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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
12/33

南工女子会発足

 昨日、遅くまで部活に付き合ったので今日は体が重いです。なのに自動車部のみなさんは今日も元気にマシンオイルにまみれています。大したものです、女の子なのに……。


 正午になり、私はコンビニまでお昼ご飯を買いに行きました。ビニール袋を提げて学校に戻ってくると、裏門の前でタバコ吸っている20代半ばの女性に遭遇してしまいました。彼女は暴走族みたいにしゃがんで、マンガを読んでいます。その表紙には、細いタッチの線で裸の男の子が見つめ合うイラスト画が描かれていました。


 こんな人、学校を出る時には見かけませんでした。胡散臭そうなので、素通りしましょう。


 ところが……


「ああー……、どっかにBL落ちてねえかなぁ……」


「……」


 振り返った瞬間、彼女と目が合ってしまいました。マズイです。関わったら稲盛さんや秋山さん並みに面倒臭いことになりそうです。


「工業高校って男子ばっかだから、リアルBL見れると思っていたのに……。空のペットボトルみたいに、そうそう転がっちゃいないかぁ、やっぱ……」


「はあ……?」


「ていうかさ、挨拶ぐらいしていこうよ。これでも先輩教員なんだからさ、上尾先生」

 彼女はふーとタバコの煙を吐きました。


「あ、すいません。はじめまして、上尾さや……って、私の名前何で知ってるんですか?」


「そりゃ有名だもん」

 物憂げな表情で、その先生は言いました。

「ビッグスリーにケンカ売ったって」


「ビッグスリー?」


「野球部の清原、空手部の大山、柔道部の西郷、で生徒指導部のビッグスリー。生徒に最もビビられている体育系教師。でも先生が加わって四天王になったって」


「な、何ですか、それ」


「生徒がツイッターで騒いでた。今度来た情報科の女の先生はおっかないって」


 自動車部の子たち、スマホで何を書いたんですか? しかも噂がこんなに早く広まるなんて、学校って狭い世界ですね。しかもITの普及でさらに狭くなりました。


「あたし、色沢しきたく和葉。教科は家庭科。物質科2年の担任。分掌は保健で、部活はお嫁さん部」


「へ? お嫁さん部……?」


 工業高校には似つかわしくない部活があるんですね。まるで女子高みたいな……。


「別名・調理部だよ」


「……」


 調理部の別名がお嫁さん部なのでは?


「いま、あたしがやっているのが似合わねえとか思っただろ」


「いえ、そんなことは……」


「いや、思ったはずだ。ぜってえ思ったはずだ」


 この人、やっぱり面倒臭い人みたいです。


「似合わねえし面倒臭えんだよ、料理って。何で女の仕事みたいになってんだよ、日本でわ」

 吸い殻を携帯灰皿に捨てながら色沢先生は言いました。家庭科教師とは思えないセリフです。


「他にも色々面倒臭えんだよなあ。生徒ガキどもは彼氏いるの? とか暇さえあれば訊いてくるし。童貞ども黙れってんだよ。そんなにやりたきゃ、お互いのケツを掘り合えばいいだろ。そうすりゃ、あたしも目の保養ができるってのに。ああ、どっかの社長の息子にプロポーズされるか、宝くじ当たらねえかなー」


「あの、料理嫌いなんですか? 家庭科教師なのに」


「ん? 料理は仕事で散々やってるんだ。あたしは仕事をプライベートに持ちこみたくないんだよ」


 この人、家庭科教師やめた方が幸せになれるのではないのでしょうか。


「まあともかく、工業科の教員は高齢化が著しくてさ、おじいちゃん先生が多いんだわ。歳の近い女の先生なんて全校でも少ないから、歓迎するよ。仲良くしていこう、上尾先生」


「はい、こちらこそよろしくお願いします、色沢先生」


「ファーストネームの方で呼んで。あたし、自分大好き人間なんだ」


「はあ、わかりました、和葉先生」


 私たちは固く握手しました。


「んじゃ、これで南工女子会発足ということで……」


「は?」


「じゃあ会員を紹介するよ。ちょっと来て」


「へ?」


 和葉先生は握手した私の手を強引に引っ張っていきました。一体どこぞへ……?


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