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第37話 第三勢力、聖都に到着 ~感動の再会? いいえ、新規コンテンツ(商材)の入荷です~

 聖教国の中枢、大聖堂の最上階。

 そこは教皇の執務室であり、同時にキョウヤのプライベートオフィスでもあった。


 ふかふかの革張りソファ。高級なシャンパンタワー。

 窓の外には、魔導聖遺物バブルに沸く聖都の夜景が広がっている。


「……なるほどねぇ。魔王軍が給与未払いで崩壊寸前、と」


 キョウヤは紫煙をくゆらせながら、目の前の二人を値踏みするように見下ろした。


 一人は、薄汚れた囚人服を着た少女、元・聖女ミナ。

 もう一人は、魔導車椅子に乗せられ、虚ろな目で天井を見上げている男、元・勇者アルヴィン。


「はい! そうです、キョウヤ様!」


 ミナが涙ながらに訴える。その瞳は潤んでいるが、計算高い光が宿っている。


「あの冷酷なCFO(最高財務責任者)クリフ……あいつのせいで、私たちは地獄を見ました!

 アルヴィン様は実験動物にされ、私はトイレ掃除をさせられ……。

 どうか、私たちを保護してください! 私たちは『魔王軍の非道』を世界に伝える証人になれます!」


 完璧な「悲劇のヒロイン」の演技だ。

 だが、キョウヤの反応は冷淡だった。


「ふーん。かわいそうに。……で?」


「え……?」


「『かわいそう』なのは分かったけどさ。それ、金になるの?」


 キョウヤは魔導喫煙具を灰皿に押し付けた。


「俺は慈善事業家じゃないんだ。君らを養うメリット(ROI)を提示してよ。

 魔王軍の情報? そんなもん、もう興味ないね。あと一週間であそこは勝手に潰れるから」


「そ、そんな……!」


 ミナが言葉を詰まらせる。

 役に立たなければ捨てられる。その空気を察知した彼女は、瞬時に表情を変えた。


「……使えますよ。私たち」


「ほう?」


「今の聖教国は『清純派』の聖女セレスティア様の一強ですよね?

 でも、大衆は飽きっぽい。そろそろ刺激スパイスが欲しくありませんか?」


 ミナはニヤリと笑った。それは聖女ではなく、悪女の笑みだった。


「清廉潔白な光の聖女と、魔王軍に汚された闇の聖女わたし

 ……対立構造プロレスを作れば、信者はもっと熱狂します」


 キョウヤの目が大きく見開かれ、そして――口角が吊り上がった。


「ハハッ! いい性格してるねぇ! 気に入ったよ!」


 彼はパンと手を叩いた。


「採用だ。君にはセレスティアのライバル、『地下アイドル聖女』としてデビューしてもらう。

 『炎上』と『暴露』で信者を煽り、投げ銭を競わせるんだ!」


「ありがとうございます!」


「で、そっちの廃人(勇者)はどうする? 見たところ、もう戦えないだろ?」


 キョウヤが顎でアルヴィンを指す。

 アルヴィンは「ウウッ……マナ……」と呻くだけだ。


「彼は……その、とびきり純度の高いマナを持っていますから」


 ミナが視線を泳がせる。

 すると、キョウヤがアルヴィンに近づき、その体に触れた。


「……すごいな。体が勝手に発光してやがる。地脈のマナを限界まで詰め込まれたのか」


 キョウヤは邪悪に笑った。


「使える。こいつは最高の『舞台装置(機材)』になるぞ」


 ◇


 ――数分後。

 街頭スクリーンに『緊急特別番組』の文字が躍った。


『信者の皆さん、こんばんは! プロデューサーのキョウヤです!

 今日は悲しいお知らせと、重大な発表があります!』


 画面には、ボロボロの服を着て泣き崩れるミナと、その後ろで布を被せられた魔導車椅子が映っている。


『魔王軍の卑劣な拷問から、命からがら逃げ延びた英雄がいます!

 紹介しましょう、元聖女ミナちゃんです!』


『うぅ……怖かったです……! クリフという男が、毎日魔導計算機で殴ってきて……!』


 ミナの嘘泣きに、広場の群衆が「なんてことだ!」「許せん!」とどよめく。

 キョウヤがマイクを握り直す。


『彼女たちを救うには、皆さんの祈りが必要です!

 そして……見てください、この変わり果てた勇者の姿を!』


 バサッ!

 キョウヤが車椅子の布を取り払った。

 そこには、体中にチューブを繋がれ、白目を剥いたアルヴィンの姿があった。


『彼は魔力を奪われ、もう自力では光ることすらできません!

 ですが、皆さんが魔導聖遺物を買って徳を送れば……奇跡が起きます!

 さあ、勇者に光を! ライティング・オン!!』


 キョウヤが指を鳴らす。

 同時に、アルヴィンの背後に設置された装置から、強制的に魔力刺激が流された。


「ア、アアアアアッ!!」


 アルヴィンが絶叫する。

 その体から、目も眩むような黄金の光が噴出した。

 それは聖なる輝きではない。過負荷による生体発光だ。

 彼は人間LED(照明器具)として、ステージを派手に照らし出した。


『おおっ! 見よ、これが信仰の力だ!

 もっと輝け! もっと徳を積め! 今すぐ魔導聖遺物を購入して、彼らを応援しよう!』


 ワァァァァァッ!!


 熱狂。狂乱。

 「勇者を救え」という大義名分を得た信者たちが、狂ったように魔導聖遺物を買い漁る。

 グラフが垂直に跳ね上がる。


 ミナはスポットライト(アルヴィンの光)を浴びて、恍惚とした表情で歌い始めた。

 アルヴィンは涙を流しながら、ただビカビカと点滅を繰り返していた。


 ◇


「……趣味が悪いにも程がありますね」


 デーモン・クレジットのオフィスで、私は吐き捨てるように言った。

 ガントは怒りで震え、拳を机に叩きつけている。


「あの野郎……! いくら勇者がクズでも、あんな見世物にするなんて許せねぇ! あれじゃただの電球じゃねぇか!」


「同感だよ。キョウヤには美学がない」


 アリスも不快そうに顔をしかめている。


 だが、私は感情を押し殺し、冷静に市場の反応を分析した。


「しかし、効果は絶大です。

 この放送で『同情票』という新たな資金流入が生まれました。魔導聖遺物の価格はさらに高騰し、バブルは極限まで膨らむでしょう」


 私は手元に積み上がった手形の山(債権)を見た。

 買い集めた額面総額は、すでに10億聖貨を超えている。

 全て、キョウヤのバブルに踊らされ、資金繰りに行き詰まった者たちの屍だ。


「ミナは自分が主役になったつもりでしょうが……彼女もまた、キョウヤの使い捨ての駒に過ぎない」


 風船はパンパンに膨らんでいる。

 針を刺せば、爆音と共に弾け飛ぶだろう。


「アリス、ガント。準備はいいですか?

 キョウヤがこの『新商品(ミナと勇者)』で浮かれている今こそが、最大の隙です」


 私は眼鏡を光らせた。


「そろそろ仕掛けますよ。……史上最大規模の『空売り(ショート)』を」


 残り時間、あと7日と5時間。

 役者は揃った。あとは、舞台を破壊するだけだ。


(続く)

[System Notification] |次回予告《NEXT_PREVIEW》

―――――――――――――――――――

聖教国公式イベント、聖女総選挙。 清廉なセレスティアと、悪女に堕ちたミナ。二人の対立煽りにより、魔導聖遺物の価格は天井知らずに高騰する。

その熱狂の裏で、クリフは静かに準備を整えていた。

「上がれば上がるほど、落ちる時の衝撃は大きくなる」


次回、第38話『聖女対決プロレス

光と闇の投げ銭バトル、その裏で空売り(ショート)を。

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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