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桔梗への手紙と、ある人物との再会

『テレビHHT(エイチエイチティー)と申します。芸能人の今、会いたい人!の番組にて、愛知桔梗さんが白雪氷室様にお会いしたがっています。こちらの診療所に勤めていらっしゃるとお聞き致しまして……御本人でお間違い無いでしょうか』


 この場で同姓同名の別人であると告げた所で、本人が会いに来ればすぐに嘘だとバレてしまう。

 氷室が仕方なく本人だと認めれば、番組スタッフは一度番組の趣旨(しゅし)と取材交渉のために、顔を合わせをしたいと言ってきた。


「愛知桔梗本人が来ることはないと、お約束頂けますか」

『取材交渉が成立した場合のみ、スタジオでお会い頂く予定です』

「本人がこちらの同意なく会おうとするようなことがなければ、構いません」


 氷室は番組スタッフに都合のいい日時を電話で伝えた。


 ――数日後。


 早速、番組スタッフと会うことになった。


「テレビHHT、芸能人の今、会いたい人!の番組スタッフです。本日はよろしくお願い致します」


 カメラマン、音響担当、リポーターにスタッフと数十名で押しかけて来られたらどうしようかと思ったが、東京からでは飛行機の距離だ。

 大勢で押しかけてくることはなく、ハンディカメラ片手にスタッフが1名、単身で診療所に乗り込んできた。

 番組スタッフは突然の訪問を謝罪しながら、氷室に番組を見たことがあるかと聞いてきた。

 氷室が見たことないと伝えれば、番組スタッフは番組の素晴らしさを早口で伝えてくる。


(視聴率がどうこう、知らない人はいないとか言われても……見ていないもんは見ていないんだから仕方ねぇだろ)


 内心苛立って仕方ない氷室は、番組スタッフに向けている貼り付けた笑みがどんどんと(いびつ)なものに変化していくことを自分でも自覚していた。

 このまま我慢していたら、面倒なことになりそうだ。

 氷室は番組スタッフの意向を無視して、さっさと話を終えるために本題へ入った。


「遠い所までご足労(そくろう)頂き大変恐縮ですが、番組内で愛知桔梗と会うつもりはありません」

「……理由をお聞かせ願えるでしょうか」

「プライベートなことですので、言いたくありません」

「プライベートなこと……?」


 氷室が桔梗に会いたくないのは、恋愛面での関係進展を防ぐためだ。

 報道関係者になど、口が裂けても言えるわけがない。

 氷室と桔梗の年の差を悟って、あることないことを公共の電波で流されても困るが──それにクレームをつけるかどうかは、桔梗と事務所が判断することだ。

 氷室は鋼の意思をもって、番組出演を断ることだけを考えればいい。


「こちらもご依頼主の愛知桔梗さんと、会いたくないと強い意志をもってはっきり宣言される白雪さんを無理矢理引き合わせるようなことは致しませんので、ご安心ください。謝礼をお支払いしますので、その代わりと言っては難ですが……。愛知桔梗さんへ、直筆のお手紙をお願いできないでしょうか」


 番組スタッフは、万年筆と便箋を鞄から取り出すと、この場で氷室に桔梗へ宛てた手紙を書いてくれないかとお願いしてきた。

 氷室が桔梗に直筆の手紙で伝えたいことなど、一つしかない。


「番組的に問題があるのなら、都合のいい手紙を捏造して、番組で読み上げてください」


 氷室は便箋に万年筆で描いた文字を見せびらかすように番組スタッフへと突き返す。


『俺とお前の道が、二度と交わることのないよう願っている』


 そこに書かれた文字を見た番組スタッフは、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。

 一枚のDVDを机の上に置いた彼は、便箋を丁寧に三つ折りして封筒へ仕舞うと、「間違いがあれば訂正し、白雪さん目線の再現VTRを作成しますのでご連絡ください」と言って席を立つ。

 思ったよりもあっさりと引き下がるのだなと氷室が番組スタッフの意図を(いぶか)しんだ時だ。

 彼は後方の出入り口を指差し、氷室の危惧していたことを口にする。


「ご協力頂きましてありがとうございます。私からは以上になります。実は、白雪氷室さんに番組スタッフが会いに行くと事前に打ち合わせをした所、どうしても会いたいと言う方々がいらっしゃっていまして──私は席を外しますので、よろしければ皆さんでお話ください」


 番組スタッフが出入り口のドアを開け退出すると、入れ替わりでとある人物が診療所に姿を見せた。

 桔梗ではないかと身構えたが、明らかに背格好が異なる。

 身長が170cm以上はあるだろうとひと目でわかるほど、圧倒的な存在感を放つ二人の男女に、氷室は別の意味で目を丸くした。


「随分顔色が良くなったわね。小さな診療所は激務ではないようで何よりだわ」

「研修医だったから酷い顔色していただけだろ。立派な医師として名乗れる年齢なら、下っ端に患者を押し付ければいいもんな」


 6年前は、桔梗と瓜二つだったはずなのだが──。


 成長期を乗り越え、しっかりと中性的な顔たちから男性らしく成長を遂げた愛知吉更(あいちきさら)と、相変わらず腰に手を当て女性にしては高すぎる身長で、椅子に座る氷室を見下してくる神奈川焔華(かながわほのか)のペアを視界に(とら)えた。


「二人揃って何しに来たんだ……」

「何って、本人確認よ。嘘情報掴まされたら困るでしょうが」

「俺は観光。沖縄、一回来てみたかったんだよな」


 桔梗はImitation Queenをすでに卒業し、マルチタレントとして活動している。

 事務所はやめていないはずだが、焔華はあくまでImitation Queenのプロデューサーだ。

 桔梗の活動に口出ししてくる理由などないはずなのだが──。

 当然のように吉更が焔華と一緒にいる辺り、一時的に双子を保護していたはずの彼女は、すっかり双子の保護者としての振る舞いが板についているのかもしれなかった。

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