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人生一度は活躍できる時がある
私の幼馴染、瑛太はまさにその貴重なチケット一枚を今日使った
体育祭で行われた騎馬戦
紅白に別れたくさんの騎馬達がそれぞれの大将を守り、敵大将を目指し、ジリジリとお互いの距離を縮めつつあった時だった
幼馴染でメガネ男子の瑛太はヒョロッとした細身の運動苦手ボーイだった
その身体の軽さから騎手役にさせられていた
紅白の騎馬達がお互い目を離さず大将に標的を定めている中、え?お手洗いですか?のごとく一騎の騎馬が戦線離脱したようにみえた
瑛太の騎馬だった
誰の注目も浴びず、すすすっと移動した騎馬は赤組の騎馬の大将の後ろにいつの間にか辿り着き、すっと手を伸ばして大将の赤白帽を奪った
一瞬の出来事で赤組の大将は頭に手をやり、帽子が奪われたことを理解するのに数秒かかった
まさか大将が早々に討ち取られたと気がつかない騎馬達は前線で戦いを続けていたほどだった
その年の騎馬戦は呆気なさと見応えの無さで卒業アルバムにも載せてもらえないほどだった…
ダークホース的な活躍振りを見せたにも関わらず瑛太の人生の唯一の栄光はどの記録にも残らなかった
瑛太は何をしても可もなく不可もない奴だ
奴の行動には何故か目が離せない
言っておく、1ミリもそこに恋愛感情は無い
奴のたまに取るおかしな行動や、奴の不運具合がとにかく私のツボなのだ
今日の騎馬戦も活躍しようとかそんなことは微塵も考えてないだろう…
差し詰め、騎馬役の三人の行動に後付けされた行動だろう
何だろう、このやる気無さ
かと言ってゴミな奴でも無い…
また今日も奴の記録が増えた