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中庭ランチを再開したり、のんびり過ごしたりして一週間ほどたった。
聖女の派遣は、相手国と色んな条件や誓約を交わして行われる事になった。
これからその条件や誓約なんかをのめる国と交渉するらしい。
そういう事でもう少し時間はかかるだろうけど、まぁ、行く事は決まった。
そこはアルベルトやスヴェン達の仕事だ。お任せしよう。
最初の行先は、東に隣接する三つあるうちの一つ、スマラグティーという国だ。
一緒に行くのは、攻略対象sの四人と…
って! ちょっとまった!
エミル!あなたは私を帰す方法を探さなくちゃでしょ!
「そちらもちゃんとします。宮廷の魔法使団とは転移魔法を使えば行き来できるので問題はありません」
だって。
他国だし、エミルの結界魔法や、もしもの時の転移魔法はなくてはならないものだそうだ。
まぁ自分の仕事(私を帰す事)をしっかりしてくれるなら文句はないけどさ!
などと憤っていたけど、後でルイーセに言われた。
「聖女様、筆頭魔法使い様がいないと…、虫が…」
そうだった!
それはエミルにいてもらわなくちゃならない!!
偉そうにしちゃってごめんねエミル!
よろしくお願いします!!
話を戻して。
それから第二騎士団から選抜の二十人、それとさっきの会話からわかってもらえると思うけど、今回もルイーセが来てくれる事になった。
ルイーセは(何と!)未亡人なので貴族の娘として、家の利益になる次のお相手に嫁ぐ義務があるらしいけど、聖女様の侍女の方が価値があるんだそうだ。
そうかもね。
聖女様って王様より上みたいだし。
という訳で、前回と同じ人数構成になった。
準備は着々と進んでいる。
馬車もそのまま、有事の際には一瞬でウィリディス国の宮廷に転移する。
もちろん居心地の良さも続行だ。
当たり前だけど、今回から他国の騎士も同行する。
聖女様を奪われないように、澱みまでの道案内は二名まで。
澱みの場での魔獣討伐はその国の騎士たちがする。第二騎士団は祈る私を守るだけ。
澱みはウィリディスと同じかな?
というか、世界中の澱みって、みんな同じもんなのかしら?
まぁ世界中で聖女召喚をしているって言ってたし、どの国にどんな聖女様が召喚されたとしても澱みを浄化しただろうから、同じかと思うけど。
ちょっと考えて、単純にそう結論付ける。
行けばわかるよね。この国で初めて祈った時も勝手に身体が動いたし。
とりあえず準備が終わるのを待とうか。
色々な準備はお任せしているけど、ちょっとだけ気になる事もある。
旅に同行する人選は団長と副団長がするので、ちょうど話す機会があったコンラードに尋ねてみた。
もちろん聞いたからって口出ししないよ!
「コンラード、今回の旅で第二騎士団を選ぶ基準?みたいなものってあるの?」
「あります。剣の腕はもちろんですが、今回は他国です。剣の腕とともに、大陸公用語かスマラグティー語が話せる事が必須になります」
大陸公用語?
聞くところによると、この大陸で一番最初に建国したという、ニウェウスという国の言葉がこの大陸の公用語になっているんだって。
元の世界でいうとこの英語ってところかな?
そのニウェウス語か、浄化の旅先のスマラグティー語が話せなければならない、と。
そりゃまぁそうだよね。
基本、魔獣討伐はその国の騎士さんたちがやるらしいけど、いつ何が起こるかはわからない。
もしかしたら一緒に魔獣討伐する事になるかもしれない。
その時に言葉が通じなかったら大変だ。流暢ではないにしても意思疎通が出来るくらいじゃないと困るよね。
「大陸公用語ってみんな話せるの?」
「そうですね、第一と第二の騎士団は基本貴族で構成されています。貴族なら皆通う学園で習っていますし、全く話せない者はいないでしょう」
英語みたいなもんなら、中学英語程度は話せるって事かな?
「みんな話せるならどう選ぶ…、あぁ、その中でも上手に話せる子とそうでもない子がいるってことね?」
「そういう事になります。話せるだけでも選びませんが。やはりそこは剣と言葉の両方、それと人柄も大事な要素です」
「他国に遠征だもんね?」
「はい」
ロイはどうなのかな~?
国内の浄化の旅には選ばれていたんだから、剣の腕はあるって事だよね。
人柄も合格だったんだろうし。
私的にはバッチリだけどね!
ロイを入れてほしいなんてもちろん言わない。
聖女様が贔屓をしちゃいけないと思う。
しちゃってる感もあるけど、意識してはないからね!
でも、一年以上顔が見られなくなっちゃうのかと思うと、やっぱ淋しい。
もしかしたら、今しかない!という帰還をしちゃうかもしれないし。
そうしたらもう二度と会えなくなっちゃうかもしれない。
そう思うとやっぱ胸が痛むんだわ。
今でも私は、しっかり帰りたいと思っている。
だけど好きの気持ちも大きくなってるんだよね…。
困ったなぁ。
二日後に隣国へ旅立つという日の夜。
あまりに月が明るくて綺麗だったので、ベランダに出て見たくなった。
自室のベランダといえど聖女は一人で出てはいけない。
ドアの外に立つ護衛騎士君に、一緒にベランダに出てもらえるように頼みに行くと、
おぉ!二人のうち一人はロイじゃないか。
どういうやり取りがあったかわからないけど、ベランダにはロイが来てくれる事になった。
もう一人は一度崩れ落ちると、、、立ち上がって、そのままドアの前に立った。
何かごめんね? 後はよろしくお願いします。
ロイと二人、ベランダに出る。
ルイーセは気を利かせて部屋の中に残っている。
何も言わないけど、どうも前回の浄化の旅の最中に薄っすら気づかれたようだ。
沈黙は金ってね。よくできた侍女だよ♪
えっと…。
二日前なのに夜勤をしているという事は、ロイは今回の旅には同行しないのかな?
ドキドキしながら尋ねると
「いえ、今回も聖女様をお守り出来る事になりました」
月明かりに、笑顔がしっかり見えた。
よかった!
私はとても嬉しくなった。
とても嬉しくて、あぁ、困ったなと思う。
想いが深くなって、迷う様になったら困るなぁ、と思う。
困るけど……、
好きだと思う人と一緒にいられる事は素直に嬉しい。
しばらく無言で過ごす。
「聖女様、お寒くはありませんか?」
ふいに声がかけられた。
「全然!月が明るすぎて暖かいような気がするわ」
風はなく過ごしやすい夜だ。
ロイと一緒だと思うと心拍数も上がって熱いくらいだしね!
「そう言われれば、今夜はとても月が綺麗ですね」
あら、ロイさんや。それを言っちゃう?
もちろんロイは言った意味を知らない。
感じたままを言っただけに過ぎない。
それはわかっているんだけど、日本人にそれを言っちゃあ……、さ?
私はニヤニヤしてしまった。
ちょっとテンションも上がってしまったんだよね。
だから、魔が差してしまった。
「ロイ」
「はい」
「葵って言ってみて」
「アオイ?」
「疑問形じゃなくて、ちゃんと」
「アオイ」
わぁ! 思っていたよりグッときた! ヤバい!
私は乙女として許せない程ニヤけそうになる表情筋に、力をこめた。
「聖女様? アオイとは?」
「私の名前♪」
!!!!!
隣で固まる気配がした。
ふっふっふ。
聖女にだって名前くらいあるのだよ☆
でも不意打ちは驚いちゃうよね。
ごめんね、ロイ。
二人で月の光を浴びている。
固まりが解けるまで、もう少し。




