表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/77

第39話 内部告発(リーク) ~海外からの悲報、神の金庫は空っぽでした~

 聖都の熱狂は、深夜になっても冷めやるどころか、さらに加熱していた。


『買え! もっと買え! 魔導聖遺物こそが、新時代の信仰だ!』


 広場の巨大スクリーンでは、キョウヤが絶叫し、その横で魔導車椅子に拘束されたアルヴィンが、まるで祭りの灯籠のようにビカビカと明滅させられている。


 信者たちは、手持ちの現金をすべて「魔導聖遺物」に変え、その画面上の数字が増えるのを見て、恍惚の表情を浮かべていた。


 ――だが、その宴もここまでだ。


 廃倉庫の一室。

 アリスが、複数枚の魔導書簡メールをディスプレイに並べ、送信準備を整えていた。


「宛先リストの確認完了。

 『帝国経済新聞』、『週刊暴露』、『大陸格付け機関』……あと、近隣諸国の情報局にもCC入れといたよ」


「完璧です、アリス」


 私は魔導計算機を叩く手を止めた。

 液晶に表示された数字は、我々が国際市場で空売りを仕込んだ聖教国債の総額。

 現在、バブルによって最高値を更新中だ。


「大将……本当にやるのか? 直接放送をジャックして真実を叫ぶんじゃねぇのか?」


 ガントが不思議そうに尋ねる。

 私は静かに首を横に振った。


「そんな品のない真似はしませんよ。それに、私が直接言ったところで、狂信者たちは『悪魔のデマだ』と耳を貸さないでしょう」


 私はコーヒーカップを傾けた。


「信じさせるには、彼らが権威を感じている『外部からの客観的評価』を利用するのが一番です。

 海外の投資家たちがパニックになって売り始めれば……その事実は、どんな叫び声よりも雄弁に『この国の終わり』を告げるでしょう」


「なるほどな。外堀から埋めるってわけか」


「ええ。アリス、やりなさい。

 全世界に教えてあげるのです。……彼らが崇める『神の金庫』の、本当の中身を」


「了解! ……ポチッとな!」


 アリスが軽い手つきで、送信キーを叩いた。

 聖教国中央銀行の内部監査データ――「預金残高ゼロ」の証拠が、光の速さで世界中のメディアと機関投資家へばら撒かれた。


 ◇


 ――10分後。

 異変は、聖都の外から始まった。


 聖教国の国境警備隊や、貿易商人たちが持つ魔導端末が、一斉に警報音を鳴らし始めたのだ。


『緊急速報! 聖教国債、国際市場で大暴落!』

『格付け機関、聖教国の信用ランクを「D(デフォルト懸念)」へ引き下げ!』

『週刊暴露スクープ! 「神の金庫は空っぽ!? キョウヤ氏による巨額横領疑惑」』


 海外からの情報は、せき止められない濁流となって国内へ流れ込んだ。


 聖都の広場。

 キョウヤの演説中、ふと一人の信者が端末を見て声を上げた。


「……え? おい、なんだこれ」


 彼が見ていたのは、キョウヤのチャンネルではない。海外の経済ニュースだ。

 そこには、真っ赤な矢印と共に「聖教国経済、崩壊の危機」というテロップが踊っていた。


「嘘だろ……? 海外のニュースで、銀行にお金がないって言ってるぞ……」

「週刊誌にも載ってる! キョウヤ様が、俺たちの金を海外に持ち逃げしたって……!」


 ざわめきは、さざ波のように広場全体へ広がっていった。

 

『えー、皆さん? どうしました? もっと盛り上がって……』


 ステージ上のキョウヤが異変に気づいた時、広場の巨大スクリーン――先ほどまで彼を映していた公式放送――が、突如として切り替わった。


 国営放送局が、世界的な大ニュースを無視できず、「緊急報道特番」を差し込んだのだ。


『番組を変更してお伝えします!

 たった今、国際金融市場において聖教国債が大暴落しました!

 原因は、海外メディアにリークされた聖教国の「中央銀行の内部データ」と見られます!』


 ドンッ!

 画面に映し出されたのは、アリスがリークしたあの画像。

 空っぽの地下金庫と、埃を被った床の写真だった。


『現在、中央銀行の預金準備率は0.1%未満との情報が入っております!

 これが事実であれば、聖貨の裏付けは完全に消失し……』


 アナウンサーの声が震えている。

 その映像は、何よりも雄弁だった。


 ◇


「な、ななな……!?」


 特設ステージの上で、キョウヤは顔面蒼白になり、持っていた魔導喫煙具を取り落とした。


「き、切レ! 放送を切れェェェッ!! なんだそのデタラメは!!」


 彼は血相を変えて怒鳴り散らすが、もう遅い。

 「海外のニュース」というお墨付きを得た情報は、絶対的な真実として信者たちの脳髄に突き刺さる。


 熱狂が冷め、代わりに底知れぬ恐怖が這い上がってくる。


「……おい、俺たちの預金、ないって言ったか?」

「海外の投資家が逃げ出してるってことは……マジなのか?」

「ま、待って。私が全財産をつぎ込んだこの魔導聖遺物……現金に戻せるの……?」


 誰かが叫んだ。


「か、金だ! 金を返せぇぇぇッ!!」


 その叫びは、一瞬で数万人の合唱になった。


「取り付け騒ぎ(バンク・ラン)だ! 急げ! 銀行が閉まるぞ!」

「俺の金だ! 泥棒! キョウヤを出せ!」


 ドドドドドドドドッ!!


 群衆が雪崩を打って動き出した。

 向かう先は、広場の向かいにある中央銀行本店。

 怒号。悲鳴。そしてガラスが割れる音。

 さっきまでの祭りの会場は、一瞬にして暴動の巷と化した。


 ◇


「……始まりましたね」


 廃倉庫の窓から、遠くで上がる黒煙を見つめながら、私は静かに言った。

 手元の端末では、国際市場のマナ建て国債価格が、崖から落ちるように暴落していく様子が表示されている。


「人は、目の前の教祖の言葉よりも、遠くの『権威あるニュース』の方を信じるものです。

 これで『魔導聖遺物』の魔法は解けました。これからは、現実リアルの精算の時間です」


 アリスが満足げに伸びをした。


「いやー、さすが『週刊暴露』。仕事が早いね。

 これでキョウヤの信用は地に落ちた。……で、次は?」


「ガント、出番ですよ。

 暴動が激化すれば、ここも安全ではなくなります。

 混乱に乗じて本社機能を移転しつつ……次なる一手の準備を」


「へっ、任せな! マンホール盾の出番だな!」


 ガントが頼もしく笑う。

 

 残り時間、あと7日と2時間。

 聖教国崩壊の鐘が、高らかに鳴り響いた。


(続く)

[System Notification] |次回予告《NEXT_PREVIEW》

―――――――――――――――――――

嘘が暴かれ、信仰は暴動へと変わる。 銀行に殺到する群衆。暴落する国債。紙屑となる聖貨。

絶望するキョウヤを他所に、クリフは淡々と利益を確定させる。

「3,000億マナ。……これで我々は、対等な立場になりました」


次回、第40話『取り付け騒ぎ(バンク・ラン)』

経済戦争の勝者が決まる時。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ