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第三章 「花園の囁き ~心揺れる二重奏~」

 ヴェネツィアの春が深まり、ピエタの庭では様々な花が咲き始めていた。白い百合、鮮やかな薔薇、そして繊細なラベンダーの香りが風に乗って広がっていた。マリアとベアトリーチェの友情も、その花々のように日々色鮮やかに育っていった。


 二人は音楽の練習だけでなく、自由時間も共に過ごすようになっていた。ベアトリーチェはマリアに施設の隅々まで案内し、時には禁じられた場所にも連れて行った。二人の絆は日に日に深まり、その関係は周囲の少女たちの間でも噂になるほどだった。


「ここよ、私の秘密の場所」


 ある日の午後、ベアトリーチェはマリアを小さな裏庭へと導いた。そこは施設の主要な庭園からは離れた、ほとんど忘れられたような場所だった。石造りの壁に囲まれ、一本の古いオリーブの木が中央に立っていた。その周りには野生のバラやジャスミンが咲き乱れ、小さな木製のベンチが置かれていた。


「ここなら誰にも邪魔されないわ」


 ベアトリーチェは満足げに微笑んだ。彼女は今日、淡いブルーのドレスを着ていた。袖口と裾には繊細な銀糸の刺繍が施され、髪には同じく銀の小さなコームが挿されていた。耳には母から譲り受けたという小さなパールのイヤリングをつけていた。彼女の美しさは、周囲の花々よりも輝いて見えた。


「綺麗な場所ですね」


 マリアは周囲を見回した。ここは確かに静かで落ち着く空間だった。日光が木々の間から差し込み、地面に美しい光と影の模様を作り出していた。空気は花の香りで満たされ、遠くからは運河の水音が微かに聞こえてきた。


 二人はベンチに腰掛け、持ってきた本を開いた。それはペトラルカの詩集だった。ベアトリーチェはこの詩人を特に愛していたという。


「この詩が好きなの」


 ベアトリーチェが指さしたのは、愛と情熱について綴られた一節だった。彼女は柔らかな声で詩を朗読し始めた。その声は風のように優しく、マリアの心に染み入った。


 ペトラルカの言葉は、永遠の愛と叶わぬ思いを美しく描いていた。それは二人の間に流れる感情と、不思議なほど重なり合うように思えた。


「あなたは詩を書くの?」


 朗読を終えたベアトリーチェが尋ねた。マリアは少し考えてから、


「時々……でも、下手なものです」


「見せて」


 ベアトリーチェの目は好奇心で輝いていた。マリアは躊躇したが、自分のノートから一片を取り出した。ベアトリーチェに見せるために書いたものではなかったが、彼女の期待に満ちた瞳を前に、断ることができなかった。


 詩は、遠い星への憧れと、自分自身の中に秘めた真実について綴られていた。マリアが女性として生きる苦悩を、隠喩的に表現したものだった。


 ベアトリーチェは静かに読み終えると、感動したように目を輝かせた。


「美しいわ、マリア。あなたの魂が見えるよう」


 彼女はマリアの手を取った。その接触に、マリアは小さく震えた。ベアトリーチェの手の温もりは心地よく、安心感を与えてくれた。


「あなたには秘密があるわね」


 ベアトリーチェの言葉に、マリアの心臓が止まりそうになった。彼女は知っているのか? マリアの正体を見抜いたのか?


「誰にでも秘密はあるものです」


 マリアは視線を逸らした。ベアトリーチェは微笑み、彼女の頬に触れた。


「大丈夫よ。私たちは皆、自分だけの秘密を持っているもの」


 彼女の目には優しさと、何か言葉にできない感情が浮かんでいた。マリアはその瞳に吸い込まれそうになり、思わず顔を近づけた。二人の間に流れる空気は変わり、時間が止まったかのように感じられた。


 その瞬間、遠くから鐘の音が聞こえてきた。


「夕べの祈りの時間ね」


 二人は慌てて立ち上がり、秘密の庭を後にした。しかし、そこで交わされた言葉と感情は、二人の心に深く刻まれていた。


---


 その夜、マリアは眠れなかった。ベアトリーチェとの時間が頭から離れなかった。彼女の手の温もり、彼女の声、彼女の香り……すべてがマリアの心を満たしていた。


「これは何なのだろう」


 マリアは窓辺に座り、月明かりに照らされたヴェネツィアの屋根を見つめた。彼女の心の中で、新しい感情が芽生えていることに気づいていた。しかし、それは許されるものなのか。彼女はベアトリーチェに嘘をついている。彼女は本当はマルコなのだ。


 そして、彼女が女性だと思っている相手に、このような感情を抱くことは……マリアは混乱した。彼女は女性として生きることで、女性の内面をより深く理解するようになっていた。そして、ベアトリーチェへの感情は、友情を超えた何かだと感じていた。


 しかし、その真実を明かすことは、すべてを台無しにするかもしれない。ベアトリーチェは彼女を嫌うだろうか? 裏切られたと感じるだろうか? それとも……。


 マリアは深いため息をついた。彼女は自分の中の葛藤を、明日のヴィヴァルディとのレッスンでどう扱えばいいのか考えた。神父は彼女の演奏から、彼女の心の状態を読み取ってしまうだろう。


 翌日のヴィヴァルディとの個人レッスンでは、その心の乱れが演奏にも表れた。彼女の音色は技術的には正確だったが、どこか気持ちが籠もっていなかった。


「集中していませんね、マリア」


 ヴィヴァルディは厳しい目で彼女を見つめた。彼の鋭い洞察力は、マリアの内面の混乱を見抜いているようだった。


「申し訳ありません、神父様」


「音楽には魂の純粋さが必要です。あなたの心に何があるのか知りませんが、それを音に変えなさい。抑え込むのではなく」


 ヴィヴァルディの言葉は、マリアの胸に突き刺さった。彼は彼女の演奏を中断し、窓際に歩み寄った。外では、春の嵐が近づいているようで、雲が低く垂れこめていた。


「時に、私たちの心は嵐のように混乱します。しかし、その嵐こそが美しい音楽を生み出すこともある」


 彼は振り返り、マリアを見つめた。


「新しい曲を作曲中です。来月の祝祭で演奏する予定です。あなたにソロ部分を任せたいのですが……」


「私に?」マリアは驚いて目を見開いた。


「ええ、あなたの音色には何か特別なものがある。しかし、それには心の澄明さが必要です」


 ヴィヴァルディはマリアの肩に手を置いた。


「自分自身と向き合いなさい。それが、真の音楽家への第一歩です」


 レッスンの後、マリアはベアトリーチェと会う約束をしていた。彼女は秘密の庭に向かった。そこではベアトリーチェが既に待っていた。今日の彼女は鮮やかな赤のドレスを着ていた。胸元には小さなルビーのブローチが光り、髪は複雑に編み込まれていた。


「遅かったわね」ベアトリーチェは微笑んだ。「レッスンはどうだった?」


「ヴィヴァルディ神父が、来月の祝祭でソロを任せると……」


「すごいじゃない!」ベアトリーチェは飛び上がって喜んだ。「おめでとう!」


 彼女はマリアを抱きしめた。その温かさと香りに、マリアは再び心が揺れ動くのを感じた。


「でも、今日はあまり集中できなくて……」


「どうして?」


 マリアは言葉を選びながら、慎重に答えた。


「心が……乱れていて」


「何かあったの?」ベアトリーチェは心配そうに尋ねた。


 マリアは一瞬、すべてを打ち明けようと思った。自分が本当は男であること、ベアトリーチェへの感情。しかし、言葉が出てこなかった。


「ただ、色々と考えることがあって」


 ベアトリーチェは黙ってマリアの手を握った。彼女は追求せず、ただ隣にいることで支えようとしているように見えた。


「今日はこれを持ってきたの」


 彼女は話題を変え、小さな箱を開けた。中には手作りのクッキーがあった。


「台所の修道女から少し小麦粉と砂糖を分けてもらったの。秘密よ」


 二人はクッキーを分け合い、笑い合った。マリアはベアトリーチェの優しさに、心が暖かくなるのを感じた。彼女は、マリアが何も言わなくても、彼女の気持ちを理解しようとしていた。


 その時、突然雨が降り始めた。春の嵐が予告なしに到来したのだ。二人は急いでオリーブの木の下に避難した。


 狭い空間で、二人の体は自然と寄り添った。マリアはベアトリーチェの香りを感じ、心臓が激しく鼓動した。雨音が周囲の世界を遮断し、まるで二人だけの空間が生まれたようだった。


「マリア……」


 ベアトリーチェはマリアの目を見つめ、ゆっくりと顔を近づけた。その唇は雨に濡れ、わずかに震えていた。マリアは動けなくなった。彼女の目には何か深い感情が浮かんでいた。それは恐れか、期待か、それとも……。


 二人の唇の距離はわずかになった。マリアは息を止めた。この瞬間、彼女は自分がマルコであることを忘れ、ただベアトリーチェへの感情だけが存在した。


 そのとき、


「ベアトリーチェ! マリア! どこにいるの?」


 修道女の声が聞こえ、二人は慌てて離れた。顔を赤らめながら、彼らは雨の中を走って施設に戻った。


 その夜、マリアは再び眠れぬ夜を過ごした。彼女の心は混乱と喜びと恐れで満ちていた。ベアトリーチェは何を感じているのか。そして、自分は? この感情は正しいのか。そして何より、彼女は自分の正体を知ったらどう思うだろうか。


 マリアは決心した。明日、すべてを打ち明けよう。たとえそれがピエタを去ることになっても、ベアトリーチェに嘘をつき続けることはできない。


 しかし、翌朝、思いがけない出来事が起こった。ソル・アンジェリカがマリアの部屋を訪れ、ヴェネツィアの貴族からの招待状を手渡したのだ。


「ヴィヴァルディ神父の推薦により、あなたとベアトリーチェが招かれました。明日の夕方、コンターリニ伯爵邸での小さな音楽会です」


 マリアは驚いて招待状を見つめた。ヴェネツィアの名門貴族の一つ、コンターリニ家からの招待。それは大きな栄誉であり、彼女の音楽家としての評価を高めるものだった。


「ベアトリーチェも?」


「ええ、二人のデュオが評判になっているようです」


 ソル・アンジェリカは厳格な表情を崩さなかったが、その目には少しの誇りが見えた。


「明日の午後は授業を免除します。準備をしておきなさい」


 修道女長が去った後、マリアは急いでベアトリーチェを探した。彼女は音楽室でチェロの練習をしていた。マリアが入ってくると、ベアトリーチェは演奏を中断し、嬉しそうに彼女を迎えた。昨日の雨の中の「ほぼキス」については、お互いに触れないという暗黙の了解があるようだった。


「聞いた? コンターリニ家よ!」


 ベアトリーチェは興奮して言った。彼女の目は喜びで輝いていた。


「ええ、すごいことですね」


「父も来るかもしれないわ。彼はコンターリニ伯爵と知り合いなの」


 マリアはこの情報に緊張した。ベアトリーチェの父親と会うことは、彼女の秘密にとって新たなリスクだった。しかし、今さら断ることもできない。


「一緒に練習しましょう。完璧に仕上げないと」


 ベアトリーチェはチェロを構え直した。マリアもヴァイオリンを取り出し、二人は午後いっぱい、演奏を練り上げた。


 ヴィヴァルディ神父も途中で訪れ、二人に助言をくれた。


「あなたたちはピエタの代表です。音楽だけでなく、立ち居振る舞いも重要ですよ」


 彼は特にマリアに厳しい目を向けた。


「緊張しないで。あなたの才能を信じて」


 マリアはうなずいた。彼女は内心、別の理由で緊張していた。貴族の社交界に入ることで、彼女の秘密がばれる可能性が高まるのではないかという恐れだった。


---


 翌日の夕方、マリアとベアトリーチェはピエタの小舟に乗り、コンターリニ家の豪壮な宮殿へと向かった。グランド・カナルに面したこの宮殿は、ヴェネツィアの富と権力の象徴だった。


 マリアは特別な衣装を着ていた。淡い緑色の絹のドレスで、胸元と袖口には金糸の刺繍が施されていた。髪は優雅に結い上げられ、母の真珠のペンダントが首元で控えめに輝いていた。


 ベアトリーチェはさらに豪華だった。彼女は鮮やかな青のドレスを纏い、その色は彼女の瞳の色と完璧に調和していた。胸元には小さなサファイアのブローチが飾られ、髪には同じ青の宝石が散りばめられた小さな冠のようなヘアピースをつけていた。


「緊張する?」


 小舟の中で、ベアトリーチェはマリアの手を握った。


「少し……でも、あなたが一緒だから大丈夫」


 マリアは微笑んだ。確かに緊張していたが、それは演奏のことよりも、彼女の秘密についてだった。


 宮殿に着くと、二人は豪華な大理石の階段を上り、広間へと案内された。そこには既に多くの貴族たちが集まっており、華やかな衣装と宝石が輝いていた。壁には巨大なタペストリーと絵画が飾られ、天井は細密な彫刻と金箔で彩られていた。シャンデリアが柔らかな光を放ち、部屋全体を幻想的に照らしていた。


 マリアとベアトリーチェの登場に、一瞬の静寂が訪れた。二人の若く美しい姿は、老練な貴族たちの目を惹きつけた。特にマリアの繊細な容姿は、多くの視線を集めた。


「ベアトリーチェ!」


 中年の貴族が近づいてきた。彼は優雅な身のこなしと、ベアトリーチェに似た青い瞳を持っていた。


「お父様!」


 ベアトリーチェは喜んで父親に駆け寄った。ダッラ・トーレ伯爵は娘を抱擁し、それからマリアに向き直った。


「そして、こちらが噂のマリア・リナルディですね。あなたの才能については、娘から多くのことを聞いています」


 マリアは丁重にお辞儀をした。


「お会いできて光栄です、伯爵様」


 伯爵はマリアを上から下まで観察し、微笑んだ。


「確かに、娘の言う通り美しい若い才能ですね。楽しみにしています」


 彼の視線には何か探るような光があったが、すぐに他の客人に気を取られて離れていった。マリアはほっと息をついた。この場を無事に乗り切ることができれば……。


 しばらくして、音楽の時間が始まった。まず最初に、プロの音楽家たちによる四重奏が演奏された。続いて、主催者のコンターリニ伯爵が二人を紹介した。


「そして今夜の特別なゲスト、オスペダーレ・デッラ・ピエタから、マリア・リナルディとベアトリーチェ・ダッラ・トーレの二人です。彼女たちの才能は、私たちの街の誇りです」


 マリアとベアトリーチェは壇上に上がり、楽器を構えた。一瞬の緊張の後、マリアは深呼吸し、弓を弦に当てた。最初の音が響いた瞬間、彼女の不安は消え去った。あるのは音楽だけ。彼女の心と魂は、完全に音楽に没入した。


 ベアトリーチェのチェロも完璧に彼女のヴァイオリンと調和し、二人の音色は部屋全体を満たした。彼らが選んだのは、ヴィヴァルディの新作の一部と、ベアトリーチェが作曲した小品だった。


 演奏が終わると、会場は熱狂的な拍手に包まれた。特に年長の貴族たちは、若い才能の素晴らしさに感動したようだった。コンターリニ伯爵自ら二人を祝福し、更なる成功を願った。


 成功に酔いしれる二人に、ベアトリーチェの父が近づいてきた。


「素晴らしい演奏でした。特にあなた、マリア。あなたの音色には何か特別なものがある。男性的な力強さと女性的な繊細さが、完璧に調和しています」


 その言葉に、マリアは一瞬凍りついた。それは単なる音楽評論か、それとも何か含みがあるのか。


「ありがとうございます」


 彼女は控えめに答えた。


「あなたの家族について、もっと知りたいですね。リナルディ……その名前は聞き覚えがあるような」


「父は楽器職人です。母は……病気で寝たきりです」


「そうですか。お見舞いでも行きたいものです」


 ベアトリーチェが父親の腕を引っ張った。


「お父様、今日はそのような話は…」


「まあ、そうだね」伯爵は微笑んだ。「今日は祝福の日だ。また機会があれば、お話ししましょう」


 マリアは再び息をついた。彼女の秘密は、少なくとも今夜は安全だった。


 夜が更けるにつれ、多くの貴族たちが二人に話しかけてきた。中には、若い貴族の息子たちもいて、特にマリアに興味を示す者もいた。彼女はできるだけ丁寧に、しかし距離を保ちながら応対した。


 夜の終わりに、ベアトリーチェの父は二人をピエタまで送ると申し出た。彼の豪華なゴンドラで運河を進みながら、三人は夜のヴェネツィアの美しさを楽しんだ。


「ピエタでの生活はどうですか、マリア?」


 伯爵は質問した。その目には、単なる好奇心以上のものが見えた。


「充実しています。素晴らしい先生方と、ベアトリーチェのような友人に恵まれて」


「そうですか。あなたの才能は特別なもの。これからの成長が楽しみです」


 ピエタに到着すると、伯爵は二人に別れを告げた。ベアトリーチェは父親に抱擁と頬へのキスをし、マリアも丁重にお辞儀をした。


 部屋に戻った二人は、まだ興奮冷めやらぬ様子だった。


「成功したわ!」ベアトリーチェは喜びに満ちた声で言った。「あの場にいた全員が、私たちの演奏に感動していたわ」


「本当に素晴らしい夜でした」


 マリアも心から同意した。彼女の心配は杞憂に終わり、純粋に音楽の喜びを味わうことができた夜だった。


「お父様も、あなたのことを高く評価していたわ」


 マリアは少し緊張した表情になった。


「あなたのお父様は…素敵な方ですね」


「ええ。でも時々、少し干渉しすぎるの」ベアトリーチェは少し表情を曇らせた。「私の人生を彼の思い通りにしたがるの」


「どういう意味ですか?」


「結婚のことよ。彼は私に良い家柄の男性と結婚して欲しいと思っている。でも私は……」


 彼女は言葉を途切れさせ、窓の外を見つめた。月明かりが彼女の横顔を優しく照らしていた。


「私は自分で選びたいの。誰を愛するか、どう生きるか」


 マリアはベアトリーチェの言葉に心を打たれた。彼女も同じように感じていた。自分の人生を自分の手で切り開きたい。しかし、彼女の場合は、まず自分自身の真実と向き合わなければならなかった。


「ベアトリーチェ、あなたに話さなければならないことがあります」


 マリアは決意した。今夜、すべてを打ち明けよう。これ以上、嘘をつき続けることはできない。


 ベアトリーチェは真剣な表情でマリアを見つめた。


「何かしら?」


 マリアは口を開こうとしたが、廊下から足音が聞こえてきた。ソル・アンジェリカが夜回りに来たのだ。


「また明日、話しましょう」


 マリアは仕方なく言った。ベアトリーチェはうなずき、軽く彼女の頬にキスをした。


「おやすみ、マリア。今日は素敵な夜だったわ」


 ベアトリーチェが自分の部屋に戻った後、マリアは長い間、窓辺に座って夜空を見つめていた。明日、すべてを話す。その決意は固かった。しかし、その後どうなるのか。ベアトリーチェは自分を受け入れてくれるだろうか? それとも、嫌悪し、拒絶するだろうか?


 彼女は胸に押し寄せる不安と希望の入り混じった感情を抱きながら、ようやく眠りについた。


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