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封印の山

「なんでそんな提案をって? 道中沢山の魔物を狩れるじゃない」


 天まで聳え立つ毒々しい色の山を遠くに見ながら、森を進み道中の魔物を倒しまくる。

 ここ二日でモモカにはどうやら金銭が絡むと割となんでもするきらいがあるということが分かった。


「それに多分あそこにはレアな魔道具(アーティファクト)があるのよ」

魔道具(アーティファクト)?」

「…あんた逆に何なら知ってるのよ。魔道具(アーティファクト)って言うのは魔力で動く道具なんだけど、偶に大昔に作られた超レアモノがあったりするのよ。後は分かるわね?」

「なるほどね」


 絶対売るじゃん。


「でもどうしてあそこに魔道具(アーティファクト)があると?」

「これよ」


 鼻を鳴らしながら見せてきたのは、金ピカで小さな宝石などの装飾があしらわれた、如何にも成金みたいなコンパス。


「これは近くの魔道具(アーティファクト)の方角を示してくれるお宝発見コンパスよ。これを持ってあの山に近づくとすごい反応するの」

「それはすごいな」

「ただ…多分あたし一人じゃあの山に入ることすら出来ないわ」

「そうなのか?」


 まあ行ってみれば分かると思うわ。と、右手に持っていたステッキを振ると、彼女の後ろに待機していた数弾の水球(アクアバレット)が弧を描きながらガサガサと揺れていた木の裏へ命中。

 そこを覗き込んでみれば、二匹の狼がダウンしていた。


「どう? 少しは見直したかしら」


 ふんすと胸を張るモモカ。

 確かに、一時間くらい山の中を移動しているが、俺はほとんど戦ってない。


「あたしは金級冒険者だけど、もしも数十年研鑽すれば白銀(プラチナ)級にもなれるわ」


 話している間にもモモカはてきぱきと狼から魔核を取り出す。


「白銀級はどれだけ凄いんだ?」

「聞いて驚くんじゃないわよ、例え竜と遭遇してもなんとか逃げ切れるくらいには凄いわ!」


 そ、そうなんだ…と苦笑いしかできない。


「…白銀級冒険者は片手で数えるくらいしか居ないわ。こう言えば凄さが分かるかしら?」

「それは凄いな」


 冒険者最強ランキングトップ五ってことだろ? それは凄い。


「でもそんな凄いモモカ様がどうしてこんな田舎に?」


 そう言えば、モモカは様付けされたのが嬉しかったのか一瞬ニヤニヤしたかと思えば次の瞬間にはからかわれていたのが分かったのかムスっとした表情になる。


「…あたしって強いじゃない」

「あ、ああ」

「だから、『俺たちのパーティに入らないか?』ってしつこいくらいに勧誘が来るのよ」

「なるほど」

「それに、数十年研鑽すれば白銀級になれるとは言ったけど、する気もないわ。あたしはさっさとこんな命賭けのバカ職業からドロップアウトしたいのよ」

「気持ちは分かる」


 そりゃ才能とやりたいことが別の人間なんて沢山いるからな。


「それで、田舎で悠々自適な日々を暮らすのよ。かっこよくてあたしのことを第一に考えてくれる優しい夫も捕まえられたら文句ないわね」

「完璧な人生設計だな」

「…まあ、あたしのお眼鏡に適う男なんて出会ったこともないから完璧な人生設計とは言い難いかもしれないわ」


 自嘲するように笑うモモカ。

 なんて話をしながら、いつの間にか竜が封印されているとされる山の麓に辿り着く。


「今更だけど、昨日村の人に山には近づくなって言われたんだよね」

「あたしはこの前普通に入りかけたわよ」

「お前さんあの山に入ったのか!?」

「だから入りかけただけで入ってないわよ。はぁ、まずはこれを見なさい」


 と、モモカがそこらへんに生えていた木の実を引き千切り、山の方へと投擲する。

 山なりに放物線を描いて飛んで行った木の実は、突然紫色に変色し、そのまま地面に落ちる。


「あの色は…」


 イフィルの体に出てくる呪いと同じ色だ。と言うことは…。


「かなり強めの毒か何かのせいで立ち入ることすら難しくなってるのよ。でも、あんたのふざけた回復魔法ならこれくらいなら無理矢理突破できるでしょう?」

「多分行ける。ちょっと試してみるか」


 山に近づけば、体の節々にピリリとした小さな痛み。

 手の甲を見てみれば、そこはイフィルと同じような色で腐っていた。


回復(ヒーリング)


 回復(ヒーリング)を発動。すぐに痛みと紫色は消滅した。

 しかし、時間が経つにつれすこしづつではあるがまた体が痛み始める。

 が、すぐに回復(ヒーリング)で治せるし、最悪我慢できる痛さだ。


「問題ないぞ」

「そう、じゃあ魔力切れには気を付けなさいよ」

「魔力切れ…?」

「…そんなことだろうと思ったわ。あんた回復(ヒーリング)使ってると疲れるとかないの?」


 全く馴染みのない現象だ。


「あんまり回復(ヒーリング)を使って疲れるみたいなことはないな」

「なんか、あたしは天才だしある程度人の魔力量が分かるのよ。でも、あんたは底知れないくらいの量があるのか、全く見えないの。分かるかしら、どれだけ上を見ても頂点が見えない山と言うか…。とにかく、全く見えないとはいえ魔法を使ったらとにかく何かしらの変化はあるはずなのに、回復魔法を使っても何も変化がないのよ」

「つまり?」

「…魔力消費ほぼナシに対して効果がおかしすぎるのよあんたの回復魔法」


 確かに、バカスカ回復(ヒーリング)を使っていたが全然打ち止めにならないなとは思っていたのだが凄いコスパが良いらしい。


「じゃあ途中で回復(ヒーリング)が使えなくなって二人で野垂れ死にみたいにはならなそうだな」

「そうね。とりあえずさっさと行きましょう。…結構痛いわねこれ」


 ずんずんと山に踏み入っていくモモカに回復(ヒーリング)を使いながら、二人で山を登り始めた。




「そんな先に行かれると回復(ヒーリング)が届かないんだけど」

「あんたが遅すぎるのよ」


 そうは言われても、登山道が狭いし、毒々しい色をした植物たちは背が低いしで下が嫌でも見えるから足が竦むのだ。

 それと、俺の回復(ヒーリング)は対象に触れないといけないことが分かった。

 ヒーラーとして射程が短いのはあまりよろしくないな。


「はあ…あたしの手を握っても良いわよ」

「え…そんなことしたらどっちか落ちたら心中では?」

「あたしは魔法で少しだけ空を飛べるから、あんたが落ちても守ってあげれるわよ」


 さっさとしなさい、と手を伸ばしてくるモモカ。


「お、お母さん…」

「何よ急に。バカなこと言ってないで早く行くわよ」


 滲み出る優しさに感動しつつ、彼女の手を取り二人でどんどんと上へと登っていく。





「家…だったものかしら、これは」


 ちょっと開けた所に出ると、石造りの土台といくつかの木屑しか残っていない家があった。

 大きさが家っぽいだけで、もしかしたら他の施設だったのかもしれない。


「これは…?」


 木屑の中から紙切れを見つける。


「…うわ、読めないわねこれ。古代語かしら?」

「読めるけど」

「はあ!?」


 どうやら日記の一ページのようで、明日、ベルちゃんを封印するとだけ書かれていた。

 封印…ここに眠ってる竜のことだろうか。


「どうして読めるのかは分からないけど読める」

「あんた考古学者にでもなったらどう?」


 呆れたように溜息をつくモモカ。


「あら、これ」


 視線を少し動かしたおかげなのか、モモカは木屑の中から落ちていたペンダントを見つける。

 モモカが例のお宝発見コンパスを取り出し、針の指す方を見てみれば、やはり白色の宝石が輝くペンダントに反応していた。


「どんな効果かは知らないけど、貰っていきましょう」


 彼女が家から離れると、木屑や手紙など、残っていたものが全て紫に変色しやがてボロボロになっていった。


「あら? これ、周りの物が腐りにくくなる効果があるみたいね」


 確かに、数分待つと俺の体は再び少し腐り始めたがモモカには痛み一つもないらしい。

 良い収穫をした、とばかりに喜ぶモモカ。


「先に進みましょう。コンパスももっと上を指してるわ」


 俺の手を取り、モモカはずかずかと登山を再開する。




 さらにしばらく登山を続けていると、毒々しい色をした植物が少なくなり、剥き出しの岩肌が目立つようになってきた頃…上を見てみれば、もう頂上までそう時間もかからないくらいの場所だ。

 非常に嫌な臭いを感じ取った次の瞬間、右手が急速に腐り始めた。

 慌てて回復(ヒーリング)を使うが、回復した傍から再びすぐ腐り始める。


「いっ…」


 ペンダントをしていたモモカすらも腐敗の進行がまた始まったらしい。

 明らかにここより上は竜の影響が強いのだろう。

 回復(ヒーリング)がなければ数十分も経たずに全身紫色になるだろう。

 モモカの手を引いて頂上から離れるよう急いで移動する。


「今日はこれくらいでやめておこう」

「そうね、無理はしないわ」


 満場一致で俺たちは来た道を引き返すことにした。






 村に戻ってきたのはもう夕焼けが山の向こうへ沈む頃合いだった。


「はい、あんたの分よ」


 そう言って金貨十枚を渡される。

 二十匹くらいの魔物しか狩ってないし、なんなら俺はほとんど戦っていないのにこんなに貰っていいのだろうか。


「最初に報酬は半分ずつって言ったじゃない。まだ不満なら今度はあたしがずっとサボってるからあんたが頑張りなさい。明日は休みたいから休むわ。明後日会いましょう」


 それだけ言うと、モモカは手をひらひらと振りながらギルドを後にしてしまった。

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