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1.5




◇◆アルベルト◇◆




「代表者は?」


直接、心と身体に心地よい声が響いた。

その一声で、その場にいたすべての者を魅了したとわかる。


ハッとして慌てて名乗ると、聖女様はジッと私を見られた。



聖女様―――



確かにこの方は聖女様だ。

誰に言われなくとも、その存在がそう告げていた。




()()、世界に最初の澱みが現れたのは、十年ほど前といわれている。

二〜三百年に一度現れるという澱みは、世界の中心から徐々に広がっていって、大陸の西よりにある我が国には五年前から現れるようになった。


我が国は武力でも魔力でも他国と比べて劣る事はないが、終わりのない魔獣の発生に次第に疲弊していった。

弱小国では魔獣に飲み込まれたところもある。

魔獣に対する恐怖だけではない、世界は祖国を失う恐怖にも苦しめられるようになった。




私はウィリディス王国の第二王子として生を受けた。

幼き頃から賢王といわれる父を尊敬し、その父をも凌ぐだろうといわれる兄を素直に賞賛し、将来は兄を支えられる重鎮になろうと、一筋に研鑽してきたただの男である。


国王()王太子()はなくてはならぬお人だ。

聖女様の召喚には膨大な魔力が使われるという。

もしもの事があったら国にとって大事になる。という訳で、聖女様ご召喚の責任者は私に任じられた。


身に余る光栄だ。

我が国のために、身命を賭して全力で事に当たると誓った。




澱みと魔獣の記録は昔からある。

それから、世界を救う聖女様の記録も。


我が国だけではない、世界中で聖女様を召喚しようとしていただろう。

我が国が聖女様の召喚に成功したのは、当代一と呼び声高い魔法使いのおかげだ。


この世に聖女様がご降臨されると、それは世界中に知れ渡る。世界の空気が変わるからだ。

どの国も喉から手が出るほど聖女様を欲している。決して奪われないようにお守りせねばならない。




ご降臨された聖女様は、薄暗い中でもわかる艶のある黒い髪と、潤んだような黒い瞳の神秘的なお方だった。


薄いオレンジ色のジャケットと、お揃いのひざ丈の…、スカートだろうか?こんな短いスカートは見た事はない。

自分を含め、皆顔を赤くした。


聖女様は台座に立ったまま、ゆっくりと睥睨された。

王子という地位が何の意味もないと思わせる神々しさ。

この世のすべてを掌握できるだろう、力を持ったお声。


聖女様の存在感に飲まれて、私は残念なほど支離滅裂になってしまった。




場所を移して話し出した聖女様は、容赦なく私たちを非難した。

聖女様に言われて、初めて自分たちがいかに身勝手だったかに気づく。


古い文献には、聖女様は澱みが現れた時に世界を救ってくれる存在と記されている。

有史以前より何度も繰り返されたそれを、私たちは当然のものと考えていた。


今回だけではなかったかもしれない。

どの聖女様方もご自分を犠牲にして、私たちの世界を救ってくださったのだ。


そうと知ってうなだれる私たちを見て、聖女様は慈愛の微笑みを浮かべられた。

当たり前などと思わず、誠心誠意聖女様に尽くし感謝申し上げねばならない。




その後の話し合いでは、神秘的なアレやソレが何だったのかと思うくらい聖女様はビジネスライクだった。

宮廷の、契約を専門にしている部署でも驚く程の細かい取り決め。

相互に不利益にならないよう公平に作られていく契約書。


そう!契約書だ!

驚いた事に、聖女様は祈りを仕事だと言い、その報酬を求めたのだ!


そうしてできた契約書は反故できないよう、また違反があったら罰せられるようにと魔法がかけられた。


聖女様のお力に縋るしかないと思っていた私たちは心底驚いた。

聖女様の祈りのお力の前に、何かもう、色々と驚いた。


その後、もっと驚く日々が始まるのだけれど。



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