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さて、一番大事な、私が元の世界に帰れるのか帰れないのかだけど。


祝賀会の後に、王様の執務室でその報告がされた。

その場には王様と宰相さん、攻略対象sと魔法使団まほうしだんの副団長さんがいる。


結果からいうと、()()帰れる方法はみつかっていないとの事だった。


「エミル団長が聖女様と浄化の旅に立ってしまったので、恥ずかしい話ですが、残った者だけでは遅々として進まず…。まことに申し訳ございません」


副団長が大汗をかきながら報告してくれたけど…、ちょいとエミルさんや。


私はジロリとエミルを見た。


「聖女様を守る事が優先されます」


何しれっと言ってんの!


「そんな訳あるかぃ!浄化するのは私がする事、私を帰す方法を探すのはそっちがする事だよ!私を守るならコンラードやみんながいるじゃない!私を帰す方法を探す事がエミルにしかできないのなら、それをしてほしかった!!」


叫ぶように言うと、エミルは盛大に目を泳がせた。


「エミルにはガッカリだよ!当分顔を見せないで!」


顔も見ずにドアへ手を向ける。さっさと出ていけ。


「聖女様… 今から探しますから…。 

…… …… ……

……すみませんでした」


そう思うなら早よ行け。

顔をそむけたまま無言でいると、トボトボという足音を残して、エミルは部屋を出て行った。


「大変申し訳ございませんでした!私どもも精一杯エミル団長を補佐いたします!聖女様、何卒ご容赦を!」


副団長は必死に言うと、エミルの後を追って出て行った。


部屋の中はしーーーんと静寂が支配している。


しばらく後、気まずそうに、ちょっとご機嫌を伺うように王様が話し出した。


「……聖女様、そういう訳なので、今後の事について話し合わねばなりません。まずは聖女様のご希望を伺いたい。いかがなされたいか?」


私はちょっと考えて質問する。


「まず確認したいのですが、帰れるか帰れないかはわからないという事ですか?」

「そうなります」

「せめてそれがわかるのは、どのくらい先かわかりますか?」

「それもわかりません」

「帰れるとなっても、それですぐに帰れるかという事も?」

「わかりません」


王様に代わって宰相さんがすまなそうに答えてくれた。そして、


「わからない事ばかりで申し訳ありません。聖女様を召喚致しましたのが筆頭魔法使いなので、帰せる事が出来るなら、やはりあの者だけとなりましょう。

今後の進展は魔法使団から逐一報告させます」

「……はぁ。そういう事でしたらしょうがありません。今後の事は少し考えていいですか?」

「もちろんです」


という訳で、保留になった。




祝賀会から二日たった。


やる事もなくて、与えられた自室でボーと過ごしている。

運動不足になりそうだ。


旅は過酷な事も多かったけど、移り変わる景色を眺めたり、食事の用意を手伝ったり、ルイーセや女性騎士のみんなと女子会をしたりと楽しい事もあった。


一緒に澱みを浄化するという連帯感や、苦労して澱みをなくした達成感はなかなかいいものだったし、澱みがなくなって大勢の人たちに喜ばれる事は嬉しかった。


魔獣討伐している騎士のみんなは、ケガや、今回はなかったけれど、もしもの事だってあったかもしれない。


だけど、思い返せば充実した毎日だったなぁ…。

あ、虫だけは嫌だけど!


澱みって、この国だけじゃなくて世界中に現れてるんだよね…。


浄化の旅で巡った先にいた人たちは本当に困っていた。

澱みをなくすと、平和な暮らしに戻れると、心から喜んで感謝された。


魔獣に蹂躙された土地はまだまだ大変だろうけど、きっと逞しく立ち直っていくだろう。

復興する時は経済も回ると聞いた事がある。

建設とか仕事が増えるからね。


ふと思った。

他国なんかはどうするんだろう。


聖女は世界に二人現れないと、最初に聞いた。

今、私がここにいるという事は、他国には聖女はいない訳で、そうなったら澱みはあり続ける訳で、人々の生活は魔獣の脅威にさらされているままという事になる。


私は、エミルが帰れる方法を見つけたら帰るけど、それがいつかはわからない。

もしかしたら見つからないかもしれない。


もしも…、もしもね? 


他国の澱みを浄化しに行ったとして、最中で帰れる方法が見つかったとしたら…。

途中でやめて帰っちゃってもいいのかな?

いや、帰る気になるものかな?


今この時でなければ帰れません、とか言われたら帰っちゃうかもしれないけど、今!という訳ではないなら、やり始めた事を途中で放り出すなんて、まっとうな社会人ならやらないよね。


私はそこそこ真面目な、典型的な日本人で…。

きっとやり終わってからじゃないなら帰る選択はしないだろう。

もしも他国の澱みを浄化しに行ったなら、せめてその国が終わるまではやりとげると思う。


そこまでの覚悟はあるか? 

と考えて、悶々としている。


それに、やろうと思ったって、私の一存だけではできないだろう。

国同士の問題があるだろうし、亡命?してまで浄化しに行く気はない。


だけどこのまま何もせずただ待っているのも辛いんだよね。

私は根っからの貧乏性で、働かないでご飯を食べるのは気に病んでしまうのだ。

働ける健康な身体があるんだし、何もしていない無駄な時間もある。


悶々と考えて四日目、アルベルトに話してみる事にした。


私は、今この時だけしか帰るチャンスはない!という以外は、その国の浄化が終わるまでやりとげる覚悟をしたのだった。




「アルベルト、本題から入っちゃうけど、私を高値で他国にレンタルしない?」

「は? レンタル? 高値? 聖女様何をおっしゃっているんですか?」


私の考えとは、こういうものだ。


世界に現れた澱みのせいで、どの国も困っている。聖女は喉から手が出るほどほしいよね。

そこで高額なレンタル料で私を派遣する。

この国と同じく浄化巡りをして澱みをなくすのだ。


高額なレンタル料はこの国の復興の支援金になる。元の状態になるまでにはお金はたくさんかかるよね。


それにこの国だって、世界が安定しなければ外交もできないでしょ?

それまでは貿易だってあったでしょうし。


という訳で、どうでしょう?

とりあえず最初は隣の国あたりからとか。


「そんな!聖女様を危険にさらすわけにはまいりません!国内の旅でもずいぶん反対があったというのに、わざわざ他国のためになど…」

「他国のためっていうけど、さっきも言ったように外交的に他の国も安全になってもらわないと困るでしょ?」

「それはそうですが……」


と、この案はまた持ち帰りになった。


まぁそうだよね。

私と第二王子だけで決められる筈もないし。


そして今回も時間をかけて話し合いはされた。

今回は自国じゃなくて他国だしね。もしもの保険(聖女様)を奪われちゃ困るしね。




話し合いは長引くとふんで、中庭でのランチを復活してみた♪


防犯上王宮から出られない私は、中庭か王宮の庭園くらいしか行けない。

庭園にも行ってみたいけど、行くならまた大規模な結界を張ってもらったり、騎士さん達の護衛場所の取り決めなんかがめんどくさそうで、だったら中庭でいいやとなったのだ。


中庭なら、もう結界も張ってあるし、第二騎士団みんなのフォーメーションも出来上がっているからね。


今回はお昼休みが一時間という縛りがないから、好きなだけゆっくりできる。

第二騎士団みんなには余計な仕事を増やしちゃって申し訳ないけど、今までずっと一緒にいたんだもん、急に会わなくなったら淋しい。


それに…、やっぱりたまにはロイの顔が見たい。


ゆっくりお昼ご飯を食べたら、みんなのところにおしゃべりしに行く。あの頃と同じだ。

浄化の旅に一緒に行かなかった子たちとも久しぶりに会えて嬉しい。


何日か過ごしているうちに、何となく、一緒に旅に行った子たちと残った子たちの間に、隔たりみたいなものを感じる…?


というか、俺たち聖女様と一緒に過ごしてきたんだぜ♪みたいな、ちょっと上からみたいなものを感じたので


「あ~ら、それじゃあ次回は、今回残って宮廷を守ってくれてた子たちと一緒に行こうかしら?不公平はいけないもんね~♪」


と言うと、青くなって態度を改めた。

よしよし。


別に全入れ替えはしないよ。

というか、決めるのは団長と副団長(コンラード)だし。


……ロイは入れてほしいなぁと思っちゃうのはしょうがないよね。

言わないけど。




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