと卒業させてくれて……。今ではうちで板前してますし、本当に清原先生には感謝してます。だから南工の先生が来るときはいつも”南工割り”の料金にさせてもらってます。お嬢さんたちも、いつでも呑みに来てくださいね。特にそこの先生」

 と女将さんは鈴ちゃん先生に顔を向けました。

「いい呑みっぷりでした。またいらしてください。お安くしときますよ」


「ど、どうも……」

 鈴ちゃん、照れ笑いです。


 やがてタクシーが店の前に到着しました。しかしどうやってこのメタボ体をタクシーまで運ぶのかが問題です。

 すると板前さんが、裏口から台車を持ってきて清原先生を乗せました。


「生ゴミを運ぶ台車です。酔いつぶれたらいつもこうして運んでいるんですよ」

 女将さんが説明しました。ゴミと清原先生専用車というところですか。

「燃やせないゴミ、ならぬ”もう、やせないゴミ”ですかね」


 まずいです、このダジャレ、不覚にも三人全員笑ってしまいました。


 タクシーに乗せたところで、清原先生がうっすらと目を開けました。


「おや、目を覚ましましたか。家まで道は自分で説明できますね?」


 女将さんの問いかけに「おお~、えあお~」と意味不明な返事を返す清原先生。


「運転手さん、この人の言うところに運んでください」


 べろべろでろれつも回らない状態で、ちゃんと伝えられるんでしょうか?


 ところが急に手を挙げて

「カミ子ちゃん」

 と私を手招きしました。


 また娘になってくれとでも言うのでしょうか? しかし逃げるわけにもいかないので、仕方なくタクシーのところまで行きました。

「何ですか?」


「今日はありがとう。おじさん、マンモスうれピー」


「……………………………………………………!!!」


 のりピー語?


 そんな死語と、凍えるよな空気を残してタクシーは発進しました。


「行ったか?」

 後ろから和葉先生が訊きました。


「はい」


「じゃあ、私たちも次行こうか」

 と私に腕を絡めてきました。

「今夜は寝かさないぜ!」


「何を耳元で囁いているんですか? ……ん?」


 突然、見送っていたタクシーの窓が開いて、清原先生が身を乗り出しました。今度は何でしょう? すると口からリバースの濁流が噴射されました。マーライオンと化した清原先生を箱乗りさせて、タクシーは十字路を左折していきます。


「……あっちの道は、通らないようにしような」


 和葉先生の提案に、鈴ちゃんも私も黙って頷きました。


 後日談になりますが、その日からゴールデンウィーク最終日まで、清原先生は行方不明になったそうです。部活にも家にも現れず、次に姿を見せたのはゴールデンウィーク開けの朝のホームルームでした。


 清原先生がタクシーで何処へ行ったのか、ゴールデンウィークに何をしていたのか、知る人は誰もいません。聞こうとする人もいませんでした。



P.S

 清原先生、娘がいたら言われてみたかった一言、その二

「私のお味噌汁、お母さんの味に似てきたでしょ?」


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