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祭り

 どうしてこうなったのだろうか。


「おいアキ、お前凄いな!」

「今日は祭りだ!」


 気が付けば酔っ払いに周囲を囲まれ肩は組まれで酒の匂いがプンップンだ。

 そう、あれは思い返すこと数時間前。




 完全に息絶えたタイタンをどうしようか迷っていると、村人たちが駆け寄ってきて、突然大騒ぎを始めたのだ。


「おい、あの回復術師がタイタンを倒しやがった!」

「お前名前は?」

「あ、明樹って言います」

「アキか! それで、この倒したタイタンどうするんだ? とんでもない金額になると思うぜ?」

「ど、どうするとは…?」

「知らないのかよ?」


 なんでも、こういう場合は倒した人がどうするか自由に決めていいそうだ。

 ギルドで換金するのも、武器に加工するのもなんでもいいそう。


「うーん…」


 正直、使いどころが良く分からない。強いて言うなら換金して何か情報を得るための資金にするのが一番だろうが…。


「換金して、畑を荒らされたり家畜を失ってしまった人の補填に当てて下さい。残りは村の皆さんで好きに使ってください」


 ただ畑を荒らされ家畜を食べられた人が不憫でならないので、そんな人たちが少しでも楽になれるようにしよう。

 それに、村の人はまだ俺を完全に信用していない気がするから、今資金を持っていても仕方がないと踏んだので、村の人に自由に使ってもらって好感度を上げることにしよう。




 と、軽い気持ちで宣言しちゃったのだが、補填分を差し引いても金貨が百枚程も余ってしまったので、村人や冒険者総出でお祭り騒ぎになってしまったのだ。

 冒険者総出とは言ったが、さっきぶっ飛ばされてた金髪はまだ意識がないみたいで姿が見当たらなかった。

 どうやらあのタイタン、金級の上位くらいの討伐難易度をしていたらしく、馬鹿みたいな金額になってしまったらしい。


 気づけばお祭り騒ぎは夜まで続き、その間に様々な村人たちと交流できた。

 あんまり数は見ないが、何やら頭に動物の耳が生えてる獣人なる存在の確認もできた。

 本当にファンタジーな世界だな。


 この大陸の情報についても少しだけ、さっきぶっ飛ばされてた冒険者たちから聞くこともできた。

 なんでも、この村の外では竜の影響で絶えず戦争が起こっている恐ろしい世界のようだ。

 そんな感じで情報収集していたが、イフィルの名前や竜関連の名前を出すと露骨に嫌そうな顔をするし、大した情報も得られなかった。

 強いて言うなら「あの山には近づくな」くらいだろうか。



 なんとか酔っ払いたちを撒き、また二つの月が昇ってくる頃にイフィルの元へ戻ることができた。


「ただいま」

「あ、アキお帰り!」


 何やら本を読んでいたらしく、栞を挟むとこちらにとてとてと寄ってくる。


「何を読んでたんだ?」

「これ? 外の世界を旅した日記らしいよ。巨大な滝に広大な砂漠、天まで覆ってしまうくらいの世界樹…憧れるなぁ」

「その、イフィルはずっとここにいる必要ってあるのか?」

「…あんまりここから離れ過ぎちゃうと、急速に呪いの進行が早くなって多分数時間で死んじゃうと思う」

「それは…ごめん」


 悪いことを聞いてしまった。

 イフィルは、竜に人間関係だけでなく生活範囲などの自由すらも全て縛られているのだ。


「大丈夫だよ。お腹も空いたし、ごはんにする?」

「あ、ちょっと待って。俺が作る」

「アキが?」

「いろいろ貰って来た」


 タイタンを倒してくれた礼だとして、酔っぱらってない人達からはいろいろな食材をお裾分けしてもらった。


「…そうなんだ」

「ああ。俺は料理が上手いからな」


 少なくとも、多分イフィルよりは…。


「腕によりをかけて作るから、任せてくれ」

「──よね」


 何かをぼそりと発したイフィル。


「どうした?」

「アキは、私の前から居なくならないよね?」


 目に涙を浮かべ、そう縋るようにイフィルは聞いてくる。

 これは…父親と俺を重ねてしまったのだろうか。


「…イフィルの呪いが治るまで、ここにいるって言ったじゃないか」

「…うん」


 安心させるべく、彼女をハグしてから、食事の準備に取り掛かる。




「これはおいしいな」


 今日はお裾分けしてもらったトマトや鶏? 肉で作ったスープと、良い感じに焼いたステーキだ。

 昨日の晩飯よりおいしいご飯ができたと自分で言ってしまえるレベルの出来栄えだ。


「…うん」


 ニコニコで食事を取る俺の横であまり喜んでいないイフィル。


「どうした? 何か気に入らなかったか」

「違くて…実はあんまり味が分からなくて」

「それも竜の?」

「多分」


 またやるせなく重苦しい雰囲気が俺たちの間に流れる。


「…じゃあ早く呪いを解かないとな! それより、イフィルのところに来る商人、相場から見ると悪質なぼったくりじゃないっぽいぞ」

「ホント? やっぱり優しそうなおじさんだったし信じてたよ」

「悪質じゃないだけでぼったくりはぼったくりだけどな…」


 少し食卓に笑みが零れ、なんとか重苦しい雰囲気からは脱することができた。


「そういえば、冒険者になれたぞ」

「危ないから無理はしないでね?」

「大丈夫、今日金級くらいの魔物を一人でぶっ倒したからな」

「きんきゅう?」

「ああ、デカイ巨人なんだけどな」


 ああ、あの大きいの! と合点がいったように頷くイフィル。


「私も森で何回か見たことあるよ!」


 と言うか、ずっと気になっていたのだが、イフィル、どうしてあんな海辺に居たのだろうか。

 理由ではなく、どうやって来たのか。

 お世辞にも、イフィルは武術の達人という訳でもないだろうし、俺が回復(ヒーリング)する前は足も一本なかったから移動にも凄く時間がかかるはずだ。


「イフィル、俺が来る前、どうやってあんな海辺まで行ってたんだ?」

「普通に、頑張って歩いてたよ」

「魔物に襲われたりしたんじゃないか?」

「うーん…多分、私に竜の臭いが凄い付いてて近寄れなかったとかそういうのじゃないかな」


 なるほど、竜の呪いはこういう時ちょっとだけ役に立つのか。

 とは言ってもデメリットの方がデカすぎるが。





「今日も行って何か情報を見つけてくるよ」

「行ってらっしゃい」


 また少しだけ足が腐り出したイフィルに回復(ヒーリング)を使ってから朝一に家を出る。

 村でもかなり年寄りだった飲食店のおじいちゃんですら竜の呪いについて詳しくないとなると、いよいよ当初の目的通り金の力で情報を買うしかなくなってくるが…どこで金を使えば情報が手に入るのだろうか。

 それも含めてモモカに聞いてみよう。金級って言ってたし、先輩だろうからな。

 と言うか、昨日なんでモモカはタイタンが暴れてる時に出てきてくれなかったんだろうか…。





「アキ、あんたあたしがぐーすか眠りこけてる間に何してくれちゃってんのよ」

「何、とは」

「タイタンよ、タイタン。あんたがぶっ倒して報酬独り占めじゃない」


 なるほど、モモカはあの大騒ぎの間ずっと寝ていたらしい。


「ちなみに、今、もうすぐ正午くらいだけど、いつ起きた?」

「さっきよ。…遅刻したのは謝るわ」


 この子、ほぼ二十四時間くらい眠り続けていたらしい。

 エルティナ帝国からリュヴーズ大陸に密入国するために船に乗ってそのまま寝た時の俺くらいぐっすりだ。


「まあ気にしてないけど…そういえば俺、あることについて知りたいんだけど」

「なんでも言ってみなさい」

「竜についてなんだけど、誰かが詳しく研究してるとかそういうのを知らない?」

「…聖エルア教国」

「聖エルア教国?」


 あんたホントに何も知らないのね…と溜息をつくモモカ。


「聖エルア教国と言えば宗教国家でありエルア教の本拠地。そして、神体は…実在する竜よ」

「ってことは…」

「ええ、聖エルア教国の万神ルシフェル。あの竜を神聖なものとして祀っているけれど、もしかしたら研究はしているかもしれないわね」

「本当か!?」

「ええ、竜の加護をうまく利用してるのなんてあの国くらいだもの。でも、仮に研究してたとしてもその情報を聞き出すのは不可能に近いでしょうね。なんてったって竜の加護のカラクリが仮にバレれたならば自分たちの国のアドバンテージを失うもの」


 残念ね、とモモカ。

 他に竜のことを研究してそうなところに心当たりはないし、もう自分で各地の御伽噺から考察するしかないかもね、と更に絶望的な言葉を投げかける。

 ただ、気になる単語が。


「竜の加護?」

「ルシフェルの加護があると光魔法の扱いが上達するらしいわ。それくらいしか公言されてないわね」

「そうか…」

「竜の研究なんてこんなご時世じゃできないわ。みんな自分たちの生活で精一杯なのよ。まだ活発に活動している竜も居るし、北の方とか南の方は戦争真っ只中だし」

「戦争か…」

「竜にありとあらゆる場所を荒らされてるから、住むところも食料もないらしいわ。もちろん人間たちで手を組んで倒そうにも到底敵う相手じゃないし」


 本当に迷惑な存在だな竜。


「アキ、あんた竜の一族って言う女の子と一緒に住んでるのは本当なの?」


 突然、そんなことを聞かれる。


「まあ、まだ二日目だけれども」

「随分とあの子にぞっこんなのね。竜について知りたいなんて言うけど実際はその子関連なんでしょう」

「否定はしない」

「じゃあわざわざ情報を集めたりじゃなくて、もっと簡単な方法があるじゃない」


 チッチッチ、と指を顔の前でうざったらしく振ってくるモモカ。


「現地…竜が封印されている山へ向かうわよ」

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