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10.5




◇◆ロイ◇◆




浄化の旅が終わり、祝賀会も終わり、旅に同行していた我らは通常勤務に戻った。


国中の澱みはすべて浄化できたので、聖女様が礼拝堂で祈る事はもうない。

という事は、中庭で昼食を召し上がる事もなくなったという事で、必然的に我らと顔を合わせる事もないのだ。


淋しい……。


浄化の旅に同行した団員は等しく元気をなくした。

毎日、あんなにも近い距離で聖女様と過ごす事が出来ていたのだ。


お言葉を交わす事は叶わなくとも、そのお姿を見、お声を聴く事が出来たのだ。

それがなくなってしまった今、元気がなくなるのは当然だった。


その淋しさを慰め合う様に、浄化の旅に行った者同士集まって、何かというと旅の話をしていた。

それは居残り組の気持ちを考えない、無神経な行為だったと後から気づく。




居残り、といっても閑職という訳ではない。

それまでも第二騎士団は宮廷の警備をしていた。

半数近くの団員が浄化の旅に出てしまったのだから、残った人数で宮廷の警備をするのは単純にいって倍の仕事量だったろう。


約半数になってしまったのに、期間限定だからと団員の募集はされなかったのも厳しい。


自分が残された方だったらと考える。


浄化の旅に同行でき、聖女様をお守りできるという栄誉を与えられ、旅から戻れば褒賞までもらえた。


浄化の旅に選ばれなかったならば、悔しくてこの一年眠れなかっただろう。

そのくせ仕事量は今までの倍だ。


いや、浄化の旅に出た俺たちだって野営続きや魔獣討伐と、かなりハードな一年だった。

だけどその苦労や危険よりも、聖女様と一緒に旅ができる喜びやお守りできる誇らしさの方がまさっていた。


どちらを選ぶかと聞かれたら、全員浄化の旅と答えるだろう。

そんな事、ちょっと考えたらわかる筈なのに


「あ~ら、それじゃあ次回は、今回残って宮廷を守ってくれてた子たちと一緒に行こうかしら?不公平はいけないもんね~♪」


聖女様にそう言われて初めて気がついた。


俺たちは全員ハッとした。

残る事になった自分を思い浮かべる。

それはとても辛い想像だった。


俺たちは心から反省した。

意識してそうしていた訳ではなかったが、聞こえるところで話していたり、腹立たしい嫌な奴だったよな。すまない。


だけど…。

次回があったなら、今回残っていた団員に浄化の旅のお供を譲れるかと聞かれたら、それは嫌なのだ。

なんて俺たちがどう思おうと、選抜するのは団長と副団長なんだけどな。




俺たちが心から反省したとわかった居残り組は、怒りの半分くらいは許してくれたと思う。


俺たちの軽率な行為は数日の事だったけど、それまでの一年ほどの我慢と、目の前で与えられた褒賞は、ずっと黙って耐えていたあいつらの怒りに火をつけるには十分だった。


逆の立場で考えれば気持ちはよくわかる。

それらは望んだからといって手にできるものではなく、浄化の旅の選抜も褒賞も上が決めた事だけど。

もちろん文句などない、感謝すべき事だ。実際ものすごく感謝した。


これから俺たちはあいつらの信頼を取り戻さなければならない。

人間同士だから、多少の好き嫌いや、気の合う合わないはあっても、職務上信頼関係はなくてはならないのだから。




幸運な事に、それはそう時間がかからずどうにかなった。

他国への浄化の旅が決まったからだ。


新しく選抜されて、今回は浄化の旅に同行できる者、前回は行けたけど今回は残る事になってしまった者、人選は半々で構成されるという。


今回の旅への選抜基準は、剣の腕もさることながら、大陸公用語か行先国のスマラグティー語が話せる事が必須だった。


……まずい。

俺は座学はギリギリの成績だったのだ。

リスニングテストもあると聞いてからの数日間、俺は生涯で一番勉強した。




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