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第1話 異世界特典は使えない?

「アッハハハ! 『ホストになれ』って、あんたがさっき死んだ原因じゃないの! まったく面白いものが見れたわ! 残業もたまにはいいものね!」


 フリルは椅子から転げ落ち、腹を抱えて笑っている。

  ふざけんなよ……人がどん底にいるってんのに。女神なのに、慈悲心は無いのか? 普通なら、「可哀想な貴方を救いましょう」って手を差し伸べるところじゃないのか?


「あ、そうだそうだ。えーっとね……そんな不幸なあんた様にー、特別に女神フリルが異世界特典を授けてあげましょー」


 すると急に思い出したかのように、彼女は椅子の下から古ぼけた本を雑に引っ張り出し、ページをペラペラめくって棒読みで言い放った。

 その本のカバーには『異世界転生 業務マニュアル本』と。

 ……まさかとは思うが、女神の「救いの手」って、業務マニュアルなのか?

 まあ、特典がもらえるなら、なんでもいいんだが。


「いいのか?」

「もちろんよ。えーっと……さぁ、選ばれし者よー、このカタログから好きなものをお選びなさーい」


 やる気のない声とは裏腹に、カタログを俺に向かって勢いよく投げつけてきた。

 

(痛ぇな畜生、このクソ女神がっ!)

 

 豪華な装丁(そうてい)が無駄に目立ってる本だ。

 中を開くと、《聖剣(せいけん)エクスカリバー》、《神の槍オリジン》、《超回復》、《超人速度》などなど。

 だがな…………。


「全部、使えねえじゃねえかぁぁ!!」

 

 いや、本来、冒険者であれば、無双できるほどの武器やスキルの数々なんだろうけど!

 俺、異世界でホストっすよ?? 仮に《聖剣エクスカリバー》を受け取ったとして、どうなるんだよ。

 それで迷惑客でも裁けばいいのか? 違うだろ、女神さんよぉ?

 

 俺の渾身(こんしん)の叫びに、フリルはめんどくさそうに銀髪をいじりながら、ため息をついた。


「使えないって失礼ね。まぁ、でもそうね。今回は状況が状況だから、特別にカタログに書いてないものでもいいわよ」

「え、本当か!」


 そう言うと、今度はしらけた表情を浮かべ、長い銀髪を手で払う動作を見せた。まるで、自分のことを誇るかのように、

 

「えぇ、もちろん。なんせ、女神フリル様ですから」

「本当になんでもいいのか?」

「えぇ、女神フリル様ですから」


 自分のことを様付けするのは気に食わないが……そうか。

 なんでもいいのか。

 ならもう決まった。

 俺の欲しいもの。


歓楽街(かんらくがい)で一番豪華なホストクラブをくれ!!」


 その言葉を聞いたフリルはしばし沈黙し、目をパチパチさせた。やがて、呆れたように言う。

 

「まさかの建造物……」

「なんだ、無理なのか? なんでもいいって言ったのはお前だろ?」

「無理じゃないわよ。ただねぇ……」


 彼女は面倒くさそうに肩をすくめた。


「建物を一からってなると魔力量の消費が半端なくて」

「つべこべ言わずに頼むよ、ねっ、女神フリル様?」

 

 その言葉に、フリルは軽く舌打ちしながら、苛立たしげに手を天にかざした。

 

「わかったわよ、ったく。えーっと? ……では都心の歓楽街マリリアにあんた様のホストクラブをお造りいたしまーす。女神の優しさで、転生先はホストクラブの近くにしてあげるわ。じゃあ、『転生準備』〜」


 その言葉と同時に、青白い魔法陣が地面に現れた。フリルは疲れた様子で、それを指差し、「んっ」とだけ言った。

 俺は言われるままに、魔法陣の上に立った。

 

「えーっと……あんた様の活躍を期待してまーす。さぁ、選ばれし者よ、旅立ちなさいー」


 フリルがありえないほどに心のこもっていない棒読みで業務マニュアル本から読み上げた瞬間、

 俺は魔法陣から出る、眩しい光に包まれた……。

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