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第53話 目論見書の「事業等のリスク」 ~最大のリスク要因は「召喚勇者(異世界人)」の出現です~

 アプリ『勇-Share』の爆発的ヒットにより、魔王軍の評価は一時的に回復した。

 だが、上場への道はまだ険しい。

 魔王城、応接室。そこには、再びあの「法の番人」が鎮座していた。


 王国財務省・特別顧問、ヴァイパー。

 そしてその隣には、もう一人。喪服のような黒いドレスに身を包み、片眼鏡モノクルを光らせた初老の女性――王立国税局マルサ統括官、ヒルダも同席していた。


「……やれやれ。まさか財務省と国税局のツートップにお越しいただけるとは」


 私はコーヒーを出しながら苦笑した。


「当然です。貴社のような『反社会的勢力』が上場するのです。法務と税務、両面からの徹底的な監視が必要ですからね」


 ヒルダが不機嫌そうに鼻を鳴らす。彼女は以前、勇者アルヴィンを脱税で逮捕した「マルサの魔女」だ。今日は上場審査の「外部監査役」として送り込まれてきたらしい。


 ヴァイパーは私の作成した『目論見書もくろみしょ』――投資家への説明資料を、まるで汚物でも見るような目で検分し、バンと机を叩いた。


「……お粗末ですね、クリフさん。これでは話になりません」


「どこか不備でも?」


「『事業等のリスク』です。貴社は自分たちにとって都合の悪い真実を隠蔽している」


 ヴァイパーが指差したのは、第4項【競合および外的要因について】の欄だ。


「貴方はここに『既存の勇者(アルヴィン等)は無力化済みであり、リスクは限定的である』と書いています。

 ……ですが、投資家保護の観点から、もっと重大なリスクを記載すべきでしょう?」


 ヴァイパーは氷のような声で告げた。


「『異世界召喚勇者イセカイ・ストレンジャー』……。彼らの出現リスクです」


 私は眉をひそめた。


「……召喚勇者ですか。発生確率は極めて稀ですが」


「ですが、一度現れれば『生きた災害』だ!」


 ヴァイパーが声を荒らげる。


「彼らはある日突然、異世界から『チートスキル』を持って現れ、論理も経済も無視して魔王を討ち取る。

 もし上場直後にそんな怪物が現れたら、株価はゼロ。投資家は破産です。

 この『予測不能な最大リスク(ブラックスワン)』への対策が記載されていない以上、この目論見書は『虚偽記載』にあたります」


 隣でヒルダも冷ややかに追撃する。


「そうね。もし対策がないなら、貴社の『企業価値バリュエーション』はゼロよ。上場なんて夢のまた夢だわ」


 彼らは勝ち誇った顔で宣告した。


「よって、貴社の上場申請は『不承認リジェクト』とします。出直してきなさい……もっとも、対策など不可能な自然災害でしょうがね」


 痛いところを突かれた。

 確かに、異世界転生者はビジネスにおける最大のノイズだ。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。


 私は静かに眼鏡を直し、冷徹に言い返した。


「……お待ちください。不承認には当たりません。

 そのリスクについては、既に『織り込み済み』です」


「何だと?」


 私は魔導石版のキーボードを叩き、目論見書の修正案をモニターに表示させた。



【リスク要因への対抗策】

当社は、突発的な『召喚勇者』の出現に対し、「捕獲・管理(M&A)」および「エネルギーリサイクル(再資源化)」による有効なカウンターメジャー(対抗策)を確立しております。



「は……?」

 ヴァイパーが目を丸くし、次いで鼻で笑った。


「バカな。苦し紛れもいい加減にしなさい。

 『勇者を捕獲してエネルギーにする』?

 そんな荒唐無稽な話、誰が信じるのです? 実体のない技術を騙るなら、それこそ詐欺罪ですよ」


「詐欺ではありません。実在する『技術』です」


 私は席を立ち、二人の監査官を見下ろした。


「疑うなら、ご自身の目で確かめますか?

 当社の地下プラントへご案内しましょう。

 そこで、『管理された勇者』の実物をお見せします」


「……ほう」


 ヴァイパーの目が怪しく光った。


「いいでしょう。その『嘘』、暴いて差し上げます。

 もし現場に実体がなければ、その場で『上場審査打ち切り』とさせていただきますよ」


 ヒルダも立ち上がり、真紅のコートを翻した。


「私も行くわ。その『勇者』とやらが本当に資産価値のあるものなのか、私の『脱税視タックス・アイ』で厳しく査定してあげる」


「構いません。ただし、見た後で腰を抜かさないでくださいね」


 私はアリスに目配せをした。


「アリス、地下の『彼』の準備は?」


「うん、バッチリ! さっき新品のポテチと、最新のアニメ(録画)を差し入れしといたから、機嫌は最高だよ!」


「よし。……では、参りましょうか、監査官殿」


 私たちはCFO室を出て、魔王城の最深部――一般社員すら立ち入り禁止の「第6管理区域」へと向かうエレベーターに乗り込んだ。

 法務の悪魔ヴァイパーと、税務の魔女ヒルダ

 最強にして最悪の監査チームを引き連れ、私は地下へと潜った。


(続く)

[System Notification] |次回予告《NEXT_PREVIEW》

―――――――――――――――――――

ヴァイパーたちが意気揚々と乗り込んだ地下施設。

そこで彼らが見たのは、鎖に繋がれた英雄……ではなく、ふかふかのソファでポテチを食いながら「異世界アニメ」を見て爆笑する、Sランク勇者キョウヤの姿だった。

ヒルダが呆れて問う。「……このお菓子代は何?」

クリフは答える。


「燃料費です」


次回、第54話『地下プラントの監査』。

勇者の笑い声が、魔王城の電気を支えている。

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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