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第23話 評価損の拒絶。貴方の伝説の魔剣、ただの鉄屑として計上しますね ~市場の安定のために「嘘」が必要? いいえ、必要なのは「膿(うみ)」を出すことです~

「……システム警告だと? 小賢しい真似を」


 私のハッキングにより、市場の価格ボードが乱れ、空間にノイズが走る中、奥の帳場から一人の男が姿を現した。


 豪奢な宝石をジャラジャラと身につけた、太った悪魔。


 この闇市場を牛耳る支配者、強欲王グリードだ。


「おい、用心棒ども。何をもたついている。その不届きな監査人ネズミを細切れにしろ」


「は、はい! やっちまえ!」


 用心棒たちが再び武器を構える。

 だが、私は慌てず、彼らの足元を指差した。


「おや。……いいのですか? 貴方たちの雇い主の『資産状況』を確認しなくて」


「あぁ?」


「今の私の監査で、彼の『金庫の中身』が見えました。……見てごらんなさい」


 私が指を鳴らすと、空中に巨大なウィンドウが展開された。


 それは、グリードがひた隠しにしてきた『裏帳簿バランスシート』の開示だ。



>>> ANALYSIS_START


[TARGET]:強欲王グリード(市場支配者)


[ OPEN ]:保有資産・現在価値評価

 ├[流動資産]:100万マナ

 | (※大半が不良債権)

 ├[固定資産]:伝説の魔剣グラム

 | (※自称 / 鑑定書なし)

 └[ 負債 ]:5000万マナ

   (※短期借入金)


>>> RESULT:債務超過(破産寸前)



「な……っ!? ふ、負債5000万!?」


 用心棒たちがどよめく。


 この市場の支配者は、大金持ちだと思われていた。しかし実態は、借金を借金で返す自転車操業だったのだ。


「き、貴様ぁぁ! デタラメを表示するな!」


 グリードが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「私の資産は盤石だ! 特にこの『伝説の魔剣グラム』! これ一本で国が買えるほどの価値がある! これがある限り、私は破産などしない!」


 グリードが背後のケースから、煌びやかな装飾が施された大剣を取り出す。


 確かに見た目は凄そうだ。放つ魔力も強大に見える。


「……なるほど。それが貴方の『担保』ですか」


 私は冷ややかに見つめた。


「ですが、それは『帳簿上の価値(簿価)』に過ぎません。……何百年も倉庫に眠らせて、メンテナンスもしていないその剣が、今(現在)も同じ価値を保っていると?」


「当たり前だ! 伝説は色褪せない!」


「いいえ。モノは劣化し、時代は変わります。……古い価値にしがみつき、損失を認めない(評価損を拒絶する)姿勢こそが、この市場を腐らせている原因です」


 私は右手をかざした。


「アリス、解析補助を。……これより、強制的な【時価会計マーク・トゥ・マーケット】を適用します」


「了解! ……化けの皮、剥がしちゃうよ!」


 アリスがキーボード(虚空)を叩く。


 私の手から放たれた『真実の光』が、グリードの魔剣を包み込んだ。


「や、やめろ! 私の資産に触れるな!」


「問答無用。……今の市場価格で、再計算リ・カルキュレート!」


 バチバチバチッ!

 激しいスパークと共に、魔剣の煌びやかな装飾が、塗装のように剥がれ落ちていく。



■ □■□■■ □■□□

 ■□ ERROR □ ■

……[資産価値・再定義中]……

□■ □□□■□□□ ■□

 □ ■□■■□■□□



 そして、光が収まった時。


 グリードの手の中にあったのは――赤錆だらけの、ボロボロの鉄屑だった。


「あ……あぁ……?」


 グリードが震える手で、その鉄屑を見る。

 刀身はヒビだらけで、魔力など微塵も感じられない。


「そ、そんな……私の魔剣が……」


「それが『現実(時価)』です」


 私は残酷な監査結果ログを突きつけた。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 ! 監 査 終 了 : 暴 落 !

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

[対象]:自称・伝説の魔剣

[判定]:経年劣化による全損スクラップ


 修正前簿価:1億マナ

 修正後時価:3マナ(鉄屑代)

───────────────────



「い、一億マナが……さん、マナ……?」


 グリードが膝から崩れ落ちる。


 担保価値の消滅。それはすなわち、彼が抱える巨額の負債が、何の支えもなくなることを意味していた。


「さあ、皆さん」


 私は呆然とする用心棒たちに向き直った。


「ご覧の通り、貴方たちの雇い主は無一文(破産)です。……今月の給料、払えると思いますか?」



(続く)

【次話予告】

傭兵たち「……おい。今月の給料、どうすんだよ?」

グリード「ま、待ってくれ! 金はある! どっかにあるはずなんだ!」

クリフ「いいえ、ありません。あるのは『怒れる債権者(部下)』たちだけです」


次回、『取り付け騒ぎ。金の切れ目が縁の切れ目、そして市場は崩壊する』

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マニアックなネタに付いてきてくれて、ありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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