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芸能人の秘密を丸裸!教えて、シークレットガーデン!

 桔梗と別れ、美月と連絡が取れるようになった日から。

 氷室は桔梗の出演するテレビ番組を、率先して観覧するようになっていた。

 一体どんな心境の変化だろうか。

 桔梗を毛嫌いしている時は避けていた。

 彼女の活躍を見たいと思うようになったのは、桔梗を受け入れようと少しでも考え始めている態度の現れなのかもしれない。


(あいつと交際するつもりなら、どんな所に人気が集まっているのか知る必要がある)


 桔梗は氷室に誇れる内面があるとしたら、それは氷室を愛する気持ちであると力強く発言した。

 芸能人であることや若だは、いつか失われるかもしれない。

 そう告げた氷室の言葉を真に受けて、桔梗は誇れるものとして氷室に貫き通す自信はなかった。


『人気芸能人の秘密を丸裸!教えて、シークレットガーデン!』


 毎週日曜の13時から放送されているバラエティ番組は、上品なマダムとして有名なミスシークレットと名乗る芸能界の重鎮(じゅうちん)が、美しい花々の咲き乱れる庭園でティーセットを囲みながら芸能人の秘密を丸裸にする番組だ。

 愛知桔梗の芸能活動をほとんど知らない氷室にとって、これほどもってこいな番組はないだろう。

 今日一日休みの氷室は、自宅のリビングでインスタントコーヒーをマグカップに注ぐと時折口に運び、くつろぎながら放送を眺めている。


『本日のゲストは愛知桔梗さんですわ。よろしくお願い致しますね』

『よろしくお願いします』

『ガーデンネームはいかがなさいましょう?このガーデンに足を踏み入れたゲストの皆様は、ガーデンネームで呼び合う決まりですの』

『そうですね……キョウでお願い致します!他の呼ばれ方はあまりされたことがないので……』


 番組内で桔梗は、これからキョウと呼ばれるようだ。

 弟の吉更からは名前で呼ばれていたが、天門紗雪からはキョウちゃんと呼ばれていた。

 アイドル時代のファンも桔梗のことをキョウと呼んでいるようで、番組内でもその件を取り上げられ恥ずかしそうにしているのが印象的だ。


(面白くねぇな……)


 謎の上品な美魔女と桔梗が談笑しているだけの番組にどのような面白さを見出せばいいのかわからず、氷室はSNSでファンの感想を漁り始めた。


『キョウちゃんがIQ(アイキュー)時代のファン達について話してる!』

『キョウちゃんの素顔見られて嬉しい!』

『紫髪はメンカラだって話、してくれないかな……』


 氷室の感想はどうやら、少数派であるらしい。

 SNSでは桔梗の姿が画面に写っているだけでも喜ぶファンたちが大量に応援コメントを書き込み、番組とミスガーデンに感謝を述べていた。


(新興宗教か……)


 氷室は異様とも言えるファンの書き込みにドン引きしながら、番組を流し見る。

 氷室が興味を持つ内容になったのは、番組が始まってから15分もの時間が経過した後だった。


『キョウさんは国民的アイドルImitation(イミテーション) Queen(クイーン)の5期生として華々しくデビュー致しました。神奈川焔華さんがプロデュースするようになってから初めての追加メンバーに、世間はとても驚いたことでしょう。平均年齢20歳のグループに、14歳の少女が加入したのですから。当時の反響はいかがでした?』


 桔梗はファンのみなさんが暖かく迎えてくださったからこそ、今があるのだと笑顔で語って見せた。

 ──だが、氷室はすぐにその言動がまやかしであることに気がつく。

 当時、桔梗は頻繁に吉更と入れ替わっていた。

 当然入れ替わっていた最中のことは、互いに共有していなければ辻褄の合わない部分も出てくるだろう。

 吉更と入れ替わった彼女は、天門総合病院に入院していたのだから……。

 デビュー当初は、順風満帆ではなかったはずだ。


(息するように嘘をつくことが求められているのか……)


 天門総合病院の事件に、桔梗が関わっていると知られれば、大きな騒動となる。

 そのことを隠すには、どうしても嘘をつく必要があった。

 芸能人の愛知桔梗は嘘で塗り固めて作られた虚像だ。

 本来の愛知桔梗を知る氷室からしてみれば、芸能人の愛知桔梗は、同一人物とは思えなかった。

 テレビ番組の中で微笑む彼女の笑顔は空虚なもので、彼女本来の輝きが失われている。

 魅力的で、彼女に触れたいとは思わないのは何故なのか。


(俺が本物の愛知桔梗を知っているからだ)


 テレビの中で芸能人として活動する愛知桔梗の姿しか知らなければ、違和感など感じるはずがないだろう。

 愛知桔梗はよく笑い、よく泣く。

 演技や歌に定評がある美しき芸能人なのだから。


『キョウさんを一躍有名にしたのは、6年前の主演ドラマ、Secret(シークレット) Love(ラブ)~この恋は誰も秘密~でしたわね。高校一年生の女子高生が、既婚教師を自分のものにするため不倫に走る、衝撃的なドラマが話題になりました』

『なんだか恥ずかしいです』

『当時、リアリティがありすぎて恐怖を感じるとまで言われていましたけれど……。演技をするに辺り、参考にした人は居ますの?』

『友達が……。結婚している男の人を好きで……。体験談を聞いて、自分に当て()めて演じてみたんです。うまくできるか不安だったけど、みんなからよかったよって言われて、すごく安心したのを覚えています!』


 自分の体験を友達の体験と偽り話すのは、よくある話だ。

 ドラマ内では既婚の教師に恋をする女子高生の役を演じていたらしいが、現実の桔梗は自然消滅した彼女持ちの医者である氷室に恋をしていた。

 不倫と浮気の違いこそあれど、いくらでも実体験を演技に取り入れられたはずだ。


(嘘ついてまで話すようなことかよ……)


 ドキュメンタリー番組で氷室の情報を呼びかけていたこともあり、実は浮気相手なんですと自己紹介するわけにはいかないことくらい、氷室にだって理解できるが──。


(芸能人は大変だな……)


 氷室は最終的に、桔梗へ同情した。

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