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第54話 地下プラントの監査 ~ポテチ代ですか? それは発電効率を上げるための「燃料費」です~

 魔王城、地下100階。

 「第6管理区域」と呼ばれるそのフロアは、地脈から吹き上がる熱気と、冷ややかな魔力冷却液の霧が混ざり合い、異様な雰囲気を醸し出していた。


 私、ヴァイパー、ヒルダ、そしてアリスの四人は、厳重なセキュリティゲートの前に立っていた。


「……随分と仰々しいですね」


 ヴァイパーが周囲を見回す。

 壁には分厚いミスリル合金が使用され、至る所に「警告:高濃度魔力反応あり」のプレートが貼られている。


「当然です。ここにあるのは、我が社のエネルギー戦略の根幹コアですから」


 私はセキュリティカードをかざし、虹彩認証を行う。

 重厚な金属音が響き、プシューッと蒸気を吐き出してゲートが開いた。


「さあ、ご覧ください。

 これが、我々が確立した最強の対勇者ソリューション──『地脈汚染浄化プラント(ヒーロー・フィルターシステム)』です」


 中に入ったヴァイパーとヒルダは、身構えた。

 彼らは想像していたのだろう。

 鎖に繋がれ、魔力を無理やり搾り取られる悲劇の英雄の姿を。あるいは、実験槽に浮かぶ哀れな生体部品を。


 だが。

 彼らの目に飛び込んできたのは、予想の斜め上を行く光景だった。


「……は?」


 そこは、六畳一間の「子供部屋」のような空間だった。

 床には漫画雑誌が散乱し、壁には美少女フィギュアが並んでいる。

 そして部屋の中央、最高級のゲーミングチェアにふんぞり返っている二人の男。


 一人は、かつて聖教国を裏で操っていた転生者キョウヤ。

 もう一人は、その監視役(技術顧問)として派遣されている元勇者アルヴィンだ。


 彼らは今、右手にポテチ、左手に魔導コントローラーを持ち、巨大モニターに向かって叫んでいた。


「オラァッ! そこだアルヴィン! 回復魔法遅ぇよ!」

「うるせぇ! 今クールタイム中なんだよ! お前こそ突っ込みすぎだバカ!」


 二人は協力プレイのゲームに熱中し、ギャーギャーと騒いでいる。

 まるで修学旅行の夜のような光景だ。


 ただ一つ違うのは、部屋の床から伸びた太いパイプが、キョウヤの被っている「ヘルメットのような装置」へと接続され、そこから清浄な光がプラント全体へ送られていることだ。


「な、何ですかこれは……?」


監視役アルヴィンまで一緒になって遊んでるじゃない」


 ヴァイパーとヒルダが呆然と呟く。


「見ての通りです。彼らは今、浄化業務シゴト中です」


 アリスが得意げにモニターの計器を指差した。


【地脈瘴気濃度:危険(Danger)】→【浄化後:清浄(Clean)】

【現在の浄化出力:安定(High Quality)】


「この魔王城の地下には、膨大な『地脈エネルギー』が流れています。でも、それには有害な『瘴気』が含まれていて、そのままじゃ発電に使えません」


 アリスが解説する。


「そこで、転生者キョウヤの持つ規格外の『聖なるオーラ』です!

 彼を『生体フィルター』として間に挟むことで、瘴気をろ過し、クリーンなエネルギーに変換しているんです!」


「……理屈は分かりますが」


 ヒルダが冷ややかな視線を送る。

 彼女は部屋の隅に山積みになった「ポテチ」や「ゲームソフト」の空箱、そして最新の「魔導映像ボックス(全話収録版)」を拾い上げた。


「クリフ。この大量のポテチ、コーラ、そして高額な映像ソフト……。

 まさか、これら全てを『経費』として計上しているわけじゃないでしょうね?」


 鋭い指摘だ。

 普通の会社なら「私的流用」で即アウトだろう。

 だが、私は眼鏡を直し、堂々と答えた。


「当然、全額経費です」


「はぁ? ふざけないで。これのどこが業務に必要なの?」


「必要です。これらは高性能なフィルター機能を維持するための『メンテナンス剤』であり、『触媒カタリスト』ですから」


 私はホワイトボードを引っ張り出し、即席の講義を始めた。


「いいですか、ヒルダさん。

 勇者の『聖なる力』は、彼らの精神状態に深くリンクしています。

 ストレスを感じたり、悲壮感に暮れていては、オーラが濁って浄化効率が落ちてしまう。

 では、最も効率よく瘴気を浄化できる精神状態とは?」


 私はキョウヤとアルヴィンを指差した。

 彼らは今、ゲームに勝利し「よっしゃあああ!」とハイタッチしている。


「──そう、『ノーストレスで快楽に浸っている状態』です。

 彼らがポテチを食い、アニメを見て笑い、ゲームで勝った瞬間のドーパミン……これこそが、聖なる力を活性化させる最強の燃料なのです!

 つまり、このポテチ代は『会議費』でも『交際費』でもない。

 会計上、正当な『燃料調整費』なのです!」


「……っ!」


 ヒルダが言葉に詰まる。

 論理が破綻していないからだ。


「さらに言えば、彼らが見ている新作アニメの限定版ボックス。

 これは浄化効率をブーストさせるための『設備投資(Capex)』にあたります。

 アルヴィンさんが同席しているのも、キョウヤ一人では『孤独感』で出力が下がるため、『対話型インターフェース(遊び相手)』として機能させているのです」


「さらに、元勇者であるアルヴィンも同じく『聖なるオーラ』の加護を持っているので、万が一の際には、予備のフィルターとして機能してくれます。」


「ぐぬぬ……!」


 ヒルダは悔しそうに唸り、手元の魔導計算機を叩いた。

 ポテチ代コストと、それによって得られるクリーンエネルギーの売却益リターン

 ……どう計算しても、圧倒的な黒字だ。浄化装置を機械で作るより遥かにコスパが良い。


「……認めるわ。

 悔しいけど、会計上のロジックは完璧に通ってる。

 これは『遊興費』じゃない……極めて合理的な『必要経費』ね」


 ヒルダが敗北を認めた。

 次はヴァイパーだ。彼は法律家として、別の角度から攻めてきた。


「会計は良くても、法律はどうですか?

 これは人権侵害……『不当拘束』および『強制労働』に当たるのでは?」


 ヴァイパーが防音ガラス越しに、マイクで室内に声をかけた。


「おい、君たち。こんな地下に閉じ込められて辛くないか?

 私が訴えてやれば、すぐにここから出られるぞ」


 キョウヤはポテチをくわえたまま、面倒くさそうに振り返った。

 アルヴィンもコントローラーを置かずに答える。


「あ? 出る? 嫌だよ」


「そうそう。外に出たら働かなきゃいけないだろ? ここは天国だぞ」


「……はい?」


「家賃タダ、電気代タダ、飯はうまいし、魔導回線は爆速。

 しかも、ゲームしてるだけで『世界を浄化してくれてありがとう』って感謝されるんだぜ?

 外の世界なんてクソくらえだ。俺たちは一生ここで暮らすんだ」


 二人は顔を見合わせ、ニシシと笑うと、再びゲーム画面に向き直った。


 完全なる「同意」。いや、むしろ積極的に依存している。

 現代知識を持つ転生者キョウヤにとって、この環境は「究極のニート生活」であり、アルヴィンにとっても「責任のない英雄活動」なのだ。


「……だ、そうです」


 私は肩をすくめた。

 ヴァイパーは口をパクパクさせ、やがて深いため息をついた。


「……被害者(?)の同意がある以上、強制労働には当たりませんね。

 それに、外に放てば『災害』になる連中を、こうして無害化(ニート化)して管理しているなら……治安維持の観点からも、むしろ推奨されるべき……か」


 ヴァイパーも、その法的妥当性を認めざるを得なかった。


「お分かりいただけましたか?

 これが、当社が誇る『召喚勇者リスク』への回答です。

 彼らは敵ではありません。『高効率な環境保全フィルター』です」


 私は二人の監査官に向かって、ニッコリと微笑んだ。


「──監査結果は、いかがで?」


 ヒルダとヴァイパーは顔を見合わせ、苦虫を噛み潰したような顔で、それぞれの監査書類に判を押した。


『財務監査:承認(Approved)』

『法務監査:承認(Approved)』


「……合格よ。文句のつけようがないわ」


「ええ。まさか『ニート生活』をビジネスモデルに昇華させるとは……恐れ入りました」


 こうして、最大の懸念事項だった「勇者リスク」はクリアされた。

 地下に響くキョウヤとアルヴィンの馬鹿笑いが、魔王城のエネルギー供給を、そして我々の上場への道を、クリーンに支えていた。


(続く)

[System Notification] |次回予告《NEXT_PREVIEW》

───────────────────

監査はパスした。だが、ヴァイパーたちはまだ諦めていない。

ヒルダは不敵に笑う。「貴社の帳簿は綺麗ね。……王国の裏帳簿よりもよっぽど」

その言葉がフラグとなり、翌日、王国議会から理不尽な動議が提出される。


「人権保護のため、キョウヤたちを解放せよ(=魔王軍の電源を止めろ)」


次回、第55話『監査の魔女ヒルダの逆鱗』。

「きれいな帳簿」が、逆に王国の闇を浮き彫りにする。

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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