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脱国

 洞窟の中は薄暗く、月の灯りは届かない。

 少し休む為に洞窟を進んで行くと、何やら変な音がする。


「んー!」


 人の唸るような声が洞窟の奥から響き、何やら明かりも付いているようだ。

 とりあえず様子を見るために足音を殺しながら洞窟を進む。



「ん、んー!」


 開けた空間には、縛られ口に布を詰め込まれて転がされた男が一人と、転がったバックから零れた食料を食い漁っている数匹のゴブリンが居た。

 男は怪我が少しあり、血が足の様々な箇所から流れている。

 状況から見るにゴブリンが食料欲しさにあの男を攫った感じだろうか。

 まだどのゴブリンもこちらに気が付いていない様子だったが、転がされていた男は此方に気づいたらしく、目で助けを縋ってくる。

 ただの高校生だったら絶対に見捨てていただろうが、今の俺は身体能力の向上に回復(ヒーリング)がある。

 こんなところで時間を食ってるわけにはいかないのだが…助けないという選択肢は俺にはない。



 音を立てないようゴブリンの近くまで移動、落ちていた棍棒を広い、一匹の頭を殴打する。


「グギャッ」


 酷い断末魔を上げ、棍棒がへし折れると共に、ゴブリンの頭だけが飛んでいき壁に叩きつけられる。


「ギギギ!?」


 べちゃりとした水音に残り二匹のゴブリンが気づいたようだが、それより早く二匹を蹴り飛ばし。

 そのままゴブリンは動かなくなってしまった。



「今助けるからな」


 転がされていた男の縄を引きちぎり、そういえば俺の回復(ヒーリング)は他人にも使えるのだろうか、とふとしたことを考えてみれば、男の足が発光し始め、たちまち傷が塞がってしまった。

 どうやら俺の回復(ヒーリング)は他人にも使えるらしい。


「あ、ありがとうございます!」


 茶髪の男は何度も感謝の言葉を述べてくる。


「それにしても、俺より若そうなのに凄いですね。名の知れた神官さんか何かでしょうか?」

「神官?」

「ああいえ、先ほど回復魔法を使っていらっしゃったので。あんな一瞬で傷を癒してしまうような魔法は初めて見ました」

「ごめん、別に神官って訳ではないんだ」

「では冒険者の方ですか?」

「いや、なんていうか記憶喪失で…行く当てもなくここら辺をほっつき歩いていたんだ」


 咄嗟に雑な嘘を付く。


「そうだったんですか? すみません…。僕は食料になりそうなモノを探しに森で採集をしていたんですが、少し夢中になり過ぎてしまってこんな時間になってしまったんです。貴方がよければ僕の村まで来ませんか? お礼がしたいです」

「あー、いや、俺は訳あって先を急いでいてな…」


 この人の善意を断るのは心苦しいが、あの白フードとこの男の人の村が繋がっている可能性も十分にあるので、あんまり信用はできない。


「その代わりと言ってはなんだが、そこの食料を少し分けてもらってもいいだろうか? 全部じゃない、ホントに少しで良いんだ。あと、俺は諸事情あってここら辺の地理に詳しくないから教えてもらえないだろうか」


 回復(ヒーリング)で走りながら疲労を回復しているときに気づいたのだが、多分俺は回復(ヒーリング)を使ってる限り飲まず食わず寝ずの超人のように活動し続けられる。

 だからと言ってごはんが食べたくないわけではなく…つまりお腹が空いたのだ。

 それと、少しでもあの白フードたちから遠くに逃げたいので、ここら辺の地理情報が欲しい。

 理想はもう海を渡ったり山を越えたりすることだ。それくらいできれば安心できる。

 

「それくらいなら全然良いですよ」


 心理学的に二つ同時に頼みごとをされると人間は断りづらいというのを昔聞いたことがあるが、この男の人をこう利用するのはちょっと心苦しいな。



 男の人から手渡してもらったリンゴに似た果実を食しながら、ここら辺の地理について教えてもらった。


 ここはエルティナ帝国という帝国の領土、というか支配領域がデカすぎてこの大陸全土が帝国の領土らしい。つまりこの大陸にいる限り俺に安寧の地はないっぽい。

 いくつもの山岳に囲まれたエルティナ帝国の帝都から川沿いにかなり南下したところに今俺達は居るらしく、さらにこの川沿いを下っていくと港町があり、そこから西のリュヴーズ大陸に輸送船が出ているようだ。

 とにかく、この後の行動としてはただひたすらに川沿いを走り続けリュヴーズ大陸に密入国する方向で行くことにしよう。



 夜が明けるまでの数時間、男の人に話し相手になってもらい、この世界のいろいろについて少しだけ学んだあと、朝焼けと共に俺は川沿いを走り始めた。

 男の人の地理知識が正しければもう一日走り続ければ港町に着くようなので、やる気は十分だ。






 途中、川沿いにいくつか村があったが見つからないようにコッソリ通り抜けながら、適当に森に生えてる木の実もつまみ食いしながら移動を続ける。

 そして再び二つの月が空に浮かぶ頃、少し開けた丘に出た俺は、月明りに反射して煌めく広大な海と港町をその目にした。

 留められた中世ヨーロッパに見合わない程の大きさを誇る木造の船が数隻、本来は巨大であるだろう帆を畳み静かにそこに鎮座していた。

 エルティナ帝国からの脱国がすぐそこまで迫ってきて気が緩みそうになるが、こういう時こそ冷静に気を張っていこう。

 まずはいろいろ偵察だ。

 まだ完全な夜更けと言うには早く、何人かの船乗りが船の点検をしている。

 彼らに気づかれないよう、こっそりと近づき船の中に乗り込み、この船がどこに向かうのか確認する必要がある──。


「えーっと、明日はいつ出発なんだ?」

「朝日が昇ったらすぐだ。リュヴーズ大陸なんて俺たちの船は初めて行くから、ちょっと早く出て余裕を持っておきたいんだってよ」

「あーなるほど」


 なんたる僥倖。早速この船に無賃乗船することにしよう。

 そうと決まればいい感じの場所を見つけてそこに隠れ潜むことにしよう。


 船乗りに気づかれないように乗船、真っ暗な船内をなんとか目を凝らして進んで行く。

 ある部屋に入ると、幾つもの鉱石のような物が大量に積まれている部屋に辿り着いた。

 本当にうっすらとだが部屋の隅などに埃が乗っており、あまり人が立ち入らない空間なのが分かる。

 なんとか鉱石の間を掻い潜り、良い感じに横になれるかつ入口から死角になるええ感じのポイントを見つけた。

 道中拾った変な色をした木の実をつまみつつ、本当にここ暫く無睡だった体に血糖値の爆上げはなかなか堪え、意識を一瞬で手放してしまった。

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