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第24話 取り付け騒ぎ。金の切れ目が縁の切れ目、そして市場は崩壊する ~「忠誠心」? いいえ、彼らが従っていたのは貴方の「預金残高」です~

「い、一億マナが……さん、マナ……?」


 闇市場の支配者・強欲王(ごうよくおう)グリードは、赤錆だらけになった鉄屑(元・魔剣)を握りしめ、膝から崩れ落ちていた。


 市場は水を打ったように静まり返っている。



 その静寂を破ったのは、私の拍手だった。


「素晴らしいリアクションです。……さて、皆さん」


 私は呆然とする用心棒たち、そして遠巻きに見ている投資家ゴブリンやオークたちに向き直り、声を張り上げた。


「ご覧の通り、この市場の胴元バンクは破産しました! 彼の資産はゼロ! 担保もゼロ! 完全なる債務超過です!」



 その言葉が、導火線に火をつけた。


「は、破産だと……?」

「俺たちが預けてた金はどうなるんだ!?」

「ま、まさか……紙切れになるのか!?」



 ざわめきが恐怖へ、そしてパニックへと変わる。


「逃げるな! 俺の金を返せぇぇぇ!」

「換金だ! 今すぐ換金しろぉぉぉ!」



 怒号と共に、数百人の群衆がカウンターへと殺到した。


 これが経済学で最も恐ろしい現象――取り付け騒ぎ(バンク・ラン)だ。


 一度失われた信用は、暴力的なまでの速度で崩壊する。



「ひ、ひぃぃ! よ、寄越すな! 来るな!」


 グリードが悲鳴を上げ、這いずりながら用心棒たちに命令する。


「おい! 何をしている! こいつらを追い払え! 俺を守れ!」



 だが。


 屈強なオークの傭兵隊長は、動かなかった。



 彼は懐から携帯端末(水晶板)を取り出し、自分の口座残高を睨みつけている。


「……おい、社長。今月の給料が振り込まれてねぇぞ」


「あ、後で払う! この騒ぎが収まったら、倍にして払うから!」


「『後で』? ……さっき、あんたの資産はゼロだって言ってたよな」



 隊長の目から、忠誠心という名の光が消え――代わりに、冷徹な殺意が宿った。


「俺たちはボランティアじゃねぇんだよ」



 チャキッ。



 彼らが武器を向けた先は、暴徒化した群衆ではなく――雇い主であるグリードだった。


「な、なにを……!? 貴様ら、裏切るのか!?」


「裏切る? 勘違いするなよ」


 私は横から口を挟んだ。


「彼らは『労働契約』に基づき、対価(給料)が支払われないため『業務履行』を停止しただけです。……金の切れ目が縁の切れ目。経済活動において、これほど正当な理由はありません」



 私は空中に、彼らの契約状態を示すログを冷酷に表示させた。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 ! 契 約 解 除 通 知 !

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[雇用主]:強欲王グリード

[理由 ]:給与未払いによる債務不履行


 ステータス:【 解 雇 】

―――――――――――――――――――



「う、うわぁぁぁぁ! やめろ! 俺は王だぞ! 闇の支配者だぞぉぉ!」


 グリードが叫ぶが、もう誰も聞く耳を持たない。


 用心棒たちは「退職金代わりだ」と言って、グリードが身につけていた宝石や衣服を剥ぎ取り始めた。

 金属が擦れ合う耳障りな音と、獣たちの荒い鼻息が周囲を支配する。


 さらに、換金を求める暴徒たちが雪崩れ込んでくる。



「ギャァァァァァ……!」



 悲鳴と共に、強欲王の姿が群衆の波に飲み込まれていく。

 踏み荒らされる足音と、剥ぎ取られた衣服が宙に舞う光景。


 物理的な暴力ではなく、彼自身が作り出した「強欲なシステム」に食い尽くされたのだ。


「……終わりましたね」


 隣でアリスが、少し怖そうに肩をすくめる。


「経済って、魔法より怖いかも」


「使いようですよ。……さて」



 私は瓦礫と化した市場を見渡した。

 鼻を突くのは、踏み潰された酒の匂いと、逃げ惑う者たちが残した脂汗の悪臭。


 看板は落ち、商品は散乱し、誰もが我先にと逃げ出している。


 かつて魔界の裏経済を牛耳っていた『奈落の市場』は、今日、完全に崩壊した。



「更地になりましたね。……これなら安く買えそうだ」


 私は懐から、新しい事業計画書を取り出した。


「アリス。ここからは『事後処理(再建)』の時間です。……この混乱を収拾し、焼け野原になったこの市場を、我が社の傘下に収めますよ」



(続く)

【次話予告】

クリフ「暴落した市場、捨て値で買い取ります」

アリス「えっ、こんなゴミ溜めを買うの?」

クリフ「ゴミの中にこそ『ダイヤの原石』があるのです。……それに、今後の『戦争』には、綺麗事ではない資金源が必要ですから」


次回、『バッドバンクによる処理。魔王軍、裏社会も完全子会社化する』

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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