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ティンカーベルの娘  作者: 花島
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4.記憶喪失と空飛ぶ少年



そもそもどうして自分は此処にいるんだ?



エリオットは記憶を失っていた。

1番最後の記憶はルイスにいつものように見送りをされ、働きに出かけ、いつもの船に乗ったところまでは覚えていた。しかし、目が覚めたら知らない海辺で倒れていた。

その途中の記憶だけがすっぽり抜け落ちていた。

「(考えられるとしたら船から落ちて流れ着いたのが妖精のいる島だった········?)」

エリオットはそう答えを出すと頭の中が冷え、ようやく自分の置かれている状況を理解した。船から転落して島に辿り着いたとしても一体何日経ったのか、他の船員は?仕事は?そして_____



_______ドォォオオン!!!!!




再び遠くから爆発音が鳴り響く。

エリオットははっとして目の前の硬く頑丈な幹をめいいっぱいに引っ張る。


帰らなくては。


エリオットはその思いで目の前の幹を引っ張り、一気に自分の体重をかける。

帰らなくては行けない。

「····っルイス」

1人でルイスが待っている。エリオットは更に体重をかける。するとメキメキと嫌な音を立て初め、最後の力をエリオットが込めるとグンっと幹は抜け、そのまま後ろに倒れた。

幾重にも聳え立っている幹の1つが抜け、エリオットがギリギリ通れる道ができた。

エリオットは背中の痛みや息を整える暇もなく、その隙間から外へと抜け、光を追いかけるように出口へと向かった。



エリオットは外へ出ると息を飲んだ。

自分の身長よりもずっと高く頂上が見えない程の木々。大きな茎や葉等の見たことの無い生い茂る草花。そして緑と木々の隙間を塗って差し込むのは太陽の光。

遠くからは鳥や虫の鳴き声が聞こえきた。

エリオットは海街育ちだ。普段海の近い街で生活している為、目の前の襲い来るような緑達にはただただ呆然とするしかなかった。

「·····洞窟だったのか·····」

ゆっくり振り向くとエリオットが出てきたのは人工的に掘られたであろう洞窟。その洞窟には補強するかのように岩が積み重なっていた。

「····う、川を探さないと····」

呆然としている場合ではない、とエリオットは動き出した。獣道を進み、進みながら耳を澄ます。

「(こういう時は川を探すんだ。川の傍には集落や人が集まる。そして川の最後の行き着く場所は海だ!)」

そう信じてエリオットは歩き出した。






_____ドォォオオン!!!!!



鳴り響く爆発音。

エリオットは呼吸が早くなるのを感じ、不安と恐怖が襲う。進んでいた足が立ちすくむ。

「(····爆発音、明らかに人工的な音だ·····ああ、でも·········)」

途中で見つけた小川を頼りにエリオットは入江へ出ていた。島が海を囲うよかのように伸び、砂浜は白く、海は眩いほどに輝いていた。最初に歩いていた浜辺ではないがエリオットはへとへとの身体を休めるように膝を着いた。

目が痛くなるような狂おしい群青色(ウルトラマリン)した海。

それはどこかエリオットのいた海とは違く、淀みのない海だった。

「本当に、別世界だ」

ぽろりと出た言葉にどこか絵画を見ているような気分にエリオットはなる。



「おい·····船長は····」

「·······い······逃げる·········あとで·····」

エリオットが愕然としていると茂みから声が聞こえる。エリオットは振り返るとそこには複数人の男達がいた。

エリオットよりも年上の男達ばかりで比較的薄手の格好をしていた。彼等の服装は何年も着ているかのように汚れが目立ち、シャツを腕まくり、ブーツはヨレヨレだった。そしてエリオットの目がいったのはそれぞれが強面の顔つきだった事だ。エリオットはごくりと生唾を飲み、覚悟を決めて声をかけた。

「あの!すみません、僕はエリオットと言います。ここは一体どこ」

「おい、お前!こんな所で何をしてる?!」

「そんな影も無いところにいたらすぐに見つかるぞ!!!」

「バカ!もう放っておけ!!!」

男達はエリオットの言葉を遮り、声を上げる。何を必死になっているのか茂みからエリオットを呼ぶ者、放っておけと言う者、周りを挙動不審に見渡す者等と男達は何かに怯えているようだった。

「え、影って····」

エリオットがそう言った時、白い砂浜に1つの黒い影が現れる。鳥とは違う形の影が。




「みーーーつけた!」





影は楽しそうな声と共にその正体を表した。

ふわりと空を舞いながら。


「····ルイス·····?」

太陽を背にした少年は髪が金色に見え、潮風になびく髪は柔らかそうだった。思わずエリオットはルイスの名前を呼んだが少年は気づかなかった。

その少年シャツは歪にも綺麗に布を繋ぎ合わせた変わった緑色の服。焦げたような赤髪。群青色(ウルトラマリン)の海ような瞳をしていた。

「こんな遠いところまで逃げるなよなー」

白い砂浜に降り立った少年はやれやれと言うように首を軽く降ると白い羽のイヤリングが揺れた。

「ぴ、ピーター!!!!!」

男達がひぃっと悲鳴を上げる。

すると同時にピーターと呼ばれた少年は地面を蹴ると一瞬で男達との間合いを詰める。

「っくっそぉ!!!!」

男達はがむしゃらにピーターに掴みかかるがそれを見越したようにピーターは悠々と避ける。

そのままピーターは再び空へと飛び、男の襟首を掴と勢いのまま背負い投げた。

「よぉし!つぎぃ!!!!」

ピーターは楽しそうに次々と男達を相手にした。


一方でエリオットは蚊帳の外だった。

「(飛んでる·····ルイスくらいの子供が······)」

ピーターは当たり前のように空を飛び、次々と男達を簡単を投げ飛ばす。それはまるでおもちゃを投げるかのようだった。

「全くしつこいなぁ」

しかも息切れする男達とは違いピーターは余裕そうで、男達を窘めるように言った。

するとピーターの後ろでぎらりと輝く光がエリオットに見えた。

「(ナイフ!)」

男の1人がピーターの背後でナイフを取り出していた。男はピーターに気づかれないように背後から間合いを取り、様子を伺っているようだった。

ピーターは気づいていない。

エリオットは思わず走り出しすが男はナイフを振り上げた。

「ピーター!うしろ!!!!」

勢いのままエリオットは叫ぶ。

その声に驚き男は一瞬動きを止め、その隙にピーターは瞬時に空へと飛んだ。

良かった!!!エリオットがほっとしたのも束の間。

「お前!海賊じゃないな!!!!」

大柄な男がエリオットに殴り掛かる。

バチン!!!!!っとエリオットは頬を殴られ、耳鳴りがした。

口からは血が滲み鉄の味がし、そのままよろよろと倒れそうになる。

「はっ!ひょろいなぁ!!!てかお前まだ子供じゃないか!!!!!アッハッハッハ!!!!!吹っ飛ばなかっただけ褒めてやるよ!!!」

エリオットがよろけたのが面白いのか大柄な男がげらげらと腹を抱えて笑い、それを見ていた男達もピーターよりもエリオットに目がいき、同じように笑いだした。


_______バキッ!

すると瞬間。大柄な男が笑い声が止み、嫌な音が響いた。

「いってぇぇえええ!!!!!」

大柄な男の鼻からは血がとめどなく流れ、その鼻は赤黒く変色し、男は痛みのあまりその場にうずくまった。

そして大柄な男の目の前にエリオットは立っていた。エリオットの握られた拳は大柄の男の血が付着し、同じく拳は赤黒く変色していた。

「てめぇ、ふざけたマネしてんじゃ」

大柄な男が顔を上げると同時にエリオットはその顔を足で蹴る。すると鼻に蹴りが当たり、余計に大柄な男は悲鳴を上げて悶えてた。

エリオットは肩を震わせてぐっと声を上げた。


「海賊じゃないって言ってんだろう!!!」



それはエリオットの怒りの爆発だった。



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