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ティンカーベルの娘  作者: 花島
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3.告白



「……ルイス」



エリオットは目を開けたが開けたはずなのに視界が暗い。

「(夢…?いや、夜、なのか‥‥一体、僕はどうして‥‥・)」

エリオットは状況を理解できず、取り合えず身体を起き上がらせた。身体を起き上がらせるとぼんやりと視界が映えていき、ゆっくりと周囲を見渡した。地面はひんやりとした冷たい硬い土、周りはごつごつとした岩が積み重なりエリオットのいる場所を中心にドーム型になっていた。そして、何より気になるのは幾つもの堅い幹が天井の岩から地面まで聳え立っていたことだった。

「なんだ、これは‥‥…」

幹は不揃いにも幾重にもそびえ立っている為、エリオットはその先に進むことも出来ず、恐る恐るその幹に触れるが押しても引いてもぴくりともしなかった。幹のその先からは小さな松明が一つ灯されエリオットの場所からは見えないが恐らく出口への道が続いていた。

「これは、まるで牢屋じゃないか‥‥」

薄暗い牢屋。そう言葉にしてエリオットは身震いした。幹を掴む手に力が入り、頭の中が混乱しする。

「(どう見たってここは牢屋だ!何があったんだ、一体どうして‥‥‥あれ、そもそも僕は‥‥)」

エリオットはある疑問が浮かぶと嫌な汗がジワリと流れた。考えれば考えるほど不安がエリオットを襲う。何故、どうして、ここは、僕は、幾つもの単語が頭をぐるぐる回る中、エリオットの視界に小さな光がきらりと差し込んだ。顔を上げるがその光は既に消えていたが、エリオットは幹から先の様子を探るべく身を乗り出した。



「あら、もうお目覚め?」



エリオットは唐突の声にびくりとして幹から手を放し、後ろへ下がった。鈴を転がしたような小さな女の子のような声。だがそのような少女らしき姿は見えず、さらにエリオットは混乱した。


「怯えているの?まぁ、そうよね」


クスクスと楽しそうに女の子は笑っている。エリオットは周囲を見渡すがやはり誰もいない。なんだ、やっぱりまだ夢を見ているのか、エリオットはそう思い。視界がぐらりと歪んだ時、また小さな光が見えた。そして今度はエリオットの目の前にゆっくりと浮遊する。



人間(あなた)妖精(わたし)を見るなんて初めてでしょう」




目の前の小さな光は楽しそうにそう言った。

胸まであるであろう向日葵を思わせる金髪(ブロンド)に黒のカチューシャ、優しい薔薇色(ローズ)の大きな瞳の女の子が小さな光を纏っている。エリオットとは違うのはその柔らかな光を纏い、薄く繊細な羽が背中から伸び音もなく羽ばたいている。身長はエリオットの手のひらに収まるぐらいだった。

「…妖精(ピクシー)‥‥‥」

「ふふ、初めまして。人間。」

妖精(ピクシー)はエリオットの反応を見て楽しそうに笑う。エリオットの耳を鈴を鳴らしたような声が燻ぶる度にエリオットの耳は熱くなった。

「‥‥‥」

「固まったの?言葉が通じてないわけないわよね?」

困ったわ、と言うように妖精(ピクシー)は首を傾げると、サラリと金髪(ブロンド)が揺れた。暗闇なのによく映える綺麗な金髪(ブロンド)だとエリオットはぼんやりと思い触れたくなる衝動にかられた。

「ねぇ、ちょっと名前言える?人間」

「…‥‥エリオット」

「話できるじゃない、なら私の話をよく聞きなさい。人間」

にっこりと妖精(ピクシー)が笑うとその目を引く薔薇色(ローズ)の瞳が優しく垂れた。その笑顔を見るとエリオットの心臓はドクンっと高鳴り、全身が一気に熱くなった。少しだけ身体が震える感覚にも襲われ、さっきまでのぐるぐる回っていたエリオットの頭も思考が停止した。


「‥‥きみの名前は?」


やっと出たエリオットの声は少しだけ震えていた。女の子は薔薇色(ローズ)の瞳でジッとエリオットを見つめ、エリオットはまた心臓が高鳴った。



「シャーミー·ベルよ」



「一目惚れをしてしまった。君が好きだ!」



シャーミーが名前を告げ終わるのと同時に早口でエリオットは伝えた。唐突の告白はよくこの牢屋に響いた。エリオットははっと我に返り、また違う意味で身体が熱くなった。

「(うわ·······な、に言って·········)」

この状況で相手は未知?な妖精(ピクシー)に告白、ましてや一目惚れ等、自分自身何を言ってるのかわからなかった。でもエリオットの心臓が痛いほど高鳴っていて、どうしても目の前の女の子から目が離せなかった。

「ふふ········」

シャーミーは少し瞳を伏せて髪を不意に触った。

そしてそのままニコリと綺麗に笑って見せた。



「ワニの餌にするわよ」



先程の鈴なる声を恐ろしいくらいに低くしてシャーミーは笑顔で告げた。


エリオットはその声音にビクリと震えた。するとシャーミーはそのまま肩を震わせて怖いくらい低い声で笑ってみせるとその薔薇色(ローズ)の瞳をさらに拡げて弾けるように声を上げた。

「不愉快だわ!この私に発情してるってこと?信じられない。私をバカにしているの?貴方より小さいからって!妖精を見かけでバカにすると痛い目にあうわよ?!人間は野蛮だけど、鳥や蟻よりは浅知恵が働く種族と聞いていたけどこんなきゅ、求愛行為なんて·········頭おかしいんじゃないの?!」

シャーミーは息継ぎせずに喋るが、全てを吐き出す頃には顔を真っ赤にさせて肩を震わせていた。

「そ、そんな·····まるで獣みたいに」

「獣でしょうに」

ギロリとシャーミーはエリオットを睨むと口を噤んだ。

「ふん、まぁいいわ。今の話は聞かなかったことにするから」

えっと思うエリオットとは裏腹にシャーミーは少し息を落ち着かせるとその瞳に再びエリオットを映した。

「まず今、目を覚ましたようだから代わりに状況の説明をしてあげる。人間(あなた)は浜辺で倒れていた所をここまで連れてきたのよ。まるで干からびたヒトデみたいになっていたから海に投げてあげようかと思ったけど·······まぁ色々事情があって連れてきたの。」

エリオットの頭上をクルクル周るシャーミーはエリオットの身体を隅々まで観察しているようだった。エリオットは少しこそばゆく身を縮めると、シャーミーは再びエリオットの目の前でふわりと降り立ち、視線を合わせる。

「ふん·······どうやら海賊では無いようね。海賊の刺青も特にないようだし」

「か、海賊?!」

エリオットは船乗りではあるが海の盗賊と言われ、愕然とする。

「あの、僕は確かにしがない海の船乗りだけど、そんな盗賊紛いなことは決してしない!ずっとルイスの為に、弟の手本になるように誠実に働いて来たんだ!あ、ルイスっていうのは僕の弟で、僕達は2人暮らしをしていて」

エリオットは必死にシャーミーに訴えかけた。海賊等疑いを賭けられればこの先、職を失う。しかもあの会社だと間違いなくクビだ。そうすれば明日は路頭に迷う。エリオットの頭は一気に職を失う事への絶望を感じた。ここでシャーミーが海賊だと疑いをかけ、ジェイコブに耳に入れば僕は終わりだ!とエリオットはぐるぐると考えていた。

「わ、わかったわよ。そんなに必死にならなくても人を殺した事なさそうな顔してるもの」

シャーミーはそんなエリオットに驚いたのか、引き気味に答えた。するとその時。



______ドォォオオン!!!!!




凄まじい爆発音がエリオットとシャーミーの耳を貫いた。同時に空間が揺れ、天井からは少しの砂埃と小石がパラパラと落ちた。爆発音は外から聞こえ、松明までもが危なく傾きかけていた。

「な、なんだ?一体何があったんだい?」

エリオットはシャーミーに問いかけるが、シャーミーは視線を出口の方へ向けるとエリオットの問いかけに答えずにさっきの優しい柔い浮遊とは違く、まるで閃光の如く去っていった。


1人取り残されたエリオットは呆然としていた。

静寂がエリオットの冷静さを呼び起こし、シャーミーとの会話がフラッシュバックした。そしてそのまま悶え、地面に頭を打ち付けた。

「(ぼ、僕は、一体何を·····?!なんでこんなところで告白?!いや、でもあんな、あんな綺麗な子初めて見た······でも、妖精(ピクシー)って····)」

サラリとした髪に小さな身体でも目を引くあの瞳。エリオットの焦げた肌と真逆の雪のような肌。鈴を転がした幼い声音。そして自分に自信たっぷりなあの口調。エリオットはシャーミーを思い出すと思考が停止した。

「(やっぱり、あんな子見た事ない······あんな妖精(ピクシー)なんて)」

妖精。童話や伝説で聞く空想の名前だ。だが、先程までエリオットの前にいたのは紛れもなく童話や伝説に出てくる妖精(ピクシー)そのもの。

背中から伸びるレースよりも更に繊細でキラキラとした羽。

エリオットの手のひらに納められるほどの小さな身体。

そして光を纏う神秘さ。

「······ここは、一体どこなんだ?」




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