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第27話 代替エネルギー投資と利権の闇。邪魔する老害は、資産ごと排除します ~「伝統」を守りたい? いいえ、貴方たちが守りたいのは「在庫の評価額」でしょう~

 魔王城・地下大空洞。

 そこには、CTO(最高技術責任者)アリスが設計し、元・闇市場(ブラック・マーケット)の技術者たちが建造した、巨大な魔導プラントが稼働していた。



 ──ズズズズズ……ンンンンン……。



 腹の底に響くような重低音が、空間全体を震わせている。

 だが、それは不快な騒音ではない。巨大な心臓が力強く脈打つような、頼もしい鼓動だ。


「ご紹介します、社長。これが我が社の起死回生の策――地脈循環発電(レイライン・サイクル)です」


 私が指し示した先で、巨大なタービンが静かな音を立てて回っている。

 特筆すべきは、その「空気」だ。


 従来の魔石炉ならば、鼻を刺す硫黄臭や煤煙の匂いが充満するところだが、ここは違う。

 雨上がりの森のような、少し金属的で澄んだオゾンの匂いが漂っている。


「す、すごい……! 魔石を燃やしていないのに、魔力が湧いてくるぞ!」


 魔王ゼノンが目を輝かせ、配管の一つに恐る恐る手を触れる。

 

「……温かい。いや、熱いくらいじゃ」


 パイプの中を流れているのは、大地そのものから吸い上げた熱き血潮(地脈)だ。

 私は手元の端末を操作し、ゼノンに試算表を提示した。



>>> COST_ANALYSIS

[比較]:市民への提供価格(1単位あたり)


▼ 旧:輸入魔石(バグラム産)

 原価:500マナ(高騰中)

 傾向:■■■■■(上昇トレンド)


▼ 新:地脈エネルギー(自社生産)

 原価:5マナ(維持費のみ)

 傾向:□□□□□(低価格安定)

>>>



「ご、5マナだと!? 100分の1ではないか!」


「ええ。これなら、凍えている市民全員に、タダ同然で暖房を提供できます」


「素晴らしい! ならばすぐに配給じゃ! 今すぐにゲートを開け!」


 ゼノンが即断即決しようとした、その時だった。


 ──カツーン、カツーン。ジャラ、ジャラ……。



 硬質な靴音と、過剰な金属音が静寂を破った。

 同時に、清浄だったプラントの空気が、むせ返るような甘ったるい香水の匂いに侵食される。


「ま、待たれよ魔王様! そのような怪しげな技術、断じて認められませんぞ!」


 現れたのは、豪華な衣装を纏った数名の老魔族たち。

 彼らは魔界の経済を古くから牛耳る『魔石商工会』の重鎮たちだ。


「地脈などという不安定なもの、信頼できません! やはり伝統ある『魔石』こそが至高!」

「そうです! それに、そんな安値で魔力をばら撒かれては、市場の秩序が崩壊します!」


 彼らは口角泡を飛ばして反対する。

 その必死な形相からは、脂汗の臭いと、隠しきれない欲望の悪臭が漂ってくるようだ。


 私の目は誤魔化せない。


「……秩序、ですか。本音をおっしゃったらどうです?」


 私は彼らの前に立ちはだかり、眼鏡を光らせた。


「貴方たちは、倉庫に『魔石』を山ほど抱え込んでいる。……今の価格高騰で、在庫の価値が跳ね上がって笑いが止まらないはずだ」



「な、なんのことかね……」


「そこに、この『タダ同然の新エネルギー』が普及してしまえば……貴方たちの在庫はゴミ屑になり、大損害を被る。……だから反対しているのでしょう?」


「市民の命よりも、自分の『帳簿上の利益』を守るために」



 図星を突かれた老人たちが、顔を赤くして激昂する。


「ぐ、愚弄する気か若造が! 我々を誰だと思っている!」

「我々は魔界の物流すべてを握る商工会だぞ! 我々の協力なしに、どうやって各家庭に魔力を届けるつもりだ!」



 これが既得権益ベステッド・インタレストの壁だ。

 彼らは「パイプライン(配送網)」を人質に取っている。

 協力しなければ、いくら発電しても市民には届かない――そう高を括っているのだ。


 ゼノンが困った顔をするが、私は冷たく微笑んだ。


「物流網……ああ、あの『古くて非効率なパイプ』のことですか?」


「な、なんだと!?」


「ご安心なく。……そんなものは使いません」


 私が指し鳴らすと、プラントの空間に無数の『黒いゲート(転移門)』が開いた。

 

 ヒュゥゥゥ……。


 ゲートが開いた瞬間、気圧差で風が巻き起こる。

 その風に乗って、ゲートの向こう側から、どこか懐かしい匂いが漂ってきた。

 ──それは、薪が燃える匂いではなく、かまどで煮炊きされる「スープの香り」だった。


「我々は先日、ある『裏ルート』を買収しましてね。……かつて闇市場が使っていた密輸用の転移ネットワークです」


「この直販ルート(D2C)を使えば、貴方たち仲介業者(中抜き)を通さず、生産地から消費地へダイレクトにエネルギーを送れます」


「な、な、馬鹿な!? そんな裏技が……!」


技術革新イノベーションとは、古い権益を破壊するものです。……さあ、アリス。送電開始スイッチ・オン


 ゴォォォォン!!



 プラントが唸りを上げ、ゲートを通じて温かな魔力の光が魔界全土へ配信される。

 凍えきっていた魔界の空気が、ふわりと緩むのを肌で感じた。


 モニターの向こうでは、凍りついていた街に再び「命の熱」が戻っていく。

 映し出されたのは、貧民街の小さな部屋だ。

 若い母親が、温まった魔導コンロでミルクを沸かし、涙を流して赤子を抱きしめている。


『……温かい。やっと、子供にミルクをあげられる……!』


 別の画面では、店を畳もうとしていたパン屋の主人が、真っ赤に燃えるかまどの前で男泣きしている。


『火が点いた……! これでまた、パンが焼けるぞぉぉ!』


『ありがとう魔王様ぁぁ!』

『クリフ様ぁぁ! 一生ついていきますぅぅ!』



 それは、単なる称賛ではない。

 凍死寸前だった命が救われたことへの、魂からの感謝の叫びだった。


 その圧倒的な「民意」と「熱量」を前に、商工会の老人たちは立ち尽くしていた。

 彼らの顔からは血の気が失せ、サーッと冷え切っていく。


 そして、彼らの耳にだけ、あるはずのない「音」が響いた。



 ──ガラガラ、ガラガラ、ガッシャァァァン……!



 それは、彼らが長年かけて積み上げてきた「富」と「独占権益」という名の塔が、足元から崩れ去る音だった。

 もはや誰一人として、彼らの高価な魔石など見向きもしない。


「お、終わった……。我々の財産が……暴落だ……」


「ええ。……ちなみに」


 私は彼らに最後の通告を行った。

 懐から取り出した羊皮紙は、乾いた音を立てて彼らの足元に落ちた。


「緊急時における物資の不当な隠匿と価格操作。……これらは『独占禁止法』および『人道に対する罪』に該当します」


 バサリ。



>>> AUDIT_ALERT

[対象]:魔石商工会・役員口座

[罪状]:独占禁止法違反(売り惜しみ)


▼ 執行措置:全資産凍結(FREEZE)

 状態:■■■■■(完全ロック)

 残高:0(ZERO)

>>>



「貴方たちの全資産を凍結しました。……その大量の魔石在庫、抱えたまま破産してください」


「ひ、ひぃぃぃぃ!」



 こうして、魔界のエネルギー革命は成し遂げられた。

 プラントには再び、心地よい重低音と、澄んだオゾンの香りだけが残された。


 だが、これはまだ序章に過ぎない。

 私のモニターには、この革命を嗅ぎつけた「外敵」の動きが映し出されていた。


「……来ますね。資源だけで食っている国が、この技術を黙って見ているはずがない」



(続く)


【次話予告】

代替エネルギーへの転換に成功した魔王軍。

だが、それを脅威と感じた資源大国バグラムが、ついに軍事侵攻を開始する。

圧倒的な火力で攻め寄せる敵軍。だがクリフは、その「強さ」の裏にある致命的な「不正」を見抜いていた。

「彼らの魔法、火力が異常すぎますね。……一体『何を』燃やしているのですか?」


次回、『共有地の悲劇。バグラム軍、環境破壊という名のドーピング』。

その強さ、未来からの「前借り」ですよ?

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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