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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
24/33

ストレスを溜めた教員たちの宴1

 四月も終盤、明日からゴールデンウィークになります。ここにきて南野工業高校では、新任教員の歓迎会が行われました。それも高級懐石料亭のお座敷で……。


 後から聞いた話でしたが、教師の忘年会や歓送迎会は、学校全体でホテルや料亭でやるみたいです。


 すでにえんもたけなわ (?)です。この小一時間ほど、私は豪華な和牛懐石のコース料理に箸もつけず、おじさん相手にずっと酌をしています。工業高校の教師は、というか工業科の先生はほとんどが男性の上、十年後には定年を迎えるような方々という高齢化社会。大学出たての新人女教員 (まだ講師)では、こんな席はお茶くみOLとそんな変わりませんか。わかっていましたが……。


「彼氏に酌するように酌してくれぇ。ついでにあ~んって、食べさせてくれるといいなぁ」


「カミ子ちゃん、彼氏いるかぁ?」


「何人ぐらいと付き合ってきたぁ?」


「今、彼氏いないのか? 行き遅れるぞ。知り合いに40で独身もいるんだから」


「いい男いるぞ。30過ぎて頭も薄くなってるやつだけど、紹介しようか?」


 まあ、これぐらいはご挨拶。これでセクハラと言ってはさすがに狭量ですし、愛嬌がないと言われてしまいかねません。適当に笑って流しましょう。


 次の配膳も手伝いました。

「お待たせしました!」

 と天ぷらの盛り合わせを置くと


「それだけじゃないでしょが」

 といきなり柔道部の西郷先生 (ビッグスリー)に睨まれました。


「は? 何でしょう?」


「私もご一緒にどうですか? って言わないと!」


「……」

 うわ~、ただの酔っ払いオヤジです。それも普段は生徒から恐れられている柔道部の顧問がこんなこと言うんですから、落差にショックでかいです。



 すると隅っこの席で手招きしている和葉先生がいました。普段は大きな態度なのに、今日は石の下に潜むダンゴムシのように静かです。


「どうしたんですか?」

 隣に座って尋ねると、和葉先生は小声で言いました。

「カミ子ちゃん、こういうの好きな方なの?」


 どういう意味でしょう?


「好きというか、普通ですけど。大学のゼミやサークルでも飲み会には行きましたし」


「私、苦手なんだよね~」


「……だったら、断ればいいじゃないですか」


「教員の付き合いはそんな緩いものじゃないのよ。そもそもこの世界は実力でも役職でも階級でもなく、年功序列が最優先なんだから……」

 そして工業高校の教員は高齢化が進んでいます。

「しかも工業科のおっさんたちは、体育会系の部活のノリで来る人が多いから堪らん……」

 ため息をする和葉先生。やたらテンション低いです。

「そういやそっちは部員入った、カミ子ちゃん?」


「いいえ、様子を見に来る生徒はいたんですが……マキくんが男と知ったら気味悪がって……結局ゼロです……」


「そうか」


「そっちはどうだったんですか?」


 和葉先生は首を振りました。

「入部してきたのはいいけど、ずっとマニキュア塗っているビッチばかりだった」


「……はぁ」


「あんな爪じゃ料理なんてできやしないって。部活に来ても、体育教師に香水没収されたって愚痴を話すだけで、鍋に水すらりゃしない。それを注意したら……今度は来なくなった」


「……」


「DMが優秀な部員だと感じてしまったよ。それがやたらと腹立たしくてね。あんな天然色ボケビッチを……、DMのくせに……」

 再びため息の和葉先生。

「残ったのは一人だけ。どんなヤツか知りたい?」

 

 聞いてほしいんですね。

「どんな生徒なんですか?」


「髭生えてる」


「……は?」


「女なのに髭生えてる。しかも体脂肪率40パーセント超えてるね、ありゃ」


「……はぁ……髭ですか? 産毛じゃなく……」


「髭だね。あれかな、周りから男性ホルモン受信しすぎて、ホルモンバランス崩れたのかな?」


「……」


「ついでに、すね毛の処理してないのにミニスカ履くし、なかなかのつわものだよ。まあ、うちの学校じゃよくあること、よくあること。あるあるネタだ」


「……」


「タバコでも吸ってこようかな~……」

 和葉先生がため息をして立ち上がろうとすると、横幅の広い陰がその前に立ちました。


「あらあら~和葉先生、ため息をしていると、幸せが逃げちゃうわよ~」

 やたら甲高く、鼻にかかった声でした。この人、たしか国語の正岡政子です。体全体が関取のように丸っこい女の先生です。笑うとおたふくのお面みたいです。この人も体脂肪率高そうです。


「まちゃ子か……」

 和葉先生が露骨に嫌な顔をしました。


「まちゃ子? あだ名ですか?」


「私と同じ2年部の担任」


「まあまあまあ~」

 まちゃ子先生は、擦り寄るようにして私にビールをお酌をしてくれました。

「ねえねえカミ子先生、女子会つくったんだってぇ~」?


「はあ……」

 作ったというより、勝手に立ち上がっていたんですが。


「何で私も誘ってくれなかったのぉ~」


 そんな、猫なで声で胸を摺り寄せてきても、女の私には何の意味もありませんよ。


「まちゃ子先生はダメだよ」

 和葉先生が言いました。

「南工女子会は30以下ってことになっているから」


 うわ~、辛辣……。私なら泣きます。日ごろから毒舌な和葉先生ですが、特に容赦ないし冷たいです。まちゃ子先生のこと、よっぽど嫌いなんですね。


 しかし、まちゃ子先生は意に介した様子はありませんでした。

「大丈夫、私26歳と64ヶ月だから。永遠の20代よ~」


「……」

 ああ、なんだかまたイタそうな人が現れました……。


「そういえばカミ子先生は北高出身なんですってぇ?」

 出身校のことは今までにも何回か聞かれました。いつしか面識のない人にまで知られるようになっていたんですね。


「私、実は初任校が北高校なの」


「え、そうなんですか? ひょっとしたら私が在学中にいたんですか?」

 高校時代の思い出に彼女の顔ないので、私のクラスの授業は受けもっていなかったのでしょう。


「ニアミスしていたかもしれないわねぇ。担任は誰?」


「三年のときは西澤先生でした」


「あらぁっ! 知ってるぅ。趣味で登山している数学の!」


「そうですそうです」


「あと、クラブ通いで借金して、奥さんにキレられていたのよねぇ。周りの先生からもかなり借りていたらしいわよぉ」


「そ、それは……知りませんでした、けど……」

 恩師の意外な裏面を知ってしまいました。教職に携わるとこういうこともあるんですね。


「あの人、去年離婚したそうよ」


「ええっ!」


「それから理科の高橋先生も知ってるぅ?」


「あ、はい……2年のときの物理の先生でした」


「実はあの人もぉ……」


 という具合に、しばらく母校の話題が続きました。その間、和葉先生は渋い顔で天ぷら食べていましたが……。


「そういえば、カミ子先生は普通科目じゃなくて工業科目なんだぁ」


「ええ、情報系専門です」


「ふ~ん、普通校出身で工業高校は大変よねぇ」


「はい、普通校とはまったく違って大変です。」


「そうよねぇ。私も北高からこんなレベルの低いところに来て、うんざりなのよぉ」


 ……はい?


「北高は生徒もいい子ばかりで、レベルの高いこと教えていたのに、こんな偏差値の低い学校に来て辛いわぁ」


 ……へ?


「女だからって舐めた態度とるし、赤点をとっても反省しないし、言葉遣いは悪いし、非常識だし、よく考えもせずわからないって平気で言うし、フケを飛ばすし、不衛生だし、それからADHDや多動性っぽい子が多いわよねぇ。特別支援校とそう変わらないんじゃないかしら」


 発言が危険すぎます。マスコミに取り上げられたら大問題になります。


「今まで私が受け持ったクラスの生徒の半分以上は国立大学に行っってるのよねぇ。そんな私を工業に赴任させるなんておかしいのよ。だから転任するとき、校長や教育委員会に文句言ったのぉ。どぉうして私がこんな頭の悪い子供を教えなきゃいけないのぉって」


 公立高校の上部組織である教育委員会に文句を? この人も相当非常識のような……。


「先生も工業なんて本当は嫌なんじゃなぁい?」


「……」

 和葉先生がこの人を嫌う理由がわかりました。というか他の教員からも嫌われているんじゃないんでしょうか。周りから一人浮いていて、それで北高出身の私ならわかってもらえるだろうと話しかけてきたというところですか。


「こんな低レベルなこともわからないの? って思うわよねぇ。(女だからって話を聞かないし)」


「ま、まあ、でも男の子ですから元気があるのはいいことだと思いますよ」


「うん?」


「それに情報科の生徒は比較的大人しいですし……」


「うん」


「コミュニケーションがとりにくい所はありますけど、数学はそこそこ出来ますよ」


「うーん」


「あと、自動車部の子たちも真面目にやってますから、そんなに大変じゃ……」


「うんうん」


 相槌多いですね。しかも適当。本当に聞いているのか疑わしくなります。とりあえずこの人、ブッているだけでなく、高慢ちきで、……正直ウザい。


 すると突然、ぎゃあっと声を上げました。それはもう、犬が尻尾を踏まれたときのような悲鳴でした。見ると、背後からまちゃ子先生のお尻を撫でている手が。柔道部の西郷先生でした。


「おお、和葉先生じゃなかったか。どうりでケツがでかいはずだ」


「なんですってぇ(怒)。わざとですね」


「いや~、カミ子ちゃんたちだと犯罪っぽいから」


「私なら犯罪にならないとぉ~(怒)」


 どのみちセクハラオヤジは女の共通の敵でした。



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