探索
「アキの速さなら、ダンジョンの何処に居たとしてもすぐに駆け付けてくれそうだな」
俺が帰ってきた頃には、もうすっかり共感覚を使用した手分け探索をする方向で話が纏まっているみたいだった。
そのままコルガたちとアレックたち、俺とモモカの三手に分かれてダンジョンを探索することになり、その場で一旦解散することになった。
「他の皆が心配かしら?」
抱えられたモモカが、やけにそわそわしている俺の様子に気付いたらしく、そう声を掛けて来る。
「ああ。やっぱり慣れない場所だし、アレックとかコルガがどれくらい強いのか実はよく分かってないから…」
どっちも瞬殺してしまったせいでどれくらい戦えるのかとか実は全く分かっていない。
「このダンジョンの危険度はどれだけ高く見積もっても金には絶対届かないから、アレックにコルガなら大丈夫よ」
「それなら良いんだけど…」
先日ワイバーンと戦ったばっかりで、俺の中ではあれくらいの強さをした化け物がそこらへんに居るのではないかという思い込みがまだ残っている。
本来白銀級の魔物なんて一生に一度会わないくらいの遭遇度ってモモカが説明してくれたけど…俺半年足らずで三回遭遇してるし…。
不安だなぁ、心配だなぁ…なんてぼーっとしていると。
「アキ、そこにトラップがあるわよ」
「え、どこ?」
「そこの床、色が違うでしょう?」
モモカがトラップがあると教えてくれる。
試しに、教えられたところに向かって、遠くから崩弾をぶっ放してみれば、成程確かに。
ガシャン! と音を立てて下から針が大量に突き出てきた。
「こわっ…」
「あんたさっきダンジョン爆走したでしょう? あの時狂ったようにトラップ踏みまくってたわよ」
「えっ?」
「でもあんたの足が速すぎてトラップが起動する前に通り過ぎちゃったから、体感では一つもトラップを踏んでいないように思えたって訳ね」
俺そんな脳味噌筋肉みたいな方法でトラップを無効化してたのか…。
「そんなことより先に進むわよ。…あ、コルガたちがトラップを踏みそうだからちょっと共感覚するわね」
ちょっと電話してくるわね、みたいな軽いノリでモモカは黙りこくってしまった。
きっと今コルガたちも大変な思いをしているんだろうなぁ、と変わり映えしないダンジョンの中の景色をぼけーっと眺めながら、歩を進める。
「アキ、このダンジョンに来た理由、ちゃんと覚えてるでしょうね?」
「もちろん覚えてるぞ。危険度の調査と可能ならダンジョンコア? ってヤツを壊せば良いんだろ?」
「? 魔道具と宝物の掘り出しよ。新しく生まれたダンジョンならまだ手付かずのお宝がいっぱいに決まってるじゃない」
そういえばそんなこと言ってたな。
その為にコルガとかアレックたちを誘ったんだったっけ…。
モモカの言葉に相槌を打ちながら歩いていると、少し大きな空間に出た。
「さて…部屋に出た訳だけど…」
「魔物か宝箱、どっちかが出て来るんだっけか?」
「ええ。でも違うパターンもあって…」
こじんまりとした部屋の中、背後から低く唸るような声。
後ろを振り返ってみれば、二足で立つ、巨大な狼がこっちを睨みつけていた。
人間のように盾と剣を構えている。激しい唸り声と息を吐く音が遠くからでも聞こえる。
「ワーウルフね。危険度は銀。来るわよ、アキ」
ワーウルフが飛び上がる。
確かに飛び上がったその巨体は大迫力、かなりの威力を秘めているであろうが…。
「崩弾」
俺の指先から放たれる、凝縮された黒い波動が五発、ワーウルフの手足と頭を器用に撃ち抜く。
確かに威力だけはあろうものの、あまりにものろ過ぎた。
脳天を撃ち抜かれたワーウルフは空中でビクンと体を跳ねさせ、俺の後ろへと大きな音を立て墜落した。
近づいてみれば、完全に息絶えている。
「流石ねアキ。瞬殺じゃない」
「…こんなにあっけないと逆に怖いんだけど」
「そんなことないわ。だいたいこんなものよ。それで、この部屋は別パターンだったようね」
俺が首を傾げていると、モモカが部屋の中心を指差す。
そこには巨大な宝箱、更に部屋の奥にはいつの間にか現れた下へと続く階段があった。
「別パターンと言うか、次の階層に進むための階段を守るボス部屋ね。ここは強力な魔物と、宝箱がどっちも出てくるのよ」
「はえー」
「まあそんなことはどうでも良いわね。早速宝箱を開けましょう!」
いつになくウキウキしているモモカ。
そんなに宝箱を開けるのが好きなのか…。
モモカに導かれるままに宝箱の傍まで行き、箱を開ける。
「おお…! 魔道具じゃない! 危険度の割には大当たりよ! 宝石も沢山、悪くないわ」
中に入っていたのは綺麗な宝石が数十個と、よく分からないナイフ。
「大丈夫? あんまり魔道具とか分からないから、触っていいモノなのか…」
「見た所、触れた瞬間爆発する利敵魔道具じゃないみたいだし大丈夫よ」
恐る恐るナイフを握って取り出してみるが、何も起こらない。
とりあえず宝石も拾って…これどうやって持って帰る? 手に抱えて持って帰るとか恥ずかしいけど。
「あー、失敗したわね。アキがいつも軽装だから失念してたけど、あたしたちアイテムボックスなんて持ってないし、ちゃんとした運び屋を雇うとかすればよかったかも」
「アイテムボックス? 運び屋?」
「アイテムボックスは無制限に無機物を収納できる魔具、運び屋って言うのはこんな感じのダンジョン探索の時に手に入れたアイテムを運ぶ専門の職業よ」
「へ~」
某凄いポケットみたいなものか。運び屋ってのも名前のイメージ通りだ。
「今からコルガとアレックに連絡するわ。本来の目的でもある危険度の調査は大体これで検討が付いたし、一旦撤退しましょう」
「もう終わりで良いのか? あの階段の下とか調査しなくても…」
「緊急性のある依頼じゃないから無理して焦る必要はないわ、コルガたちも初めてのダンジョンだから疲労が溜まっているだろうし。それに、あたしたちの装備じゃ次に宝箱を見つけられたとしても戦利品を持ち帰るのが難しくなっちゃう」
絶対後半がメインだろ…。
「まあ無理しないってのは大事だよな。他の皆はどうなってるんだ?」
「アレックたちは危なげなく魔物を蹴散らして宝箱を見つけたみたい。コルガたちは数回魔物と交戦中で、かなり余裕そうよ」
ならば一安心だ…。
その後、共感覚により全員と合流し、モモカのありえない超記憶力により迷路のようなダンジョンを凄い速さで脱出することが出来た。
俺やアレックが見つけた宝石や、コルガたちの持ち帰った魔石等をギルドで売買すれば、金貨数百枚程の儲けが生まれた。
大体一人金貨三十枚…まあまあ歩き回った割にはそこまでの稼ぎじゃないな…ワイバーンの大量入金で脳が焼かれている可能性があるかもしれないが。
コルガたちはまあまあほくほくした顔だった。アレックはそこまでだが、コモは目を輝かせていた。
その後、日も暮れてきたため俺たちは解散する。
宿屋に向かう途中、モモカに話しかける。
「お宝が沢山あるかと思っていたんだけど、正直しょっぱかったな」
「まあ、危険度銀級のダンジョンの宝石とか魔石じゃこんなもんよ。なんならちょっと多いくらいね。でもアキ、一つ忘れていることがあるんじゃないかしら?」
「あ、魔道具?」
未だに手に入れた謎のナイフが手元には残っている。
「それも売ればかなりのお金が手に入るわ。ダンジョン探索では確率は低いけれど、魔道具を手に入れられることも大きな利点よ。要らなければ売ればいいし、気に入ったなら自分で使えば良いわ」
「なるほど。これをねぇ」
人気のないところで振り回してみるも、何も起こらない。
「うーん、俺には才能がないのかな…」
「魔道具に才能もクソもないわよ。ちょっと貸してみなさい」
モモカがナイフを俺の手からぶん取り、すっと振ってみると…。
「…これ、ゴミね」
ナイフから炎が噴き出した。滅茶苦茶派手だが、それだけだ。
モモカは死んだような目でナイフを眺めていた。
「今すぐあの店で売り払いましょう。金貨十枚で買ってくれれば大儲けだわ」
ありえん不機嫌な声で呟くモモカを抱えながら、魔道具専門店に赴いた。
店主のおっさんは明らかに元気のないモモカを見てナイフの使えなさを察したのか、ナイフを金貨七枚で買い取った。
「まあ、適正価格…なんならあんなのに金貨七枚は、ちょっとこっちが儲けたまであるわ」
「うん…まあ、期待外れだったよね…」
俺たちは何とも言えない気持ちで宿屋に帰宅した。
その日の夜のモモカは少し激しかった。




