表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/17

第1話 勇者のカードが止まった日、会計係は定時で帰る

[聖暦1024/09/30 19:00] |システム警告ログ《SYSTEM_WARNING_LOG》

―――――――――――――――――――

【重要】装備機能停止のお知らせ

対象装備:聖剣『エターナル・ブレイブ(型番EB-05)』

エラーコード: 402 Payment Required


内容: 月額利用料サブスクリプションの未払いが確認されました。

措置: 直ちに【なまくらモード】へ移行します。


▼ 攻撃力(ATK)推移

[Before] ▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓

(9999)

 ↓

[After ] ▓

(1)


※再稼働には、未払い分を含む36ヶ月分の利用料を一括でお支払いください。

―――――――――――――――――――



 ダンジョンの最深部。

 伝説のドラゴンと対峙していた勇者アルヴィンは、間の抜けた音を聞いた。


 ――キュイーン、プスン。



 黄金に輝いていた聖剣の光が消え、みるみるうちに赤茶けた錆に覆われていく。


「は? なんだこれ」


 アルヴィンは剣を振るが、ドラゴンの鱗に当たった瞬間、ボキリと音を立てて折れた。


 ただの鉄屑だ。


「おいクリフ! 聖剣の調子が悪いぞ! 予備の剣を出せ!」



 勇者は背後に向かって叫んだ。

 いつもなら、荷物持ち兼・会計係の男が、すぐに手入れされた予備の武器を差し出すはずだ。


 だが、そこには誰もいなかった。

 ただ、冷たい風が吹いているだけだ。


「……あ? そういえば」


 アルヴィンは、ドラゴンのブレスを顔面に受けながら思い出した。



「あいつ、昼間にクビにしたんだったわ」




 ◇




 同時刻。

 王都から遠く離れた「魔王城」。

 その最上階にある社員食堂で、私は感動に打ち震えていた。


「う、うまい……っ!」


 私の目の前には、湯気を立てるビーフシチュー、焼きたてのパン、そして新鮮なサラダが並んでいる。


「これが……『温かい食事』……!」


 Sランクパーティ『ソウル・ブレイブ』にいた頃の食事は、ひどいものだった。


 移動中は「時間の無駄だ」と言われて干し肉を齧り、宿屋では「俺は勇者だからスイートだが、お前は馬小屋でいいだろ」と冷遇された。


 それがどうだ。

 ここ魔王軍の食堂は、福利厚生の一環で【全メニュー無料】だという。



「気に入ってくれたみたいで何よりだ、クリフ」


 向かいの席で、ニシシと笑う少女がいる。


 銀髪に、ぴょこんと生えた猫耳。パーカーを着崩した彼女こそ、魔王軍の技術トップにして、私の採用を決めた直属の上司、アリスだ。


「でも驚いたよ。勇者パーティをクビになった瞬間、ウチの採用面接に来るなんて」


「ええ。実は半年前から、転職サイト『魔族ナビ』で御社の求人をチェックしていましたから」


 私はパンを頬張りながら、数時間前の出来事を思い出す。




 ◇




 ――数時間前。ギルド会議室。


「というわけでクリフ、お前クビな」


 勇者アルヴィンは、足を机に投げ出しながら言った。


「理由? うーん、お前さぁ、『経費削減』とか『領収書』とか、細かいことうるさいんだわ。冒険はロマンだろ? ケチくさい奴がいるとテンション下がるんだよね」


 隣に侍る聖女ミナが「キャハハ、うけるー」と笑う。

 下品な笑い声と、彼女が振りまく安っぽい香水の匂いが鼻につく。


 普通なら、ここで「待ってください!」とすがりつく場面かもしれない。


 だが、私は食い気味に答えた。


「承知いたしました。では、今この瞬間をもって退職します」



「え?」


 アルヴィンがポカンと口を開ける。


「引き継ぎは? 未払いの給料は?」


「不要です。未払い分については……まあ、【別の形】で回収させていただきますので」


 私は満面の笑みで辞表(すでに書いてあった)を叩きつけ、会議室を飛び出した。



 廊下に出た瞬間、私はガッツポーズをした。


「よっしゃあああああ! 自由だあああ!」


 そのままギルドの出口へ走りながら、私は魔導石板(スレート)を取り出し、指先が見えない速度でタップした。



[聖暦1024/09/30 14:15] |タスク実行ログ《TASK_EXECUTION_LOG》

―――――――――――――――――――

▼ 対象:勇者パーティ関連契約


[x] ポーション定期便:解約(即時)

[x] 宿屋VIP契約:解約(違約金は勇者負担)

[x] 聖剣サブスク:停止(支払い拒否設定)

[x] 国税局への修正申告:送信(Send)


Status: All Tasks Completed.

―――――――――――――――――――



「あばよ勇者! 明日から宿の予約も、税金の計算も、全部自分でやるんだな!」




 ◇




「……というわけで、最高の気分でここに来たわけです」


 私はシチューを完食し、食後のコーヒー(これも無料!)を啜った。


 アリスが呆れたように猫耳を揺らす。


「あんたも性格悪いねぇ。勇者くん、今頃どうなってると思う?」


「さあ? 私の計算では、まず聖剣が鉄屑になり、次に宿屋から追い出され、最後には……『ある物』が届かなくて詰むはずです」


「ある物?」


 私はニヤリと笑い、石板(スレート)の画面を見せた。


「アルヴィンは、ダンジョンの入場手続きを私に丸投げしていました。彼、知らないんですよ」


「何を?」


「Sランクダンジョンに入るには、3日前までに『入山届』を役所にFAXしないといけないってことを」




 ◇




 再び、ダンジョン最深部。

 武器を失い、ボロボロになったアルヴィンの前に、無慈悲なシステムウィンドウが出現した。



[System Warning] |ダンジョン管理システム《DUNGEON_KEPT_SYSTEM》

―――――――――――――――――――

【警告】入山届の未提出

貴殿のダンジョン攻略は、正規の手続きを経ていません。


▼ 措置執行


1. クエスト達成報酬の没収(→ 0マナ)

2. 強制転移(強制退去)の執行

3. ギルドへの不法行為通報(→ 送信完了)

―――――――――――――――――――



「はあああ!? FAXぅ!? なんだそれ! クリフがやってたんじゃねえのかよ!」



 勇者の叫びも虚しく、彼の体は光に包まれた。


 強制送還。


 行き先は、王都のギルド本部――説教待ちの支部長の前だ。



 その頃、私は魔王城のふかふかのベッドで、アリスと共に新作ゲームを起動していた。


「さーて、今日は定時上がりだ。とことん遊ぶぞ」


「賛成。ポテチも開けちゃおう」


 私のホワイトな第二の人生は、まだ始まったばかりだ。


(続く)

【次話予告】

勇者「宿屋の朝食がパンの耳だけなんだが?」

クリフ「VIPプランを解約したので、それは『素泊まりプラン』のサービスですね」


次回、衣食住のレベルが地に落ちた勇者が、逆ギレしてクリフに連絡してくるが……?


***


クリフ: ……最後に、私から皆様へ。


数多の物語という名の「競合他社」がひしめく市場の中から、我が魔王軍を見つけ、貴重なリソース(時間)を割いてくださり心より感謝申し上げます。


第1部・全30話。完結までのスケジュールは既に確定しており、計画通りの「毎日更新」で駆け抜けることをここに誓約いたします。


皆様からの「ブックマーク」という名の先行投資、および「☆」評価という名の資本注入をいただけますと、我々の事業(執筆)はより強固なものとなります。ぜひ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ