工業高校あるある その2
自動車部会議の後、私は情報科棟の準備室に戻ってきました。
「はあ…」
何だかどっと疲れました。
「いかんなあ、上尾先生」
「内田先生?」
「ため息をしていると幸せが逃げちゃうよ~ん」
「部活指導の難しさに、疲弊しています。クセのある生徒が多いと大変ですよね」
内田先生は笑いました。
「顧問は放課後の担任だからね。場合によっては担任以上に関わることになるし」
両肩にかかる重みが増しました。
するとノックもなく、いきなり準備室のドアが開いて一人の女子生徒が入ってきました。
「失礼します。堂内ミラン、歌います!」
そして鼻にかかった声で、力いっぱい横隔膜を使って、最近の流行歌を歌い始めました。しかも準備室で、教師の視線を一身に集めながら……。これは百パーセント疑いようのないバカです。まあ、歌は上手いですけど……。カラオケの常連でしょうか?
この子は確か、清原先生のクラスの眉毛のない女子生徒……。急にやってきて何ですか、この子。セーラー服に、フリルつきのエプロンを着て歌を歌う。奇行にもほどがあります。自動車部員みたいです。
「ありがとうございました!」
歌い終わると、情報科教員から拍手が起こりました。皆さん寛容ですね。
「クッキー作ってきました!」
堂内さんはそう言って、皿に乗ったクッキーを来賓用のテーブルの上に置きました。
「クッキー? おうちで作ってきたんですか?」
「ちが~う、部活動!」
「部活?」
「ミランはお嫁さん部なんです!」
「お嫁さん部?」
どこかで聞いたような……。
「ひょっとして和葉先生の……」
「別名・家庭科部~!」
正式名が家庭科部で、別名がお嫁さん部だったはずです。
「これは担任の清原先生のために作ってきました~。あれ? 清原先生は?」
「残念、もう野球部に行ったよ」
クッキーをつまみながら内田先生が答えました。
「え~、最近つれない~」
「一年生にいいピッチャー候補が入ったって言ってたからね~。熱が入ってるみたいだよ~」
「どの科ですかぁ?」
「機械科」
「かっこいい?」
「さあ?」
「紹介してくれないかなぁ」
「バスケ部の彼氏は?」
「四日前に別れた~」
「これで何人目だい?」
「六人目かな?」
「入学して一年でそんなに?」
「違うよ~、今年に入ってからだよ~」
「……」
そこでグラウンドから、野球部の野太い掛け声が聞こえてきました。すると堂内さんがいきなり身もだえし始めました。
「はああぁぁ、やっぱ男子の掛け声っていいわぁ~。この辺りが……」
と円を描くように下腹部を撫でます。
「キュンッてきちゃう……。よっしゃぁっ、やる気が出てきた。いいお嫁さんにならなきゃ!」
「お嫁さんですか?」
「うん、お嫁さん部だから。ミランはぁ、二十歳までに子供産みたいんです!」
「……」
私は既に二十歳過ぎです。まだ未婚です。彼氏もいません。
「内田先生、顧問といい部員といい、家庭科部ってのは変人ばかりですね」
「自動車部が他人のこと言えるのかい?」
「…………失礼な!」
工業高校あるある、その2。男目当てで入学してくる女子。




