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えこらん ~工業系女子高生のカーレース~  作者: パンプキン ぽてと
4月
11/33

ビッグスリー プラス ワン

 燃料であるガソリン、そしてマシンオイルが中庭の池に流出しました。


 マシンはすぐに引き上げましたが、残念ながら池は汚水のため池に変貌しました。



 さらに本田さんが、水に浸ったエンジンを見て泣きそうになっています。


 その横では、腰まで濡れた秋山さんが「冷てぇー!」と騒いでいます。



 どうやら前輪のタイヤがバーストしたようです。路面と接触する際の抵抗を無くすため、タイヤのサイピングを削って、表面を薄くしていたのが原因のようです。

 おまけに秋山さんは荒っぽいコーナーリングをしていましたからね。それは破れやすかったわけです。





 ともかく池が非常にまずいです。鯉が泳いでいるので。このままでは油にまみれて死んでしまうかも……。


 急いで内田先生に報告すると、清掃命令が下りました。


「さっそく僕の上げた作業着が役に立ったねえ」

 と含み笑いを見せる内田先生。


 作業着はブカブカですが仕方ありません。トイレで着替えました。ブラウスとスカートを油まみれにするわけには行けませんから。


 他にもタモ網に大きめの水槽、ビニールプール、モップブラシなど、ちょっと訊ねたら色々貸出してくれました。流石は実業高校、色々なものが常備されているんですね。








 まあそんなこんなで自動車部の皆さんと後始末をしたわけですが、ともかく大変でした。


 まずは鯉の救出から……。


「掴み獲りじゃー」


 裸足になった秋山さんが叫びました。この子はトラブルすら遊んでしまうんですか……。いや、トラブルだと認識していませんね、これは。


「獲った鯉、焼いたら美味しいか……あーだだだだ……」


 本田さんが秋山さんの頬をつねりました。

「うっさい、黙れ」


 ……くわえて反省もしてませんね、この子。




 でも、このあと意外な活躍を見せてくれました。




 少しも怖気ることなく、裸足で池に入っていく秋山さん。油が流出する前から、キレイな水とは言い難い池なのに……、ワイルドです。



「あれ? タモは?」


 秋山さん素手です。何も持たずに池に入っていきました。それで何をするつもりですか? 脳が弱いせいか、忘れ物も多いんですかね。


 と、思っていると、いきなり水の中に両手を突っ込み……


「よっしゃ!」


 次の瞬間、水面から勢いよく手を上げると、そこには鯉が握られていました。


「とったどぉー!」


「う、うそ……」



 秋山さんが胸に抱える鯉は、びちびちと全身をくねらせています。バタつかせています。水しぶきに、体操服がさらに濡れていきます。



「本当に掴み獲りするなんて……、何者?」



 秋山さんは次々に池の魚を捕まえて、水槽に入れていきます。素手で……。



「こういうときには、便利なヤツだなあ」

 イツキくんも関心しています。


「あいつが運転 あやまって池にダイブしたんだから、誰よりも率先して掃除するべきでしょ。責任を果たしているだけだから、そんなに褒めることじゃないって」


「あいのんは相変わらずハヤっちにきびしいなあ」


「むぅ……そう?」



「……ところで、さっきから気になっていたんだけど……」

 と、切りだした私に、二人が振り向きます。

「あの体操服とブルマは、何?」


「ああ、あれはチカがあげたんです」


「稲盛さんが……? あ、そう……」

 何故か納得してしまいます。


「ネット通販で買って、ハヤにあげたんです。似合うからって。ハヤも気に入ったみたいで、部活の時はあれ着てグランド走ってますよ」


「……」


 どうやら稲盛さんと秋山さんは大変気の合う仲のようです。……それだけに不安が増えました。




「お腹すいたーっ!」

 池の中心で秋山さんが叫びます。


 すでに午後一時を過ぎていました。


「これで魚は全部避難させたし、ひとまずお昼にしますか」


 私の提案に、全員が賛成してくれました。



「えっきしっ! うー……」


 おっさんのようなくしゃみ……。秋山さん、もう全身びしょ濡れですね。



「いつき、保健室からタオルもらってきて」


「おう」


「マキくんはカートを部室に運んで行って。後でエンジンを解体整備するから」


「うん」


「ついでにチカを机の下から引っ張り出して連れてきて。まったく猫の手も借りたいくらいだわ」


 本田さんはテキパキと指示を出します。そして自分は、水かさが足りないと思ったのか、鯉が仮住まいしている水槽に水道水を注いでいきます。


 いつきくんとマキさんがいなくなると、秋山さんが池から上がってきました。


「う~、冷たいー。ハヤネばっかりにやらせて、こんなんじゃ風邪ひくんじゃあ」


「知ってる? バカは風邪引かないのよ」


 確かに、秋山さんにはやたらに冷たいですね、本田さん。



 ……と、池から上がってきた秋山さんの濡れて胸に張り付いた体操服を見て気付いたことが……。僅かに隆起した体操服の先に、突起が見えるんですよね。ひょっとしてぇ……いやまさか、そのまさかなんですが、そんなことはありえないんですがひょっとして、まさかのまさかですが……。


「あのー、つかぬことをお聞きしますが、下着は何をつけてます?」


「下着?」


 私の問いに、秋山さんはいきなり体操服をめくって、お腹から首までを自ら晒しました。


「つけてないんじゃ」


「……っっ!!!」


 何もつけていないまっさらな裸身を目の前にして、本田さんと私は珍妙な悲鳴を上げて後ずさりました。


「何でっ? 何っで、何もつけないの?」


「バカだ、あんたバカだっ! バカの天才だぁっ!」


「運動してるなら、せめてスポブラくらいはつけるでしょ!」


「バカバカバカバカ、ハヤのバカー! こんなに男子の多い学校で、女の子がそんな……服一枚だけで、その下に何も着けてないなんて、何してんのよぉっ!」

 本田さんが涙目で罵ります。


「何じゃい、あいのん、そんなにバカバカって。バカって言う方がバカなんだぞ」


「小学生の屁理屈はいらないからっ!」


「あの、秋山さん、ひょっとしてご家庭の経済事情? お金がなくて買えないの?」


 秋山さんは首を振りました。そして顔を赤めて口籠くちごもりながら言いました。

「ブラジャーはだめじゃ。だって、えっちぃっぽいんだもん。花柄とか、超エロいんじゃ……」


 何故そこだけ乙女なんですか? 恥じらいもなく胸を見せたくせに。意味がわかりません。


「それにブラジャーつけると胸が締め付けられて走り辛いんじゃ。つるぺただしいいじゃろ?」


「「よくない!」」


「……その、服がスレて痛くないの?」


「うん。だから走る時は先っちょにテーピング貼り付けてる」


「「な……」」


 何てエロマニアックなスタイル……。そのテーピング剥がすの手伝おうか、と変態的なお世話をやきたがる男子がこの学校に居ないことを切に願います。


 というか、確実にブラジャーつけるより恥ずかしくないですか?


 この子の基準は一般人の斜め上を行っているようです。さすが絶望的なおバカさんです。



「ゲッ」

 校舎の方を見ながら、本田さんが急に顔をしかめました。

「清原先生とタイザンが来る」


「ホントじゃ、クマさんじゃ」


「生徒指導部のビッグスリーが二人も……。やっぱり池に落ちたの怒られるのかな?」


「なんじゃってぇっ!?」



 本館の渡り廊下からこちらにやってくる三人の人影。一人はタオルを持ったいつきくん、もう一人は野球部のユニフォームを着た清原先生、そして最後の一人は……


 何ですか、あのイエティ……じゃない、男性教諭は? 身長は百九十以上ありそうで、関取のような幅広の体型をしています。顔の掘りは深く、尚且ついかつく、さらに威厳ある口髭は戦国時代の猛将を彷彿ほうふつとさせています。清原先生と同じく、あの人も人を殺していますよ、きっと……。


「体育教師の大山先生。通称タイザン、もしくはクマさんです」

 と本田さんが教えてくれました。


 しかし、クマさん……、ぴったりなネーミングですね。


「ハヤ、あんたのハンドル操作が悪いから……」


「あいのんの整備不良のせいで池に落ちたんじゃ!」


「何よ、私がいつも整備にどれだけ苦労してると思ってるのよ。考えなしにアクセル吹かしているくせに!」


「何じゃと!」


 叱られると思った二人は、互いに責任をなすりつけ合い始めました。何と醜い姿……。



 しかし、それ以上に憂慮すべきは、ヌレヌレスケスケの体操服を着た秋山さんの格好です。教師とはいえ、男性にこんな姿を晒すわけにはいきません。ついでにいつきくんにも。初対面の女性に、いきなり抱きついてくるくらいですからね。


「おーい、上尾先生、内田先生に聞いたよ。さっそくやらかしたって?」


「駄目ー!」


 私は三人の前へ走っていき、両手を広げて通行を遮りました。


 突然の大声に、事情を知らない三人は足を止め、呆気にとられています。


「なんだ、どうした?」

 首を傾げる清原先生。


「ここから先は来ては駄目です」


「どうして?」


「部活の邪魔だからです」


「邪魔? 何を言っている?」


「邪魔なんです。そして顧問は私です。言われた通りあっち行ってください!」


 するといつきくんが進み出てきました。

「自動車部のオレっちはいいよな?」


「男は来るなあぁぁーーーー!」


「ひっ……」

 いつきくんがおびえて硬直しました。



「半歩でも近づいたらセクハラです、痴漢です、変態です。それでもここを通りたいと言うのなら……………、私が叫び声あげますよ!」


「……す、すいません…………」


 理解不能、という顔をしながらも、三人とも引き返してくれました。



 ふぅ……、危なかった……。ん?



「先生、すげぇんじゃ……」


 心なしか、秋山さんが目を輝かせながら私を見ています。


「気迫で南工なんこうの生徒指導部ビックスリー二人を追い払った……」


 本田さんも目を丸くして、見つめてきます。



「先生はあらたなビッグスリーじゃ」


「違うでしょ、四人なら四天王じゃない?」


「四天王……強そうじゃ……。これから先生のことは師匠と呼ぶんじゃ!」


「先生、意外に頼もしいですね」


「はあ……」


 経緯いきさつはともかく、初日で生徒の信頼と尊敬の念を得ました。


 しかしまあ、振り返ってみると強面の教師二人によくあんな態度とれたものです。一歩間違っていたらどうなっていたか。自分のことながら呆れてしまいます。


 清原先生には、後でちゃんと謝って説明しないと……。


 あ、何か今頃になって足に震えが……。




                      ◆


 ちなみにこの後、私は校長先生にかなりきつく叱られました。


 教師の不注意で生徒を池に落とすなど言語道断。そういった危険から生徒を守るのが教員の仕事である。今後はもっと注意を払え。……と、いうことでした。


 しかし、あの状況でどうやって池へ落ちるカートを止めろというんでしょう。カートだって私が造ったわけじゃないのに……。結構しんどいです。



 ああ、それから、これ以降自動車部は池の周りをカートで走行することが禁止になりました。

 まあ、仕方ありませんね。



 



 あと、池の掃除は夕方までかかりました。


 私も含め、自動車部全員がくたくたになって、帰ろうかと思っていると……


「これから濡れたエンジンの整備をするよ!」


 と、本田さんが宣言しました。



 全員が、表情と言葉を失いました。


「今日中に水気をふき取って、錆止め塗っておかないと錆びちゃうから!」


「………………」


 結局、本田さんの熱意に負けました。夜九時近くまで、夕飯も食べずにエンジン整備をしました。当然私も最後まで付き合いましたよ。


 作業中は秋山さんのお腹がずっと鳴り響いていました。(さすがにこのときはブルマではなく、ジャージ姿でした。)








 そうそう、最終的に帰るときまでデスクの下から出てきませんでしたね、稲盛さん……。

とりあえずこれで4月1日は終了です。……長い…。

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