表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/80

第58話 多重下請け(中抜き)の闇 ~「無料」のツケは、現場のランチ代から~

 王国政府が鳴り物入りで設立した「国営・勇者公社」。

 その第一号となる「国営ダンジョン・王都支部」のロビーは、連日大盛況だった。


「すげぇ! 本当に入場料無料だ!」

「公務員勇者様が引率してくれるから、俺たちFランクでも安全に潜れるぞ!」


 冒険者たちは歓喜していた。

 これまでは命がけで、しかも高い入場料を払って潜っていたダンジョンが、国の税金で「安全・無料」のテーマパークになったのだ。


 だが、その熱狂の陰で──奇妙な現象が起きていた。


 ◇


 ダンジョン出口の精算カウンター。

 以前『勇-Share』に感動していたFランク冒険者の少年、カイル(16歳)は、受け取った報酬袋を見て硬直していた。


「……えっ?」


 袋の中には、わずかな銅貨が数枚。

 金額にして、100マナ。


「あ、あの……受付のお姉さん? 計算間違ってませんか?

 僕、今日はゴブリンを5匹も倒したんですよ? 素材の市場価格なら、最低でも1,000マナはあるはずじゃ……」


 カイルが恐る恐る尋ねると、窓口の公務員女性は、面倒くさそうに書類を指差した。


「間違ってないわよ。それが『公定価格』だから」


「公定価格?」


「ええ。国営ダンジョンで得た素材は、すべて国が一括で買い上げる決まりなの。

 そこから『安全管理費』、『公務員勇者派遣費』、『施設維持分担金』、『復興特別税』……もろもろ引いて、あなたの手取りは100マナ。

 文句ある? 嫌なら利用しなきゃいいじゃない(入場料タダなんだから)」


「そ、そんな……」


 カイルは愕然とした。

 確かに「入場料」は無料だ。

 だが、その代わりに「報酬」が極限まで買い叩かれている。

 これでは、一日命がけで働いてもパン一個しか買えない。


「……次の方ー」


 カイルの後ろに並んでいた冒険者たちからも、次々と悲鳴が上がる。


「おい! レア鉱石納品して500マナってどういうことだ!」

「民間の買取屋なら10倍で売れるぞ!」

「規則ですので。素材の持ち出しは禁止です」


 怒号が飛び交うロビー。

 その様子を、柱の陰から冷ややかに見つめる二つの影があった。


 私と、アリスだ。


 ◇


「うわぁ……えげつないね」


 アリスが呆れたように呟く。

 彼女の手元の石版スレートには、国営公社の内部サーバーからハッキングした「金の流れ(キャッシュフロー)」が表示されている。


「入場無料のツケを、末端の報酬から回収してるわけ?」


「いいえ、それだけではありません」


 私は眼鏡を光らせ、画面上の複雑な組織図を指差した。


「問題は、この異常なまでの『多重下請け構造』です」


 国営公社の運営には、驚くべきことに数十社もの民間企業が関わっていた。



【発注元:国営・勇者公社】

 ↓(委託費:1億マナ)

【一次請け:ロイヤル・ダンジョン・マネジメント(ポーク侯爵の親族企業)】

 ↓(再委託費:7,000万マナ)※30%中抜き

【二次請け:王都人材派遣サービス(大臣の甥の会社)】

 ↓(再々委託費:5,000万マナ)※20%中抜き

【三次請け:……】

 ↓

【現場の冒険者への報酬原資:500万マナ】



「……なんじゃこりゃ」


 アリスがドン引きしている。


「実際の運営には何の関係もない『ペーパーカンパニー』が何社も挟まって、右から左へ書類を流すだけで手数料を抜いている。

 その結果、現場に落ちる金は……当初の予算のわずか5%です」


「えっと、つまり……」


 アリスがポンと手を打った。


「100マナのハンバーガーを頼んだのに、途中でパンと肉と野菜を全部抜き取られて、『ごま(5マナ)』しか届いてないってこと?」


「……非常に雑な例えですが、正解です」


 私は苦笑した。


「ウチの『勇-Share』は手数料5%を取って、95%を冒険者に還元しています。

 ですが彼らは逆です。95%を既得権益層(貴族たち)が中抜きし、現場には5%しか残らない」


 これが「官製市場」の闇だ。

 「国営」という看板の下で、税金や冒険者の稼ぎが、貴族たちの懐へと還流マネーロンダリングされている。

 

 入場料無料という甘い餌で冒険者を集め、実際には彼らを「安価な労働力」として搾取するシステム。


 ヴァイパーは法律のプロだが、実務(現場管理)については官僚任せにしすぎたようだ。


「……でもさ、冒険者たちは気づいてないの?

 『無料だからお得』って思ってるみたいだけど」


「今はまだ、ね。

 ですが、冒険者は馬鹿ではありません。命を懸けてコスト計算(収支管理)をしている個人事業主です」


 私は騒然とするカウンターを見つめた。

 先ほどの少年、カイルが、公務員に食って掛かっている。


「ふざけんな! こんなはした金じゃ生活できないよ!

 『勇-Share』なら、同じ仕事で2,000マナ貰えたんだぞ!」


「はぁ? あんな魔王軍の怪しいアプリと一緒にするな!

 ここは国の仕事だぞ! 名誉があるだろう!」


「名誉で腹が膨れるかよ! もういい、二度と来るか!」


 カイルは報酬袋を床に叩きつけ、ギルド証を破り捨てて走り去った。

 それを見た他の冒険者たちも、次々と声を上げ始める。


「俺も辞める!」

「タダより高いもんはねぇってことかよ!」

「帰ってアプリで依頼探そうぜ!」


 雪崩現象。

 一度「損だ」と気づけば、潮が引くのは一瞬だ。


 ◇


 その日の夕方。

 魔導ネットワーク上のレビューサイトには、国営公社への低評価の嵐が吹き荒れていた。


【国営・勇者公社 王都支部】

評価:★1.2


『最悪。報酬がゴミすぎる。タダ働きさせられた』

『公務員勇者の態度がデカい。安全管理とか言って何もさせてくれない』

『中抜きヒドすぎ。やっぱり魔王軍のアプリの方がマシ』

『税金使ってこれ? ふざけんな』


 一方で、『勇-Share』の評価は再び上昇を始めていた。


【アプリ『勇-Share』】

評価:★4.8


『戻ってきました。やっぱ現金(即金)が一番』

『手数料5%の神対応に気づいた。魔王軍ありがとう』


「ふふっ。勝負ありですね」


 CFO室で、私は満足げにモニターを閉じた。


「『無料』という魔法は解けました。

 残ったのは、膨れ上がった運営コストと、誰も来なくなったダンジョン……そして、中抜き業者(寄生虫)たちだけです」


 アリスがニヤリと笑う。


「ねえクリフ。このままだと国営公社、大赤字だよね?

 誰がその穴埋めをするの?」


「決まっています」


 私は王都の方角──何も知らない国民たちが暮らす街並みを指差した。


「彼ら(納税者)ですよ。

 ……さあ、次のフェーズです。

 この『巨大な赤字』の請求書を、国民の皆さんに突きつけてあげましょう」


(続く)

[System Notification] |次回予告《NEXT_PREVIEW》

───────────────────

冒険者が去り、閑古鳥が鳴く国営ダンジョン。

だが、ヴァイパーは引かない。「国の威信にかけて、無料は継続する!」

その結果、赤字は雪だるま式に膨れ上がり、ついに国の財政を圧迫し始める。

クリフは追い打ちをかける。


「国営ダンジョンを維持するために、あなたのランチ代が消えています」。


次回、第59話『無限の予算サブシディ vs 増税の予兆』。

「タダ」ほど高いものはないと、国民が知る日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ