第76話 迷惑料としてのダイナミック・プライシング ~100倍の価格設定でも来るなら、徹底的に搾り取ります~
数日後。
私の静かなプライベートビーチに、人間界の成金貴族たちを乗せた豪華客船が次々と押し寄せてきた。
彼らはミナのSNS投稿を見て、我先にと「魔王軍の秘密のリゾート」へ乗り込んできたのだ。
「ああっ、なんて美しい海だ! さっそくあのデッキチェアで自撮りをするぞ!」
「おい給仕! 喉が渇いた、早く冷たい飲み物を持て!」
砂浜は瞬く間に、シルクの帽子や派手なドレスを着た貴族たちで埋め尽くされた。
彼らは島を我が物顔で歩き回り、村の獣人たちを顎で使おうとする。
私はヤシの木陰から、その様子を冷ややかに見つめていた。
休日の静寂を金で売り渡したことには一抹の悔いがある。
だが、CFOとして「利益の最大化」という使命に火がついてしまった以上、この不快感はすべて「数字」で清算させてもらう。
「お待たせしたニャ! 特製ココナッツジュースだニャ!」
ニャルがトレイに乗せて運んできたキンキンに冷えたジュースを受け取り、太った男爵がストローに口をつける。
「うむ、美味い! で、いくらだ? チップも弾んでやるぞ」
「5万マナになるニャ」
ブーッ!!
男爵が盛大にジュースを吹き出した。
「ご、5万マナだと!? たかがヤシの実のジュース一杯が、そんなにするわけがなかろう! ぼったくりにも程があるぞ!」
男爵が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
周囲の貴族たちも「そうだそうだ」「魔王軍の詐欺だ」と同調し始めた。
私はゆっくりと立ち上がり、彼らの前へ歩み出た。
「おや、何か不満でも?」
私が声をかけると、男爵は私を指差して喚いた。
「貴様は魔王軍のCFO! こんな法外な値段設定、王国消費者庁が黙っていないぞ! 原価はいくらだ、原価は!」
「原価など関係ありません」
私は魔導計算機を取り出し、空中にホログラムのグラフを投影した。
「これはダイナミック・プライシングという極めて合理的な経済システムです」
「ダイナミック……なんだと?」
「商品の価格を、需要と供給のバランスに応じてリアルタイムで変動させる仕組みです」
私は冷徹に説明を続けた。
「現在、このリゾートの『完璧なサービスと静かな環境』に対する供給は限られています。対して、SNSを見て押し寄せてきたあなたたちのような『承認欲求に飢えた客』の需要は爆発的に高い」
私は男爵を見下ろした。
「需要が供給を上回れば、価格は上がる。経済の基本です。5万マナという価格は、私からすれば『休日の静寂を奪われた迷惑料』としては安すぎるくらいですよ」
「な、なんだそのふざけた理屈は!」
「ふざけてなどいません。あなたたちが今飲んでいるのは、ただのヤシの実ではない」
私は手元の端末を操作し、ミナのSNS画面を表示させた。
「それは『魔王軍の超VIP限定リゾートで、最高級のジュースを飲んでいる私』というステータスです」
貴族たちが息を呑む。
「もし5万マナが払えないというなら、お引き取りいただいて結構です。港には、あなたたちのキャンセル待ちをしている客の船がまだ何十隻も停泊していますからね」
私はあえて挑発的に微笑んだ。
「ですが、『SNSで自慢するために来たのに、ジュース代が払えずに追い返された』と知れ渡れば、王都の社交界で良い笑い者になるでしょうね」
ぐぬぬ……ッ!
男爵の顔が青ざめる。
彼らにとって、金銭的な損失よりも「見栄が張れない」ことの方が遥かに致命的だ。
「払う! 払ってやるわ! その代わり、最高のサービスを提供しろよ!」
男爵は震える手で魔導端末を操作し、5万マナを一括決済した。
チャリーン。
私の端末に、心地よい着金音が響く。
「毎度ありがとうございますニャ!」
ニャルが満面の笑みで頭を下げる。
これを皮切りに、他の貴族たちも我先にと金を落とし始めた。
「俺は海が見える最高のデッキチェアを借りるぞ! 1日100万マナだ!」
「私はクラーケンの波乗り体験だ! 30万マナ払う!」
彼らは「これだけ高い金を払える自分」に酔いしれ、SNSに写真をアップするためだけに、狂ったような金銭感覚で散財していく。
「クリフ、すごいよこれ」
アリスが横で売上データを見ながら震えている。
「ジュースの原価、実質ゼロ(村の木から採っただけ)なのに。利益率99.9パーセント超えてるよ……」
「これがブランド価値というものです」
私は次々と跳ね上がる売上高を見つめ、フッと息を吐いた。
有給休暇の静けさは失われた。
だが、目の前でこれほどのキャッシュフローが生まれているのを見ると、CFOとしての血が騒いでしまうのは悲しい性だ。
「ミナさん。彼らの承認欲求をさらに煽りなさい。次は『VIP限定・夕日が見える特別ディナー席』のオークションです。開始価格は500万マナから」
「了解! セレブの財布の底、完全に抜いてあげるわ!」
広報のミナがウインクをし、さらなる搾取の準備を進める。
私のバカンスは、完全に世界最高峰の統合型リゾート開発事業へとすり替わっていた。
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昼間のリゾートを満喫した貴族たちが、次に求めるのは「夜の娯楽」だった。
「おい! これだけ大金を払っているのに、夜遊ぶ場所がないとはどういうことだ!」
クレームを受けたクリフは、アリスに命じて即席の遊技場を建設させる。
「イカサマは不要です。確率論と資金力さえあれば、胴元は絶対に勝つようにできていますから」
次回、第77話『統合型リゾートの目玉』
アリス特製、絶対にイカサマできないカジノ。









