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第12話 聖剣のバーゲンセール、始まります ~市場価格(ブランド)を守りたければ、在庫隠し《コントロール》をもっと徹底すべきでしたね~

「開けなさい。これはCFOとしての業務命令です」


 私の冷徹な声が、武器商社『ロイヤル・アームズ』の地下倉庫に響く。

 だが、脂汗を垂らした商人は、引きつった笑みを浮かべて首を振った。


「は、はんっ! 業務命令だと? 笑わせるな!」


 商人は、背後に控える聖騎士たちの後ろへ逃げ込みながら叫ぶ。


「ここは聖騎士団長様が直々に施した『聖域結界サンクチュアリ・ロック』で守られているのだ! 魔族ごときの魔法で解除できるものか! 帰れ、不法侵入者どもめ!」


 聖騎士たちが抜剣し、倉庫の扉の前に立ちはだかる。


 扉には、黄金に輝く複雑な魔法陣が何重にも展開されていた。

 だが、私は動じることなく、懐から一巻の羊皮紙を取り出し、商人の目の前に突きつけた。


「不法侵入? 勉強不足ですね。……これをご覧なさい」


 私が指を鳴らすと、空中に巨大な契約書の条文がホログラムとして展開される。


[Legal Document] |条約照会《TREATY_REFERENCE》

──────────────────────

参照条文:聖魔通商条約 第4項

【サプライヤー監査権(Audit Rights)】


▼ 権限執行レベル

[Authority] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (Level: Absolute)


※ 拒否時のペナルティ:


1. 契約の即時破棄(Contract Nullification)

2. 戦争状態への移行(War Mode)

──────────────────────


「ご覧の通りです。『納品物の品質に疑義がある場合、発注者は現地への即時立入検査権を有し、受注者はこれを拒否できない』。……拒否すれば条約違反で『戦争再開』ですが、その責任、貴社で負えますか?」


「ひっ……! せ、戦争だと……!?」


 商人の顔が蒼白になる。一介の商人に背負える責任ではない。

 私は畳み掛けるように、隣のアリスに視線を送った。


「ふぁ……。パスコード解析、めんどくさぁい……。……ねえクリフ、もう『物理』でいい?」


「ええ、構いません。……ガント、条約に基づき強制執行ブレイクです」


「へいよ。待ってました」


 ガントが一歩前に出る。

 背負っていた巨大な魔導盾を構えると、彼の全身から琥珀色の魔力が噴き出した。


「おいおい、何をする気だ? その盾で殴るつもりか? 無駄だ無駄だ! この結界は物理衝撃を100%反射する――」


「スキル発動――【タイタン・クラッシュ《巨神の粉砕撃》】」


 ドォォォォォン!!


 商人の言葉は、爆音によって遮られた。


 ガントの放った一撃は、単なる打撃ではない。対象の「防御力」という概念そのものを粉砕する、Sランク盾役タンク必殺の『防御貫通攻撃』だ。


[Battle Log] |防御結界解析《BARRIER_ANALYSIS》

──────────────────────

Target: 聖域結界(Sanctuary Lock)

Defense: ▓▓

(Physical Nullify)


VS


Attacker: 重戦士ガント

Skill: タイタン・クラッシュ(貫通)

Power : ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ ▓▓▓▓▓

(Overkill)


Result: 【結界粉砕(DESTROYED)】

──────────────────────


 パリン、パリン、パリンッ!


 黄金の結界が、薄氷のように砕け散る。

 続いて、分厚い鉄の扉が飴細工のようにひしゃげ、蝶番ちょうつがいごと吹き飛んだ。


「なっ……!? 聖域結界が……一撃で!?」


 聖騎士たちが腰を抜かす中、私は土煙を払って倉庫の中へと足を踏み入れた。


「……壮観ですね」


 そこには、山積みになった木箱があった。

 中身はすべて、新品の『聖剣エクス・レプリカ』


 その数、目測でおよそ一万本。


「これが貴方がたが『品薄で入手困難』と言って価格を吊り上げていた商品の正体ですか」


 私は一本の剣を手に取り、鑑定スキルを発動する。

 不都合な真実が、残酷なほど明確な数値となって浮かび上がった。


[Item Appraisal] |資産価値鑑定《ASSET_VALUATION》

──────────────────────

Item: 聖剣エクス・レプリカ


▼ スペック監査

[Brand Value] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (High)

[Real Spec ] ▓ (Scrap Iron)


判定: 【不当表示(Scam)】

適正価格: 50,000 Mana

──────────────────────


「ひぃっ! や、やめろ! それに触るな! それは我々の資産だ!」


 商人が半狂乱で叫ぶ。

 私は冷ややかな目で彼を見下ろした。


「『指定装備』という独占ルールを盾に、冒険者に選択肢を与えず、不当な高値で売りつける……。健全な商売ではありませんね」


「資産? いいえ、これは不正契約による【損害賠償担保】として差し押さえます。……アリス、準備は?」


「完了~。王都の全冒険者の石板に、通知プッシュ送ったよ」


 アリスがニヤリと笑い、エンターキーを叩く。

 その瞬間、王都中の冒険者たちの端末が一斉に震えた。


──────────────────────

【緊急速報:魔王軍・大放出セール!】

 

倒産した悪徳業者より押収した「聖剣(定価100万)」を、

本日限り【一本5万マナ】で販売します!

 

場所:ロイヤル・アームズ本店前

※早い者勝ち! 転売OK!

──────────────────────


「ご、五万マナだとぉぉぉ!?」


 商人が目を剥いて絶叫する。


 五万マナ。それは彼らの仕入れ原価そのものだ。利益はゼロ。いや、保管コストを考えれば大赤字である。


「ば、バカな! そんな安値で売られたら、聖剣のブランド価値がなくなる! 市場が崩壊するぞ!」


「ええ、崩壊させます。それが狙いですから」


 私は淡々と告げた。


 外からは、すでに「うぉぉぉ! 聖剣が五万!?」「マジかよ急げ!」という冒険者たちの地響きのような足音が聞こえてくる。


「需要と供給のバランスを無視して暴利を貪った報いです。……さあ、在庫一掃クリアランスの時間ですよ」


 ガントが倉庫の中の剣を、次々と外へ放り投げていく。


 群がる冒険者たち。

 狂喜乱舞する声。


 そして、私の目の前で、商人の持つ「在庫管理帳簿」の数字が、凄まじい勢いで目減りしていく。


[Market News] |聖剣市場価格推移《PRICE_CRASH》

──────────────────────

銘柄: 聖剣(新品)


▼ 取引価格(Price Per Unit)

[Before] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓ (1,000,000)

 ↓

[After ] ▓ (50,000 / ▼95%)


Status: 【ストップ安(Limit Low)】

資産評価: 100億 → 5億 (大暴落)

──────────────────────


「あ、あぁ……俺の金が……聖剣の相場が……紙切れに……」


 商人がその場に崩れ落ち、泡を吹いて気絶した。


 護衛の聖騎士たちも、自分たちの持つ剣が「五万マナの安物」に成り下がった事実に絶望し、剣を取り落としている。


 私は手元の帳簿に【監査完了】のスタンプを押し、アリスに向かって頷いた。


「これで、市場の適正化は完了です。……行きましょうか。次は、この『偽りの聖剣』にお墨付きを与えていた黒幕メーカーへの訪問です」


(続く)

【次話予告】

アリス「ねえクリフ、聖騎士団長からすごい勢いで通信来てるよ。『貴様ら、ただで済むと思うなよ』だって」

クリフ「脅迫ですね。証拠として保存しておいてください。……さて、次は聖騎士団の本部で『接待費』の監査といきましょうか」


次回、『聖騎士団長の領収書、風俗店のロゴが入ってますが?』。

聖なる鎧の下に隠された、汚れた金の流れを暴く!

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